第59話 くっころ

「……」


朝目覚めると、枕の横に真っ赤なハトがいた。

そのハトの毛先は炎の様に燃えており、それが普通の生き物でない事は一目でわかる。


ハトと目があった瞬間、そいつは【クワッ】言う音が聞こえてそうな程目を見開き、俺に問いかけてきた。


「問おう。貴方が我がマスターか?」


と。

可愛らしい声で。


こいつは火の精霊で間違いないだろう。

事前に聞かされていたビジュアルと完全に合致している。

そもそも、それ以外の侵入者なら、ジャガリック達が入って来るのを防いでるはずだし。


とりあえず――


「いや、違うけど」


――と、返しておいた。


完全に初対面だしな。

主な訳ねぇ。


「……」


するとハトが不思議そうに首を傾げる。

想定外の返事に戸惑ってると言った感じだ。


まさか初対面でその問いに、イエスが返って来るとでも思ってたのだろうか?


ハトが首を傾げるのをやめ、一旦目を瞑ってから再び【クワッ】と見開き。

そして今度は翼も一緒に広げて問いかけてきた。


「問おう。貴方が我がマスターか?」


と。

同じ文言を。


そういやカッパーが言ってたな。


『火の精霊は頑固者で、一度決めた事は絶対曲げない性格をしてます。なので自由をモットーとし、柔軟かつ温和な思考の私とは対極な存在と言えますね』


カッパーが柔軟で温和かどうかはこの際置いといて、聞いた性格どおりなら、望む返答が来るまでこのまま無限ループが続く事は疑いようがない。


「問おう。貴方が我がマスターか?」


「ああ、まあ……俺のために働いてくれるってんなら大歓迎だ」


三度目の問いで、それっぽい返事をする。

『そうだ、俺がマスターだ』とかドストレートで返すのはいうのはちょっとこっぱずかしいので。


「我が名はポッポゥ!火の騎士ポッポゥ!」


ポッポゥがくるっと回転しながら、俺の枕元から後ろに飛んだ。

そしてベッドの外に着地した途端、その体がヒト型へと変わっていく。


燃えるような赤い髪と、深紅の瞳をした美しい女性騎士への姿へと。


彼女は片膝ををついており、掌を上にして前に差し出されたその両手には、炎を刃にした様な剣が乗っていた。

まるで俺に剣を捧げるかの様な姿勢である。


「盟約に従い、この剣を我がマスターに捧げる事を誓う」


どうやら、ポッポゥは騎士の誓いごっこがしたかった様だ。


「ああ、まあよろしく頼む」


しかしあれだな。

比較的真面な男性達ぷと違って、女性タイプの精霊は癖が強いな。

偶々だろうか?


「つきましてはマスター」


「ん?」


「私はまだまだ未熟な身故、より高みに登るための飛翔の為のお力を頂きたい」


「ランクアップさせて欲しいって事か?」


ポッポゥのランクを見るとEマイナスだった。

他の三人と同じDに上げて欲しいって事だろう。


「それは別に構わないんだけど……滅茶苦茶苦しいぞ?大丈夫か」


カッパー達は三日ほど地獄を彷徨ってたからな。

相当な覚悟がなければ、お勧めする気にはなれない。


「ご安心を。騎士は痛みになど屈しません。どうかタニヤンたちの様に私にそのお力を」


ポッポゥが剣を鞘に納めて立ち上がり、力強く俺にそう告げる。

まあ騎士を名乗ってるぐらいだし、根性はあるのだろう。


「わかった。じゃあランクアップさせるぞ」


「覚悟はできております」


一気にDランクまで上げる。

タニヤンたちの様にって言ってたし。


「ピギャ!?」


ランクアップ浅瀬た途端、ポッポゥが変な声を上げてその場に倒れる。


「痛い痛い痛い痛い痛いいたいぃぃぃぃぃぃぃ!!」


そして苦痛を訴えながらゴロゴロと床を転がりだした。


「くっ!殺せ!ころせよぉぉぉぉぉぉぉ!!あああああ!!ころしてぇぇぇぇ!!!」


最速で負けてんじゃねぇか。

下手したら4人の中で一番根性が無いまである。


そういや、“ひのきし”と“ひめきし”って字面が似てるよな。

なんて事を俺は考える。


ひょっとして、こういうのもくっころと言うんだろうか?


まあどうでもいいけど。


俺はベッドから起き上がり、喚きながら床をゴロゴロと転がるポッポゥを避けて部屋を出る。

外にはジャガリックが控えているので、彼女の事を頼んでおいた。


……さて、朝風呂にでも入って頭をすっきりさせるとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る