第12話 ドロップキック
「ふうむ……」
村での食事を終え、俺は糞暑い中屋敷へと向かって一人歩く。
村長は誰かに送らせますとか言ったが、それは断ってある。
ここら辺は死の森の影響か魔物は一切出ないので、危険などないからな。
山賊みたいなのも、貧しすぎていないし。
「ふぅ、しかしあっちいな」
照りつける太陽の日差しはきつく。
このままの天気が続く様なら、井戸や池の水をちょくちょく補充させる必要が出て来る。
「食料の事もあるし、ポイントを集めんとなぁ……」
ログインボーナス(?)は1日10ポイント。
デイリークエストはは100から300ポイント程――今日は10キロ歩くで、現在消化中。
で、永続クエストは10,000ポイント以上って感じである。
それ以外にも魔物を狩ればポイントは手に入る様だが、まあこれは最後の最後の最後の、そのまた最後の手段だ。
魔物を狩れば食料も手に入る?
まあそうだな。
けど問題は、戦闘訓練を受けていない今の俺の能力程度じゃ、真面に魔物は狩れないだろう点だ。
それを可能にするためには、俺自身のランクアップが必要不可欠。
だがあの痛みを進んでは受けたくない。
というのが俺の本音である。
いーや、ほんときついからな。
あれ。
しかもランク上げてったら、更にきつくなると来てる。
マジ勘弁だよ。
だいたい、魔物と戦うのは領主の仕事ではない。
なので魔物を狩るのは最後の最後、本当に困った場合の保険的な物とする。
「となると永続系を熟す必要がある訳だが……」
今あるのは3つ。
一つは【王家に舞い戻れ】だ。
ポイントはなんと驚異の100万ポイント。
これさえ熟せれば一気にポイント問題が解決する。
ま、どう考えても無理な訳だが……
つい先日王家から除名され、もうほぼ死刑に近い形で僻地に男爵として飛ばされた俺にどうやって王家に戻れと?
絵に描いた餅とはまさにこの事である。
二つ目は【領地民1,000人以上】。
今100人ちょっとだから、これをちょちょいと10倍にすればなんと10万ポイントも手に入る。
うん、無理。
こんな貧しい僻地に、誰が好き好んで移り住むってんだ。
これもまた絵餅。
んで、最後の三つめが【村人の信頼を勝ち取れ!】である。
まあ一番達成しやすいというか、現実的に熟せそうなのはこれだけなんだが……
俺は畑や水問題を解決し。
更に、死の森への遠征で亡くなった村人を救っている。
普通に考えたら『流石領主様!』状態の筈。
――が、このクエストの表示は違う。
村人118人中、俺に感謝し信頼を得ているのは86人だけ。
なので32人は俺の事を信頼していない状態なのだ。
それどころか内10人程は俺の事を敵視、もしくは憎しみを抱いてる状態と出ている――誰がかまでは見れない。
いやなんでだよ!
と言いたい所だが……
「まあでも確かにそうだよなぁ……」
俺のやった事は、滅びかかった村の救済だ。
だが少し考えて盛れば分かるが、何故この村はこんな状況になったのかって話である。
もちろん日照りのせいではあるんだが。
通常、こういう状態なら国からの救済が行われる。
だが、村にはそれが行われていない。
つまり、国に見捨てられた結果、村は極限まで追い込まれのだ。
そして俺は体制側の人間として、男爵として、この領地を治める立場にある。
言ってしまえば、俺は彼らを追い込んだが側の人間という事だ。
そら、何とかしてくれたからって感謝なんてする分けないよな。
本来すべき事を、ギリギリ遅れてやっただけなんだから。
もし俺が村人なら、ふざけんなってブチギレてもおかしくないレベルだ。
更に言うなら、村の始まりは罪人の流刑としての開拓だ。
そしてその子孫である村人はさまざまな制限の元、ほぼ奴隷といっていい様な扱いを受けている。
犯罪を犯した本人達なら自業自得とも言えるが、開拓自体は100年近く前の事。
つまり、あの村にはもう犯罪者として送られた者はいないのだ。
にも拘らず、その血を引いているってだけで冷遇されている。
彼らからすれば、体制側の人間にいい感情を抱く要素など皆無と言っていいだろう。
「そう考えると……俺に感謝して信頼してる86人って、とんでもなくお人好しだよな。もしくは……」
奴隷根性が沁み込んでいるか、だ。
なんとなく、こっちの方が可能性が高い気がする。
「そう考えると不憫極まりないな、ほんと」
村人達の置かれている環境に同情を禁じ得ない。
「三つめも簡単にはいかんよなぁ。なんか簡単なクエストでも追加されないもんだろうか……ん?」
屋敷に辿り着き、門をくぐると一人の少女と目が合う。
透き通るような緑髪に、同じ色の瞳。
そして緑のボディスーツの様な格好をした、美しい顔立ちの少女だ。
「誰だ?」
俺が首を捻ると、少女が此方へと走って来る。
距離にして2メートルぐらいの所だろうか?
不意に少女の体が浮く。
「んあ?」
「死ね!フォカパッチョ!!」
そしてその両足の裏が、俺の顔面に直撃した。
たぶんドロップキック。
「ほげぇ!」
衝撃に吹き飛ばされた俺は――
『ああ、こいつあの河童か』
――そんな事を考えながら意識を失う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます