第71話 スパムポーション
新しくできる町。
モンハンシティに出来る冒険者支部。
その支部長に、今日は会いに来ていた。
「ほほう。これが男爵家秘伝のポーションですか」
支部長
精霊草の収穫を終え、それを使ったポーションを生成。
それを新しくできた町で販売する訳だが、その管理は冒険者ギルドに管理を任せる予定だった。
冒険者ギルドに委託するのは、適正数を冒険者達に配分してもらうためだ。
より多くの冒険者達の下へ行き渡る様に。
ま、要は買い占めを防ぐ為だ。
そのためには、冒険者達を管理しているギルドの協力が必要不可欠である。
「名称は男爵様から名を頂き、スパムポーションとなっております」
名称は正直なんでもよかったのだが、スパム男爵家の特産である事が一目瞭然になった方がいいという事で、この名に決まっている。
正直、自分の家門名がついたポーションが付いた商品を流通させるのはちょっと恥ずかしいが、まあ仕方ない。
「効力はハイポーションの三倍程。さらに回復は即時となっております」
この世界には、ゲームの様な回復アイテムがあった。
ポーションである。
効果は浅い切り傷や打撲、骨に入ったちょっとしたひびを回復させる程度だ。
で、回復速度なんだが、ダメージ具合にもよるが、飲んでからだいたい10分ほどかけて回復させる感じになっている。
要は徐々に回復的な効果だ。
大精霊だったカッパーが使った回復魔法と同じような感じの。
そしてその上位にはハイポーションがあり、此方は骨折や結構深い傷も回復してくれるようで、かなりの回復効果が期待できた。
但し、こちらもポーションと同じく10分ほどかけて回復する事になる。
そのためポーション類は戦闘中に飲むのではなく、戦闘後、もしくは強敵戦なら事前に飲んでおく必要があった。
だがこのスパムポーションは違う。
飲めばその時点で一瞬で怪我は回復し。
その効果は手足や内臓の欠損すら再生させてしまう程だ。
「さ、三倍ですか……」
「ええ。手足の欠損なども即時に回復する事が出来るようになっております」
「な、なんと……」
ギルド長がジャガリックの説明に目を丸める。
「効果はこのエクス・カリバルが保証しますわ」
ギルドとのやり取りに当たり、エクスを連れて来ていた。
元黄金級パーティーのメンバーで、Aランク冒険者の彼がいた方が話を進めやすいと思ったからだ。
「もし本当なのでしたら……まるでエリクサーではありませんか?」
「流石にそこまでではありませんよ」
この世界にはエリクサーが存在している。
死んでさえいなければ、どんなけがや病気も瞬時に回復すると言う奇跡の霊薬だ。
「ダメージが酷過ぎれば回復しきれませんので。それに病気などには効果はありませんので」
スパムポーションにはエリクサーほどの効果はない。
何故なら、そうならない程度に作っているからだ。
ぶっちゃけ、4人の精霊の力を合わせればエリクサーを作り出す事も可能だった。
生成量は極端に減ってしまうと言う欠点はあったが、それでもエリクサーとして売り出した方が遥かに稼げただろう。
なんなら、その功績で王家に返り咲く事も出来たかもしれない。
だが俺はあえてそれを避けた。
何故なら、今この世界でエリクサーを唯一供給できているのがこの世界で最大派閥を誇る宗教・エルロンド教だからだ。
その供給量は年に1,2本程度。
超貴重で、しかもばかげた回復効果を持つエリクサーは、王族でもおいそれと手の出せない価格をしており、その売却益は教団に莫大な利益を齎していた。
要はエルロンド教にとっての、重要な利権という訳だ。
エリクサーは。
そんなエリクサーの利権に割り込むどころか、大量出荷などした日には、どうなるか日の目を見るより明らかである。
確実にもめるだろう。
なんなら、うちのエリクサーは悪魔の生み出した産物だとか言いがかりをつけて、宗教戦争にまで発展しかねない。
だから避けたのだ。
リスクが高すぎるから。
あ、言っとくが、戦争になったらまず負けるぞ。
この世界におけるエルロンド教の影響力は凄まじいからな。
一国程度の力じゃまず勝負にならない。
因みに、エリクサーの供給量が増えれば、それだけ不治の病で困っていたり死に瀕している人を助けられるって人道的な面が出て来るので、上手くやれば素晴らしい結果になるってのは分かってる。
――が、そんな物は俺の知った事ではない。
もちろん、困っている人を哀れんで手を指し伸ばしはするよ。
苦しんでいる人間を見たら優しくしてあげようって気になる程度の良心は、持ち合わせているつもりだから。
だがそれは、俺自身の安心安全を確保できていることが大前提だ。
自分の身を削ったり、命を賭けてまで世界の為に何かしようって気は皆無である。
自分勝手?
いやいや、俺は神様じゃないからな。
人間なんて大体そんなもんよ?
たぶん。
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