第53話 ジャスティス

二人がやってきたのは、使者が来てから二週間後だ。

その間に俺は屋敷をBまでランクアップさせ、かなり見れる住まいに変えておいた。


なんでランクアップさせたのか?


もちろん。


見栄を張るためだけに、である。


まあなんだ。

ケイレス相手に、俺はちゃんとやっていけてるぞってのを見せたかったんだよな。

嫌いな相手に惨めな姿はあんまり見せたくなかったら。


「お久しぶりです。ケイレス殿下。ペカリーヌ王女。ようこそ我がスパム男爵領へお越しくださいました」


グレードアップした屋敷の、グレードアップした客室に二人を通し、俺は恭しく挨拶する。


ケイレスの事は、兄とは呼ばない。

というか呼べない。


心理的に呼びたくないってのも勿論あるが、血の繋がった兄妹であっても、王家を追放された俺が王族相手にその呼び方をするのは宜しくないからだ。

なにせ、もう俺はただの男爵でしかないからな。


「むさくるしい場所故、お二人に満足頂ける御もてなしは用意できませんが、

どうかその点はご容赦ください。何分、新たに領主になったばかりですので」


「……」


「……」


……ん?


二人はなぜか返事を返さず、じっとこちらを見たまま黙りこくってしまう。


なんだ?

俺はちゃんと挨拶したぞ?

なんで何も言わないんだ?


「あ、あの……ほ、本当に貴方がエドワード様なのですか?」


ペカリーヌ姫が、恐る恐ると言った感じにそう聞いてくた。


「くだらん冗談で私をたばかろうなど、いくら弟でも容赦せんぞ。さっさとエドワードを連れて来い」


そしてケイレスまで意味不明な事を言ってくる。


なんだ?

どう見ても俺だろうに。

ひょっとして、二人して俺の顔を忘れたとか?


いやいやいや、ないないない。


ペカリーヌ王女はひょっとしたら怪我のショックでって可能性もあるが、ケイレスは仲が悪かったとはいえ俺の兄だ。

たったひと月とちょっとでその顔を忘れるとか、完全に認知症じゃねぇか。


俺が困惑していると、ジャガリックが耳打ちしてくる。


「マイロ―ド。体格が変わられたせいではないでしょうか?」


あ……ああ!

そういやそうだった!

敏捷性上げた影響で、俺は体重が半分ぐらいになってたんだ!。


そら半分に縮んだら分からんわな。

誰だコイツってなるわ。


因みに、追放時に持って来た服は全て魔法がかかっていて、体格が変化したらそれにフィットする様になっていたりするので買い替えてはいない。


「殿下を謀るなど、とんでもありません。実はこの領地に赴任した直後に、新しくスキルに目覚めましたもので。その影響で、体重を大幅に減らす事が出来たのです」


「スキルの影響だと……」


「はい。身体強化系のスキルを習得いたしました」


スキルに関しては、一応ぼかしておいた。

まあ嘘は言っていないしいいよな。

それ以外も色々出来るってだけで、実際に身体を強化した結果痩せた訳だし。


「まあ!スキルを取得されたのですね!おめでとうございますエドワード様!」


ペカリーヌ王女が俺に近づき、満面の笑顔で手を握ってくる。

俺がずっとスキルがない事でコンプレックスを抱えていた事を彼女は知っているので、本気で喜んでくれている様だ。


「ありがとう……ございます……」


ペカリーヌ王女の行動に胸の奥が熱くなって、目に自然と涙が浮かぶ。


前世の記憶が戻って、強力なスキルも手に入った。

だけど、それで15年間の苦しみや屈辱がきれいさっぱり消えた訳ではない。


――俺の中に確実に残っていた負の感情。


けど今、彼女におめでとうと祝われて。

そういわれて初めて、かつての自分の苦しみから解放されたんだと実感できて、胸に熱い物がこみ上げてきたのだ。


ペカリーヌの存在だけが、無能王子時代の俺にとっては支えだった。

それだけでなく、こうして彼女は俺の中の負の感情を浄化してくれた。


まさに俺にとって、ペカリーヌは救いの女神と言っていい存在だ。

彼女には感謝しかない。


あ、勘違いされたら困るから言っとくけど……


感謝は凄くしてるけど、好きとか嫌いとか、恋愛感情的な物は別に湧いてないぞ。

何故なら――


俺は巨乳ジャスティス派で。

ペカリーヌ王女はペッタンコだから


まだ15歳だから育つ芽があるとはいえ、流石にここからの大逆転はないだろ。


いやまあそれ以前に、仮に大きくてもケイレスの婚約者だから横恋慕する気はさらさらないけども。

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