第13話 大精霊?

どうやら一瞬気を失っていた様だ。

顔面と首に痛みを覚えながらも、俺はよろよろとふらつきながらも立ち上がる。


「いててて。なんでいきなりけられにゃならんのだ……」


カッパーの行動は正に奇行。


……ペカリーヌ王女も、きっとこんな気分だったんだろうな。


かつて王家を放逐されるきっかけとなった、自身の奇行を思い出す。


「あんなひどい目に合わせておいて自業自得です!」


カッパーが不機嫌そうに、俺に向かって怒鳴る。


俺が一体何をしたというのか?

全く心当たりがないのだが?

ひょっとして、気絶してる時に水をかけてやったのが駄目だったとか?


まあ確かに、許可もなく他人に水ぶっかけられたら不快なのかもしれんが……


「ああ、水を勝手にかけて悪かったよ」


「確かに水をかけたのも許せませんが……そもそも根本的に間違ってます」


ん?

違ったか?

じゃあなんでこの河童――まあもうただの美少女にしか見えんが――は怒ってるんだ?


「何を怒ってるのかさっぱりなんだが?」


「あんな激痛を私に与えておいて、よくそんな事が言えますね」


「ひょっとして……痛みの事で怒ってるのか?」


「当然じゃないですか!冗談抜きで死ぬかと思いましたよ!」


「いや、それは最初に説明したはずだが?」


相当な痛みがある事は、事前に説明してあった。

そしてカッパーはそれを承諾したうえでランクアップを受けたのだ。

けっして黙ってかけた訳ではない。


なので、彼女の怒りはただの理不尽。

そう、理不尽。


「だとしてもアレは痛すぎです!この世の物とは思えないまでの苦痛!あんなものを許容できる訳ありません!!」


まあ絶叫した後気絶して、一晩過ぎてもぴくぴくしてたからな。

相当きつかったのだろう。


でもやっぱり理不尽だ。


けどまあ、こういう時は謝るが勝ちである。

怒りの炎がまた燃え上がって、またドロップキックを顔面にかまされても敵わないからな。


「ああ、まあ悪かったよ。俺が自分にかけた時はあそこまでじゃなかったから、まさか精霊の時はあそこまできつくなるとは思わなかったんだ」


「む……ま、まあそうですね。悪意はなかったんだと思います。なので今回の事は水に流しましょう。私、水の精霊ですし」


それまで目じりを吊り上げていたカッパーから、険が消える。


「それになんだかんだ言って、100年分の成長は果たせた訳ですしね。フォカパッチョには一応感謝はしてるんです」


感謝してるなら『豚野郎フォカパッチョ』呼びは止めて欲しいものだが……


しかし、たった2段階で100年分の成果が出たのか。

まあそりゃそんだけ馬鹿みたいに成長できたなら、とんでもなく痛いのも納得ではある。


やっぱ人間と精霊じゃランクアップの効果が全然違うみたいだな……


「まあそう言って貰えると助かるよ。それで?どういう事が出来るようになったんだ?」


「ふふふ……よくぞ聞いて下さいました!雨を降らせられる様になりました!」


「おお……」


日照りは続いている。

その対処として、井戸や池の水をランクアップでちょくちょく補充する必要があったのだが、彼女が雨を降らせてくれるならその分のポイントが浮くというもの。

これは有難い事だ。


「まあ1日1回で、5分程ですが」


5分て……夕立かよ。

まあでも、毎日雨が降らせられるなら十分か。


「あ、それと、生物に使える回復魔法なんかも覚えましたよ。怪我をしたときは言ってください。この大精霊たるカッパーが傷を癒して差し上げましょう」


カッパーが胸を張る。

河童状態だと控えめだったそれは、人の様な姿になった事で服の胸元を大きく盛り上げるまでに成長していた。


しかし大精霊とか……


高々D-ランクの癖に大きく出た物である。

まあ余計な突っ込み入れないが。

機嫌を損ねてもいい事なんてないしな。


「ああ、それは助かるよ。ていうか、今も顔が痛いから出来ればかけて貰えると助かるんだけど」


「おっとぉ、早速の依頼ですね。優れた精霊はこれだから困るんですよね。優秀過ぎて引っ張りだこです」


初仕事。

しかも自分で蹴り飛ばして負わせたけがの治療で、よくそこまで自画自賛できる物だと、逆に感心する。


「では本邦初公開!アクアヒール!」


カッパーが俺に手を向けて魔法を発動させる。

すると彼女の手から水が勢いよく飛び出し、水鉄砲の様に俺の顔面に直撃した。


「ふがっ!?」


おいおい、これ本当に回復魔法か?

実は攻撃魔法じゃないだろうな?


いやまあ、特に痛みはないんだけども。

ビジュアル的には攻撃されたとしか思えんのだが。


「どうです?」


「どうですって言われても……んー、ちょっとずつ痛みがマシになって来てるような気もする……かな?」


「ふふふ、凄いでしょう?アクアヒールはじわじわダメージを回復させる魔法なんですよ」


どうやらアクアヒールは瞬間回復ではなく、持続回復リジェネ系の魔法の様だ。

想像してたのとはちょっと違うが、まあしっかり回復してくれるのなら文句はない。


「さて……これからお世話になる訳ですし、私に頼みたい事があったら気兼ねに行ってくださいね。フォカパッチョ。偉大なる大精霊カッパーは、恩返しはきっちりしますから」


「そう言って貰えると有難いよ」


恩人を平気で豚野郎とか言う奴の恩返しは、果たしてどこまで当てに出来るのだろうか?


そんな事を考えつつも、外にはおくびにも出さず笑顔で対応する。


コイツ気分屋っぽいしな。

上手く利用せんと。

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