第2話 ランクアップ

「あっぶねー」


俺は鉈の刃先を、慌てていた首筋から慌てて離す。

危うく自殺するところだった。

危ない危ない。


「しっかし、ひでーな」


何がって?

自分の行動が、だ。


ああ、素行不良の部分じゃないぞ。

無能でいらない子扱いされたら、ぐれるのも当然だからな。

その事については別段反省していない。


問題は、ペカリーヌ王女に怪我をさせてしまった事だ。


「いくら初恋でやり方が分からないからって……」


恋愛ハウツー本に書いてあった当たって砕けろを物理的にするとか、完全にアホの子である。

ペカリーヌ王女には悪い事をしてしまった。


「いつか機会があったら、彼女にはちゃんと謝るとしよう」


まあ相手は俺の顔なんか見たくもないだろうが。

あくまでも、何らかの形で顔を合わせてしまったらの話である。


「さて、どうしたもんか」


世間一般では、俺はギフト無しの無能と言う事になっている。

だが違う。

ギフトはちゃんと貰っているのだ。


転生時に。

それも、超有用な奴を。


じゃあなんでギフト無し扱いになってるんだって?


簡単な事だ。

転生時に貰ったギフトは神の力に準拠する物であるため、一般の鑑定では判定できなかったに過ぎない。


「取り敢えず……【ランクアップ】があるから、生きていくには困らないとは思うけど」


【ランクアップ】

それが俺が神から貰った特殊なギフトである。


「まずはこの屋敷からだな。こんな廃墟みたいな場所で生活なんかできるかっての」


廃墟屋敷を見ると、【ランクアップ】の付随効果である鑑定で屋敷の詳細が示される。


『屋敷F-』


F-、これがこの屋敷のランクだ。

ランクにはFからSまであり、±も含めると21段階に分かれている。

Fのマイナスは言うまでもなく、その中における最低ランクだ。


「どれ、使ってみるか」


おれは屋敷に手を向け、自らのギフトを発動させる。

ボロボロの廃墟に近かった建物が光り輝き、まるで時間を巻き戻すかの様にみるみる修復されていく。


建物だけではない。

周囲の囲いや門なんかもだ。


「おお、こりゃスゲェな」


ランクをF-からCにまで引き上げた所、廃墟同前のボロボロだった屋敷はそこそこ見栄えのいい建物へと生まれ変わる。

これなら生活するのに十分だ。


え?

何で一気にSまで上げなかったのかって?


理由は簡単。

【ランクアップ】にはポイントが必要になるからだ。


この強力なギフトは、残念ながら無条件で使える物ではなかった。

スキル使用には専用のポイントが必要となり、無軌道にランクアップさせまくる事は出来ないの様になっているだ。


無制限にできてしまったら、滅茶苦茶出来てしまいそうだしな。


「ポイントは大分溜まってるけど、無限じゃないからな」


スキル使用に必要なポイントの獲得は3パターンある。


ひとつはデイリー。

毎日0時に10ポイントが入って来る。

1年で入ってくる総ポイントは3,650――この世界の周期は地球とほぼ一緒。


もう一つはクエスト。

俺には様々なクエストが用意されており、それを達成する度にポイントが付与されていく。


因みに、生まれてこの15年間で達成したクエストは一つもない。

まあ能力自体忘れてたんだから、そりゃそうだよな。


そして最後が狩りだ。

ある一定レベルの生命体を殺すと、ポイントが入る様になっている。

この世界には魔物が居るので、主にそいつらを狩って稼ぐ事システムだな。


現在俺の所持しているポイントは54,704ポイント。

生まれてから15年間のデイリーでたまったものである。

一けた台に端数があるのは、さっき屋敷につかったせいだ。


屋敷に使ったポイントは――


F-からF+に上げるのに2ポイント――1段階1ポイント。

F+からE+に上げるのに6ポイント――1段階2ポイント。

E+からD+に上げるのに12ポイント――1段階4ポイント。

そしてD+からCに上げるのに16ポイント――1段階8ポイント。


――全部合わせて、合計36ポイントとなっている。


基本的にランクが上がれば上がる程、ランクアップに必要なポイントは増えていく。

それに、何のランクを上げるのかにもよってもポイントは変わる。


例えば、このボロンゴ領を見てみよう。

まあここも最低ランクだろうが――


「え!?」


自らの与えられた領地を鑑定で確認し、俺は思わず変な声を上げる。

何故なら、ゴミ扱いされている領地のランクがA+と表示されたからだ。


「いやいやいや、それはないだろ?」


もう一度鑑定してみるが、やはりランクはA+のままだ。


「やばい魔物だらけの死の森と、荒れ地しかないってのに……なんでこんなにランクが高いんだ?」


完全に意味不明である。

因みに、ボロンゴ領をSに上げるのに必要なポイントは100万と表示されていた。


くっそ高い。

まあ領地は相当広しい、その影響力を考えると妥当なのかも知らないが。


「まあそこはいいや。まずは荷物でも運び込むか……」


荷馬車には生活用品や食料が積んであった。

まずは引越しを優先するとしよう。

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