第23話 行ける
「砂煙……」
遠くに上がる砂煙が見える。
目を凝らすと、それが複数のバラックボアの疾走によって上がっている物だと確認できた。
……以前なら絶対見えなかっただろうな。
距離は相当ある。
なので気づいているのは俺だけだ。
「本当にきやがるとはな」
領主であるエドワード・スパムがこの村に魔物が押し寄せて来ると伝えられた時は、正直半信半疑だった。
死者を蘇生させる程の力を持ち、ましてや、俺達を騙す意味などない事は分かっている。
それでも、本当に来るのかという疑問は残っていた。
「何にも見えないけど?」
「俺にはスキルがあるから、ずっと遠くも見えるんだよ」
アリンの疑問に俺は答える。
筋力の強化の末、俺はスキルを身に着けている。
それは守護用のスキルだったが、その副次効果として視力も上がる様だった。
だから他の人間の目には映らない距離でも、俺にはっきりと目にする事ができるのだ。
今俺達は村から少し離れた、死の森方面に向かって陣取っていた。
村の建物を遮蔽物にする事もできたが、それだと村が滅茶苦茶になってしまう。
それに鼻がよくパワーのあるバラックボア相手では、粗末な木の壁などはあってない様な物である。
それだったらもう、いっそ村の外で迎え撃とうという事になったのだ。
「ほんとだ、砂煙が……」
森でバラックボアと遭遇した時、俺達は19人がか狩りにもかかわらず4人も死者を出している。
現在は少し頭数が増えて26人だが、それでも魔物は8体だ。
以前のままの俺達では絶対に勝ち目はなかっただろう。
だが今は違う。
「くそ、きやがったか!」
「村は俺達が守る!」
エドワードのスキルで俺達全員の力が上がり、さらに武器も目に見えて強力なものに変わっていた。
今の俺達なら、たとえ8体が相手でもどうにかなる。
それだけの自信が俺達にはあった。
――特に、俺にはスキルがある。
【シスター・ガーディアン】
妹を守る際、大きな力を発揮するスキルだ。
その効果は絶大で、まだ戦いも始まってもいないのに体に力が漲ってくる程である。
アリンを守らなければならない俺にはうってつけ能力と言えるが……
「アリン!絶対に前には出るなよ!魔物は俺が倒してやるから」
「言われなくても前になんて出ないって、兄さん。私弓手なんだから」
逆に言うと、こうして妹を危険にさらさなければ力を発揮できない欠陥スキルとも言えた。
アリンを守る力を振るうためには、アリンを危険にさらす必要がある
もどかしい話だ。
だがまあ、その事は考えても仕方がない。
要は守ればいいのだ。
そう、俺の力で守り抜けばいい。
「皆は無理せずバラックボアの牽制だけを心掛けてくれればいい!魔物は俺が仕留める」
――砂煙がもうかなり迫ってきていた。
領主は体の不調を訴え、この場にはいない。
ので、代わりに俺が指揮を執る。
体調不良が嘘か誠かは知らないが、どうせ居ても邪魔になるだけだからな。
余計な口出しをされないだけ寧ろ有難い。
「俺達の力で村を守るぞ!!」
「「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」」
間近まで迫ったバラックボア達。
「ビギュアアアアア!」
その先頭を走るバラックボアに向かって突っ込み、俺は手にした鉈を振るう。
――その一撃はバラックボアの太い首を引き裂き、胴体から完全に分断した。
行ける!
今の俺なら、一人で八匹全部だって相手に出来る!
領主は気に入らないが、奴から与えられた力は本物だ。
そこは疑いようがない。
勝利を確信した俺は、次のバラックボアに向かって鉈を振るうのだった。
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