第55話 演技
「食えぬ人物ですなぁ」
ペカリーヌ王女とケイレスを見送ったところで、それまで姿を消していたタニヤンが姿を現す。
「ん?ケイレスがか?」
過去の関係からむかつく相手ではあったが、特に食えない人物って印象はない。
どちらかというと、感情を読み取りやすい分かりやすい人物だ。
「ふむ……どうやらマイロードは気づいておられぬ様ですな」
「気づいていない?」
タニヤンに続き、ジャガリックまでおかしな事を言いだした。
そんな二人の言葉に、俺は眉をしかめる。
いったい何の事を言ってるんだ?
ケイレスに何か秘密でもあるというのだろうか?
「あのペカリーヌという女性の行動……あれは全て演技だったという事じゃよ」
「は?」
ケイレスの事だとばかり思っていたが、どうやらタニヤンが食えない人物と言ったのはペカリーヌ王女の方だったらしい。
彼は彼女の行動が全て演技だと言う。
「いやいやいや、それはないだろ。あんなに心配してくれて、それにお詫びまで大量に寄越してくれたんだぞ?」
ペカリーヌ王女からの贈り物はとんでもなく高価で、本気で心配して、申し訳ないって思いが無ければ説明がつかない。
「何か目的があっての事でしょう。特大精霊に進化した私達は、人間の感情をある程度感じる事が出来ます。ですでの、演技というのは間違いありません」
ジャガリックまでハッキリとそう言い切る。
「……マジで?」
「わしら精霊は、けっして嘘はつきませぬぞ」
そういやそうだった。
そもそも、二人が揃って俺を騙す理由もないしな。
「て事は……ペカリーヌ王女は俺の心配もしてないし、可哀そうとかも全く思ってなかったって事か」
俺には全く気付かけなかった。
そういや、女は女優なんて言葉もあったな。
まさにその通りである。
……まあでも、冷静に考えたら当然っちゃ当然ではあるか。
なにせこっちは相手に怪我させてる訳だし、その状況下で本気で俺の事を心配してる方がどうかしてるって話だよな。
いくら優しくても、である。
「にしても、何か目的があって同情してるふりをしてるとして……演技のためとはいえ贈り物が過剰過ぎないか?」
何のための演技かは知らないが、少々大盤振る舞いが過ぎると言わざるえない。
そこまでの物を出してまで、彼女が得られる利が俺にはまった思い浮かばないのだが。
「そうですな、かの王女は痩せていた事にも特に驚いてはいません様でしたし……マイロードの能力を知っていて、それを利用するため恩を売ったと考えるのが自然かと」
「……あれ、驚いてなかったんだ」
俺には全くそう見えなかったが……
「まったく動揺しておりませんでしたぞ。ケイレス王子は動揺しておりましたから、使者が伝えていたという線はございません。ですので、何らかの形でエドワード殿の情報を得ていたと考える方が自然かと」
「王女が俺の情報を?いったいどうやって……ああ、そういえば彼女のスキルは星見だったな」
ふと、彼女のスキルを思い出す。
「どのようなスキルかお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ああ」
どうやら物知りなジャガリックも、星見については知らない様だ。
まあスキルは馬鹿みたいに大量にあるし、バロネッサ王家専用で、更に明確に公示されてないスキルだからな。
知らなくても不思議ではない。
「バロネッサ王家の人間が極まれに発言するユニークスキルで、未来の断片を覗き見る……まあ一言で言うなら予知能力だ」
「なるほど。そのスキルでエドワード殿の能力を知った訳か。ワシやジャガリックは常に周囲に気を配っておるが、流石に、特殊なスキルによる諜報ではお手上げじゃな」
どうやら二人は、俺の周囲に気を配っていたようだ。
本当に特大精霊というのは優秀である。
まあ若干、自由気ままで不安定な奴が一人いるけど……
「諜報活動には向かないかな。星見って、俺の知る限りそこまで便利な能力じゃないし」
星見について、俺は二人に簡潔に説明する。
まず第一に、能動的に能力は発動できない事。
更に、見える未来は選べない事。
しかも場合によっては、見える未来は自分とは全然年関係ない人物や、場所の場合もある。
つまり、自分のいい様に未来は見られないという訳である。
もしそれが出来ていたなら、きっとバロネッサ王国はもっと繁栄していた事だろう。
もしくは滅ぼされていたか……だ。
出る杭は打たれるっていうからな。
「ふむふむ。では偶然エドワード殿関連の未来を見て、気づいたという訳ですな」
「まあもし、本当に星見で俺の能力を知ったのならまあそうだろうな」
ピンポイントで相手の事を調べられるような物ではないので、偶然という事なのだろう。
「目的は能力を利用する事と考えて、まず間違いないでしょう。しかし……彼女はいったいマイロードの能力をどう利用するつもりなのでしょうか。それが分からないのは少々もどかしいですね」
今回の行動に裏があっても、王女が悪辣な真似なんかはしないと俺は思っている。が、ジャガリック視点からはそうではないのだろう。
「まああれだ。彼女の立場を考えたらそんな無茶ぶりはしてこないだろうし、心配する必要はないさ」
「ふむ、その口ぶりですと……エドワード殿は、頼まれれば王女の希望を叶えて上げるつもりなのですな」
「ああ、彼女には恩があるからな」
ひょっとしたら、初めからペカリーヌ王女は目的ありきで近づいてきたのかもしれない。
だが――
彼女がいたから俺は孤独を乗り切れた。
そして彼女がいたからこそ、自分の中で静かに淀んでいた余計な感情を払拭できたのだ。
これを恩と言わずなんというのか?
相手の目的はどうであれ、俺が救われた事実は変わらない。
だから余程おかしな事を言われない限り、俺は彼女の頼みを聞こうと思っていた。
まあもちろん、ポイントが足りればの話ではあるが。
無い袖は振れないって言うしな。
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