第22話 結局は同じ

俺は貴族が嫌いだ。

虫唾が走る程に。


奴らは何もしてくれない癖に、税だけはしっかりとこの貧しい村から取り立てて行く。


なぜ奴らに従わなけれなならない?

俺達とあいつらと何が違う?


あいつらに税さえ取られていなかったら、両親は、村の皆は死なずに済んだというのに……


8年前、村では病が流行った事がきっかけで数十人もの村人が命を落としている。

その中には俺の両親もいた。


病自体は、栄養状態がある程度しっかりしていれば死ぬ様な物ではなかった。

そう、食事さえしっかり取り養生さえしていれば、それで助かる程度の病だったのだ。


しかし運の悪いことにその年は不作で、税を納めてしまったら食うに困る状態になるのは目に見えていた。


だから俺たちは領主へと懇願する。

納める税の量を、今年は減らして欲しいと。


――だがそれは受け入れられなかった。


それでもなんとか食を確保しようとして、大人達は死の森へと足を踏み入れた。

俺達がした様に。

もっとも、結果は俺達なんかよりもずっと悲惨なものだったが。


なぜなら、死の森に向かった人達は誰も帰ってこなかったからだ。

その中に俺の父もいた。


「タゴル……アリンを……お願いね……」


程なくして病にかかっていた母はなくなる。

俺に妹のアリンの事を託して。


それから8年。

俺は妹の面倒をみ。

村で仕事しつつ、体を鍛えた。


両親を失った時の様に、また同じ様な事がこの貧しい村にいつか起こるのは目に見えていたからだ。

そう、いずれ死の森に入る日が来ると。

だから体を鍛えた。


――けど、それは俺だけではなかった。


全滅してしまったとは言え、それでも困窮した際に一縷の望みをかけられるのは死の森だけ。

だから他の若い連中も体を鍛えた。


それから8年。

とんでもない日照りに村は襲われる。


井戸や池は枯れ。

畑は壊滅状態。

飼育していた家畜に与える飼料を得るための西の草原も全てダメになって、維持できなくなったので全て潰し。

狩りで得ていたウサギや鳥も当然取れなくなった。


――このままだと、間違いなく村そのものが滅びる状態。


だが領主からの支援など期待できない。

罪人の子孫である俺達が滅びた所で、奴らにとっては取るに足らない事だというのは、もう8年前にはっきりしているからだ。


だから俺達は男手を集め、死の森へと向かう。

これだけ日照りの続く中にあって、揺るぐ事なく青々と顕在するあそこへと。

食料と水を手に入れる為に。


「村のために収穫を持ち帰るぞ!」


「おお!」


死の森へと向かうメンツに、悲壮感はなかった。


俺達には8年間の努力があったからだ。

あの時とは違う。

だからきっと上手くいく。


だがそんな考えは、森の中で出会った一匹の魔物に吹き飛ばされてしまう。


此方は19人。

だがたった一匹の魔物を狩るのに、俺達は4人の犠牲を出してしまう。

生き残ったメンツも大なり小なり怪我を負っており、探索の続行は不可能な状態になっていた。


魔物は俺達が考えるよりもずっと危険な存在だったのだ。


結局狩ったその一匹の魔物と、仲間の死体を持ち帰る形で撤退する羽目に。


こんな僅かな収穫では、当然焼け石に水だ。

暗澹あんたんたる気持ちで帰還した俺達に、寝耳に水の報告がもたらされる。


それは領主が変わり、新しく赴任した領主が村の池の水を復活させたという物だった。

更にその領主は村の畑をよみがえらせ、しかも死んだ4人を生き返らせるという、まるで神の御業の如き力を俺達の前で披露する。


その光景に村の皆は沸き立つ。


その気持ちは分からなくない。

新領主は、この村にとって救世主と言ってもいいだろう。


だが俺は感謝の気持ちを持つ気にはなれなかった。

なぜなら、そもそもの前提からしておかしいのだ。


罪人の子孫だからと、こんな僻地で苦しい生活を押し付けてきたのは他でもない国である。

そう、根本的な原因は国——王族や貴族にあるのだ。


その国の人間が村の存続のために動いたからからと言って、なぜ俺達が感謝しなければならない?


俺はとても感謝する気にはなれなかったし、村の人間の中には俺と同じ考えの人間も少なくはなかった。


だがそれでも、最低限の仕事を領主がするのなら、村の生活はきっと今より良くなる。

その程度の希望を持つ事はできた。

少なくとも、領主は奴隷同然の村人を蘇生までしたのだ。

村人を使い潰したり切り捨てる様な真似はきっとしないだろう。


そう思っていたのだが――


「彼女にも戦闘に参加して貰う」


村が魔物に襲われる。

その際の戦闘に、領主はあろう事か妹のアンリを参加させると言い出した。


危機的状況なのはもちろん俺だってわかっている。

だがだからと言って、アリンはまだ14歳の子供だ。

それを戦わせるなどありえない。


「な、何言ってんだテメェ!ふざけん――がっ!?」


そのふざけた判断にかっとなって掴みかかろうとするが、体が得体の知らない力に押さえつけられて俺は地に伏す。

初めて体験するが、これがこの村にかけられた制限——呪いなのだろう。


「今確認した所……彼女にはギフトが神より与えられている事が分かった。だから彼女には戦闘に参加して貰う」


アリンの弓の腕は、幼い年齢にそぐわない物だった。

それがスキルによるものだと言われれば、確かに納得できる。


だがだから何だというのだ?


いくら腕がよくても、所詮は鳥や小動物を狩る程度でしかないのだ。

多少力が強くなった程度で、あの凶悪な魔物になど通用するはずがない。


「ふざっけんな……ぐっ……くそ……」


何とか抵抗しようと藻掻くが、どうにもならない。

結局呪いによる強制には勝てず、アリンは戦闘に参加する事になってしまう。


子供の妹を戦わせる。

結局こいつも、前にいたやつと何ら変わらない。

貴族なんてものはどいつも最低だ。


俺は新領主、エドワード・スパムを怒りと憎しみを込めて睨みつけた。

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