第39話 特大

屋敷に戻ると、中庭に大きな馬車が止めてあった。


唐突に、池から水柱が上がる。


「ふぉかぱっちょー!」


――水柱の中からカッパーが現れた。


どうやら、無事ランクアップは終わったようだ。

まあ、帰宅途中でクエスト達成と増加があったから知ってはいたけど。


因みに、姿に変化は特に見当たらない。

どうやら大精霊になったときの様な変化はない様だ。

まあ変な姿になられてもあれなので、そのままでよかったとは思うが。


「嫌な予感しかしねぇ」


池から飛び出したカッパーが着地し、そしてこちらに勢いよく走って来る。

その姿に、以前の事を思い出す。

そう、カッパーに八つ当たりでドロップキックをかまされたあの時の事を。


「死ね!」


予感通りというべきか、カッパーが跳躍して宙に浮く。

そのしてその両足の裏が真っすぐ俺の顔面に向かって飛んで来た。


八つ当たり再びである。


「ん?」


――が、カッパーの揃え垂れた足の裏がなぜか俺の顔面の手前でピタリと止まる。


「これ、カッパー。何おやっておるか」


「ぐぬぬぬ。タニヤン、邪魔しないで下さい。あの痛みの一部でもフォカパッチョとシェアしないと、私の気が済まないんです」


どうやらタニヤンが止めてくれたようだ。

彼は風の精霊なので、おそらく風関連の力だろう。


つか、姿が見えないんだが?


声はすれども姿は見えず。

いったいどこにいるんだろうか?


「何を言っておるんじゃ、まったく。確かにあれは地獄じゃったが、全て覚悟の上じゃったろうが。それなのに、エドワード殿に八つ当たりするなどと……特大精霊にあるまじき行動じゃぞ」


大精霊の次は特大なのか。

なんか牛丼のサイズみたいな階級制度だな。

果てしなく安っぽく感じてしまう。


「むう……確かに私はもう特大精霊の身。いいでしょう!この怒りは飲み込みましょう!」


カッパーが寛大な心で水に流す敵な雰囲気を出しつつ、地面に着地する。

が、そもそも彼女の行動はただの八つ当たりである。

なので何一つ寛大な部分はない。


「そりゃどうも。ところで、タニヤンの姿が見当たらないんだが?」


「おお、これは失礼いたしました」


「——!?」


突如、カッパーの横にタニヤンが姿を現した。

何もない空間が、いきなりタニヤンに変わったような感じだ。

その予想だにしていなかった登場の仕方に、俺は思わず目を丸める。


……どうなってんだ?


「実は特大精霊になった事で、肉体を自然化出来るようになりましてな。それで空気と一体化しておったのです」


「ああ、成保ほど……」


空気と一体化してたから、姿が見えなかったのか。

便利な能力なもんだ。


「それぐらいならカッパーも出来ますよ!なにせ特大精霊ですから!」


カッパーが胸を張る。

その特大精霊の力を与えたのは俺で、しかも逆恨みでドロップキックをしようとしていたくせに、よくそれを自慢できる物だと逆に感心する。


「見せてあげましょう!とう!」


カッパーの体が透明になり、更に液体状になって崩れていく。

彼女は水の精霊なので、水に変わったって所だろう。


ただ、その姿はどう見ても――


「まるでスライムだな」


――そう、ゲームなんかでよく見るモンスターにそっくりだ。


「あんな下等な魔物と一緒にしないで下さい!」


「いや、その崩れた液状の姿はそうとしか見えないんだが?」


「失礼ですね。本当にフォカパッチョは」


初見で、俺の事を見た目から豚野郎フォカパッチョと呼んで来た奴に失礼呼ばわりされるのは心外である。


「では、これでどうです」


崩れたスライムの様な状態だったカッパーの体が、ヒト型に変わっていく。

質感は水のままで。


「なんだ、人型になれるのか。まあこれなら水の精霊っぽいな」


「ふふふ、特大精霊の私にはこれぐらい朝飯前です」


ヒト型になったカッパーは、ウィンディーネを彷彿とさせる美しい姿をしていた。

でもぶっちゃけ、彼女の無軌道な性格から考えると、こっちより不定形のスライムの姿の方が似合ってるんじゃないかと個人的には思う。


「そういや、ジャガリックは?」


ジャガリックの姿だけが見当たらず、尋ねる。


「ジャガリックでしたら、屋敷で客人の相手をされておりますぞ」


「そうか」


そういや俺、オルブス商会の夫人と会うために屋敷に戻ってきたんだった。

カッパーがいきなりドロップキックかまそうとしたり、タニヤンの姿が見えなかったりですっかり頭から抜け落ちてたわ。


じゃあ夫人に会って、話を聞くとしようか。

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