第1話 絶望……からの
王家から除名され、男爵位を与えられた俺は強制的に領地――王国最南部のボロンゴへと送られてしまった。
「はぁ!?これが俺が暮らす屋敷だと!?ふざけんな!!」
俺を連行して来た馬車は、小高い丘に建つある建物の前で止まる。
そこにあったのは、朽ちかけてボロボロの小さな屋敷だった。
いや、最早それは廃墟と呼んだ方が正しいのかもしれない。
それぐらい酷い有様の建物だ。
そしてあろう事か、俺をここに連れて来た騎士は今日からそこが俺の住処だという。
最初は何かの冗談かとも思ったが、騎士の目は一切笑っていなかった。
え?
マジで?
これから俺は、この廃墟みたいな館で暮らすの?
その事実に唖然となり、数秒黙り込む。
そして感情が再び動き出した時、発狂して上げた声が先ほどの雄叫びである。
「お荷物の方は、荷馬車と共に屋敷の庭に置いて行きますので」
俺の叫びを無視し、騎士は錆びてボロボロの鉄柵の門を開け、従者達に荷馬車を屋敷へと運び込むよう指示を出した。
「ま、待て!こんな場所で暮らすなんて冗談じゃない!」
「エドワード男爵。これは王命です。逆らう様ならば、叛逆罪であなたを斬るよう私は命じられていますので」
そう言って、目の前の騎士は腰に下ているの剣に手を掛けた。
彼の放つ殺気は本物だ。
俺はそれにビビッて後ずさる。
「う、うぅ……分かった」
「お判りいただけたのなら結構」
荷馬車が2台、庭に運び込まれる。
「では、我々はこれで」
そして要は済んだとばかりに、騎士や従者達がこの場からさっさと去ってしまった。
「終わった……何もかも……」
俺の与えられた領地――ボロンゴは、荒れ地と、魔物達が
領民も100名足らずしかおらず。
そんな場所の領主に、真面な生活が送れるだけの収入などある筈もない。
しかも今年は記録的猛暑で、その領民も大半が死んでしまうのではないかと言われていた。
「くそう……」
王家で何不自由なく暮らしてきた俺にとって、この処遇は死刑宣告に近い物だ。
これなら国外追放の方がましまである。
一応王族の血を引いているので、上手くすればどこかの国に転がり込む事も出来るだろうし。
なら今から国外に逃げるか?
残念ながらそれは無理な話だ。
「腕輪があるから、逃げてもすぐに居場所がバレてしまうしな」
忌々し気に睨んだ俺の腕には、魔法の腕輪が嵌められていた。
これはこの地の領民達を支配するマジックアイテムであると同時に、俺の居場所を監視するための物でもある。
外す事も出来ないので、俺が領地から出れば即座にこの腕輪が王家にそれを通達してしまう。
つまり、俺は籠の中の鳥状態という訳だ。
「はぁ、最悪だ。確かに、ペカリーヌ王女に怪我させたのは悪かったと思うけど……いくら何でもこの仕打ちはあんまりすぎる!」
悪意があったわけではない。
好意ゆえの行動だったのだ。
ペカリーヌ王女は只一人、俺の事を差別せず微笑んでくれたから。
だから彼女を好きになった。
――出来損ない。
俺は生まれた時からそう言われて来た
人は生まれると同時に、神より
その効果は様々だが、例えつまらない物だったとしても、貴人は必ずそれを持って生まれて来るのだ。
――だが王族にもかかわらず、俺にはそれが無かった。
その事で俺は、神にすら相手にされない出来損ないの烙印を押されてしまう。
そのため誰にも期待されず、王族としての教育だって真面に受けさせて貰えていない。
『お前は余計な事をせず、ただ静かに生きていろ』
そう父に言われ、でも素直に従う気になれず、色々反発してきた。
そのせいで無能に加えて、人格面の評判も地の底だ。
こんな俺なんかの事を、真面に心配してくれている人間はいない。
唯一の例外だったペカリーヌ王女もきっともう……
「はぁ……出来損ないはどこまで行っても出来損ない、か。もうどうでもいいや」
俺はフラフラと門を潜り抜け、騎士が置いて行った2台の荷馬車に近寄る。
中を覗くと、荷空け用の鉈が目に留まった。
それを手に取る。
これで首を切り裂けば楽に……
そう思い、俺は刃先を自分の首元に当てる。
その瞬間――
「――っ!?」
思い出す。
自身の事を。
自分が何者であるのかを。
――そう、俺は転生者だ。
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