第21話 武器
村人達の強化を終えた俺は、次に武器類の強化に取り掛かる。
鉈や槍、それにアリンが扱っている弓だ。
鉈は基本ボロボロ。
貧しい村なので手入れ自体はしているんだろうとは思うが――少しでも長く使うために――長年の経年劣化からか状態はかなり悪い。
ランクはほぼすべてEのマイナス。
槍は木の棒に、小さな金属の刃物が付いているだけの粗末なものである。
此方は普段使いしていないためか鉈程ボロボロではないが、それでもランクはE程度。
まあどう考えてもしっかり作られたものじゃないから、こんなものだろう。
で、最後がアンリの弓。
武器と考えた場合、これが一番ひどい。
なにせ木の枝の端に紐を巻き付け、無理やり弓っぽい形にしただけの粗末な作りをしているからな。
これは完全にお手製だろうと思われる。
矢の方も、木の枝の先端を削っただけの物だ。
ランクは当然、最低のFである。
本来ならこんなものは武器とも言えないレベルな訳だが、アンリは、この矢を飛ばすのさえも苦労しそうな弓で空を飛ぶ鳥を狩るそうだ。
この事から、神から与えられたギフトたるスキルがどれほど強力かというのが分かって貰えるだろうと思う。
そして有用だからこそ。
ほぼ100%習得して生まれて来る高貴な王族の血筋にも関わらず、それを持って生まれなかった俺が周囲にどんな目を向けられた事か。
……まあそんな事はどうでもいいな。
俺はさっそく武器のランクアップに取り掛かる。
「武器はランク毎に壁があるのか……」
それまでは、だいたいCランクまでノンストップでランクアップできた。
だが武器はランクの区切り毎に進化――まあ要は、上げたけりゃ追加ポイントを寄越せとスキルが伝えて来る。
元がEランク槍や鉈はD-に上げるのに100ポイントで、Fランクのアリンの弓はE-ランクへのランクアップに50ポイントが必要だ。
……思った以上にポイントがかかっちまうな。
武器は全部で26本上げなければならない。
追加で全武器に100ポイント使えば、それだけで2,600ポイント必要になる。
Cランクに上げるにはたぶん200ポイントかかるだろうと思われるので、さらに5,200ポイント。
タゴルを使徒にした1万ポイントがなかったら、全然ポイントが足りなくなる所だった。
衝動的に動いた事が大きなプラスに働くとか、俺ってまるで主人公だな。
そんな馬鹿な事を考えながら、俺は武器を進化させていく。
「さて……」
全てCランクまでランクアップ完了。
木の槍は持ち手まですべて鉄の、立派な槍へと生まれ変わり。
鉈も刃の部分が伸びて分厚くなり、もう鉈ってよりかは片刃の剣に近い。
弓矢も木のお手製だった物が、今や立派な鉄の弓矢セットである。
ランクアップで材質まで変わるなら、ポイントで資金稼ぎ……いや、流石に効率が悪いか。
現在、村には余分な金などなく。
俺もほぼ無一文で放り出されている。
なので金がない。
村の状態を考えると今後確実に資金が必要になってくる訳だが、流石に一本400ポイント程と考えると、効率が悪いと言わざるえなかった。
まあ先の事は後回しだ。
今は目の前のピンチを切り抜けんと。
「残りのポイントもつぎ込むか」
残りのポイントは2,000ポイント程。
正直、残しておきたい所ではあるが、それで死人が出たら完全に赤字になってしまう。
何より、村を守り切れなかったら笑い話にもならない。
「タゴルは槍と鉈、どっちを使うんだ」
上げる武器は確実にエースとなるタゴルと、スキル持ちのアリンの物を優先する。
なのでタゴルに槍と鉈、どっちを使うか尋ねた。
「俺は鉈だ……です」
タゴルはカッパーのお陰か、かなり顔色がよくなっていた。
これならもう少し休憩させれば、問題なく戦えそうである。
因みに、回復を施した当のカッパーは相当疲れた様で、水浴びをするために井戸へと行ったのでこの場にはいない。
彼女にも感謝せんと。
「鉈か、分かった」
鉈をさらにランクアップさせる。
B-になると更に材質が変わったのか、刃部分の色が黒く変化した。
「これは、
鉄に錬金術で特殊な加工を施した丈夫な金属。
それが黒鋼である。
トータル900ポイント程で黒鋼か……
錬金術で生成されるだけあって、黒鋼はかなり高額だ。
必要となるポイントは少なくはないが、黒鋼の武器として売れるのなら悪くはない気もする。
「次は弓を……と」
アリン用の弓をランクアップする。
これも黒鋼製だ。
「矢はまあ鉄でいいだろう」
木製の矢筒には20本ほどの矢が収まっている。
武器に比べて少ないポイントで進化やランクアップ出来るが、こっちは黒鋼になったところでそう大差ないはず。
冷静に考えると、弓も大差ない気もするな……
その事に、ランクアップさせてから気づいてしまう。
まあやってしまったものは仕方ない。
「魔物の襲撃まであと二時間切っている!戦闘要員はこれから1時間半程休憩!」
二時間休憩させないのか?
そう思うかもしれないが、武器が進化した事で重さやサイズが変わって使い心地が変わってしまっている。
それに各自筋力も上がっているので、その辺りに多少調整は必要だ。
「村長。俺の屋敷の位置は分かるな?悪いけど、他の皆をそこに避難させておいてくれ」
戦いはどう転ぶかわからない。
非戦闘員が村にいたんじゃ、最悪、足手まといになりかねないからな。
だから彼らには避難しておいてもらう。
「まあ若干距離があるから……辿り着くのがきつい様なら、無理に屋敷にまで行く必要はない。途中で待機してくれていい」
流石に何時間も戦闘するって事はないだろうから、無理に屋敷まで行ってもらう必要はない。
「わかりました。領主様……どうか村の事、よろしくお願いします」
村長が、いや、その場にいたこの村から避難するメンツが俺に頭を下げた。
「ああ。大船に乗った気で任せろ。」
それに対し、俺は力強く答える。
彼らの不安を払しょくするために。
まあぶっちゃけ、頑張るのは俺以外な訳だが……
敏捷性を上げた影響が大きく、俺はもう余程の事がない限り戦闘に参加する事はない。
なにせちょっとでも走ろう物なら、問答無用ですっころぶ様な状態だからな。
そんなざまで参戦しても、転んで踏み殺されたりするのが目に見えている。
なので村人達。
特にスキル持ちであるタゴル兄妹に期待するしかないのだ。
我ながら他力本願で情けなくなるが……
ま、しょうがない。
俺は戦士じゃなくて領主様だからな。
前準備や、後ろで指揮をするのが俺の仕事だ。
「さて……俺も少し休憩させて貰おう」
避難組を見送り、俺も村人達に交じって休憩する。
もうできる事もないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます