第10話 蘇生

畑と池を復活させた俺が村に戻ると、入り口近辺に村人が集まっていた。

森へ行って来た人達が返って来たのだろう。

但し、その雰囲気は生還を喜ぶという様な物ではなく、暗い物となっている。


まあ死者が4人も出てる訳だからな……


持ち帰られた4人の遺体はどれも全てボロボロだ。

帰還した人達も皆怪我を負っている事から、死の森での苦難が容易に想像できた。


「あなた!あなたぁ!」


「う、うぅ……」


ぼろぼろの遺体に縋りついて泣く遺族の姿を目の当たりにして、胸が締め付けられる気分になる。

そのいたましい様子から目をそらしたくなるが、俺はぐっと堪えた。


望んでなった訳ではないとはいえ、今の俺はこの地の領主だからな。

嫌な事から目を逸らしていたんじゃ、そんな物は務まらない。

それでなくとも、崖っぷちみたいな領地なのだから猶更だ。

現実と向き合わないと。


というのもあるが、確認したい事があったからというのが大きかったりする。


俺は確認の為、亡くなった村人を鑑定する。

そのランクは予想通り何も表示されない。

まあ、死体にランクも糞も無いのだから当たり前ではあるが。


一体何がしたいのか?


確認したかったのは、死者が蘇生が出来るかどうか、だ。

畑のランクアップの際、前段階としてポイントを使って植物を蘇生させる事が出来た。


なら、それと同じ要領で死んだ人間の蘇生も出来るのではないか?

そう思ったからこうやって確認している訳である。


まあ人間と植物じゃだいぶ違うので、駄目元ではあるが……


出来るな。

ランクアップ。


て事は……


『このままではランクアップできません。まずは蘇生を行ってください。蘇生には5千ポイントが必要となります』


よし!

蘇生できるぞ!


これなら亡くなった村人達を生き返らせる事が出来る。


が、一人5千ポイントかぁ……


4人で2万ポイント。

ギリギリ足りるが、逆に言うと、蘇生をしてしまうと残りのポイントがたった2千ちょっとにまでなってしまう。


何かあった時にポイントが無かったらと思うと……


ここが日本か、せめて王宮なら、万一の保険をそこまで意識する必要はなかっただろう。

だが今居る場所は、異世界の中でも僻地中の僻地。

そんな場所で保険を捨てるのは、余りにも愚かな行動である。


とは言え――


「うぅぅぅぅ……」


――遺体に泣きすがる人達の姿を見て、保険を残してたいからなんて行動は出来そうになかった。


村の状態もある程度改善した訳だし、そうポンポン問題が起きる訳ない。


俺は無理やりそう思う事にする。


……取り合えず、明日から頑張ってポイントを貯めるとしようか。


「ごほん。あー、今から亡くなった人を蘇生させるから」


俺の一言に、全員の視線が一斉に集まる。

皆驚いているというよりも、言っている意味が分からないと言った感じの表情だ。


まあいきなり死んだ人間を生き返らせるとか言われても、何言ってんだこいつってなるのが普通の反応だよな。


この世界には魔法があるが、死者の蘇生なんてのは伝説の大賢者が使ってたとか言われるレベルの――言ってしまえば、おとぎ話に近い者だ。

なので一般的には、死は覆しようのない終わりという認識となっている。


「あの、蘇生とは……」


「そのままの意味だよ。死んだ人達を生き返らせる」


「お前ふざけてるのか!」


村長に尋ねられて答えたら、大柄な男が激高して声を上げた。

そして俺の胸倉を掴む。


「あ……」


見知らぬ顔だ。

怪我をしている様なので、森へ向かった村人の一人なのだろう。

そのため、俺を領主と知らずそんな態度を取ってしまった様だが――


「ぎゃあっ!?」


瞬間。

男が悲鳴を上げその場に転がった。


この村の人間は腕輪の持ち主。

つまり、領主である俺に危害を加える事は出来ない様になっている。

要は腕輪の防御機能が働いたのだ。


因みにその男は気絶しているだけだ。

死んだりはしていない。


「サムソン!」


「なんだ!?何をしやがった!!」


「よさんか!このお方は新しい領主様じゃ!」


帰還組は俺の事を知らない為、当然何が起きたのか分からず殺気立つ。

そんな彼らを村長が一喝する。


「りょ、領主だって……」


「この村はもう捨てられたんじゃなかったのか……」


放棄された。

まあ村の惨状を考えれば、そう思うのも無理はないだろう。


だいたい、危機的状況に援助所か、島流し状態の俺が領主になってる訳だからな。

実際その通りと言っても過言ではない。


「安心してくれていい。井戸や池の水は補充したし、畑ももう復旧済みだ」


「そ、そりゃ本当か!?」


帰還組が村長を見る。


「事実だ。井戸や池だけじゃなく、畑も作物が戻っておる。全て領主様のお力だ」


「あ、ああ……」


「良かった……良かった……」


「俺達なにもほとんど何も持ち帰れなくて……もう村は終わりだって……」


どうやら死の森からはたいして持ち帰れなかった様だ。

まあそれが簡単にできる様な場所なら、そもそも4人も死んではいないんだろうが。


「あ、あの……領主様……生き返らせて貰えるって……本当なんでしょうか?」


男性の遺体に縋りついていた中年の女性が涙でベトベトの顔を俺に向け、おずおずと聞いて来る。


「ん、ああ。今蘇生させるよ」


「お願いします!お願いします!」


俺は女性の縋りついていた人物にランクアップを発動させ、5千ポイント支払って蘇生させる。


「おぉ……」


ぼろぼろの姿をしていたその男の体から傷が消えていく。

どうやら蘇生には回復の効果もある様だ。

まあ蘇生させてもダメージがそのままだったら、生き返ると同時に死んでしまうんだから当たり前か。


「う、ぅぅ……」


その顔色に生気が戻り、男が息を吹き返して呻き声を上げる。


「ここは?あれ?確か俺は……」


「あんたぁ!良かった!良かったよぉ!!」


そして目覚めたその男に奥さんが勢いよく抱きついた。


その様子に、俺もほっと胸を撫でおろす。

スキルに表示されていたから大丈夫だとは思っていたが、万一って事も考えられたからだ。

あれだけ自信満々に言っといて、やっぱ復活できませんでしたとか洒落にならない。


「りょ、領主様!!俺の……俺の弟もお願いします!どうか!どうか!」


「心配しなくていいよ。全員蘇生させるから」


俺は順番に全員を蘇生させていく。

その度に上がる歓喜の声を聞き、自分の判断は間違ってなかったと確信する。


残ポイント2千ちょっと。

環境も環境だし、頑張ってクエストとかを熟して集めないとな。

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