第78話
積極的攻めの姿勢ばかりの奴が出世するからダメコンできんのじゃ
ロートバルト平原の荒野、南南東から北北西へと伸びる過去の川の流れが道となり、河岸の跡が緩やかに丘になったその上にバイスローゼン王国軍とシュトロホーフェン公爵軍の連合軍は戦陣を敷いた。
この世界でも、高所に布陣した軍は優位との戦訓があった。
連合軍の総司令官であるシュトロホーフェン公爵の参謀や歩兵、重装歩兵、槍兵、弓兵、騎士など各兵科の指揮官は想定外の攻撃に一時的な混乱をきたしたが、結果的に好都合な地の利を得て落ち着きを取り戻していた。
「確かにあの亀のような鉄の魔導具は使える。なんとか無傷で鹵獲できないか? 」
厳しい顔つきに白髭の公爵は細かく魔法陣が彫金されたフルプレートの鎧に身を包み、自陣の天幕の中央にどっかりと腰をおろし、部下に指示した。
それに対してまだ彼が今のロメオ卿と同じ歳の頃から仕えている参謀が首を振った。
「無理だ。 女傭兵たちは一人一人は一騎当千の強者だとしても数十万の軍勢が夜討ち朝駆けで攻め込めば、数で押し切ることができる。
しかし一台の魔導具が放った数発の魔砲が一万の軍を混乱に陥れたのだ。それが三台も控えておるんだぞ! あれが打ち出すとどうなるかわかるだろう。」
「敗北主義者め、精強な国軍と戦い慣れた公爵軍があれば負けることはない。実際に我らは虚を突かれたが結果として高所の優位な場所に陣を構えることができた。」
「なぜ魔導士部隊は前に出てこないんだ。お前らの火力があればそう易々と陣営を食い破られることもなかっただろう!!
お前たち魔道士が恐れているのは、北方の黒いタールの生き物だろう!」
飛び火した魔道士部隊長の少年は驚いたように飛び跳ねたが、唾を口から飛ばして将軍に反論した。
「それもだが!! あれだけの鉄でできた得体の知れない怪物が精兵を抵抗もさせずに虐殺するのだぞ!? 魔法が当たってもどこまで損害を出せるかわからん!! それが何台もあればどうなるか!! 想像ができるだろ!! 」
「あいにくと軍人は現実主義者の集まりだ。 妄想ばかりを楽しむ魔道士には付き合いきれないぞ。」
「チッ、想像力の果てた枯木が。 」
「そこまでだ。 指揮官たちが争ってはどれだけ強い兵士もただの烏合の衆となる。どう動く? 」
「得体の知れない魔道具の火力は見るべきものがありますが、速度の乗った騎兵の突貫力には敵いますまい。弓兵で牽制し、騎兵突撃、その後に魔法兵による攻撃と駆け抜けた騎兵による挟撃による攻撃がよいかと。」
「魔道具が並ぼうとも、人間の兵は少ない。数で圧倒的な我が軍の優位は揺るぎません。 」
「とでも言っておろう。そこを突くのじゃ。 」
「異様に解像度が高い妄想っすね。ロリちゃんは声真似もするんっすね。 」
「姫さまは何かの情報を得ているのかと思っていましたわ。 」
ロリとアストラッドがチハたんに乗車し、ブリュンヒルデは自分の白馬の鞍の上で話し合っていた。
そこに伝令の令嬢騎士が駆け込んできた。
「正面より敵槍兵団が密集してこちらに向かってきます!
横五十列、縦十五列の集団が百、一列横隊を一つとして次々に進んできます!! 」
「まさか!? 街道から追いやった時に戦車の威力はわかったじゃろに!!
あやつらは馬鹿じゃなかろうか!? 」
予想と妄想が外れたロリは顎が外れるほど大きな口を開いた。
ロートバルト女男爵とロリたち『フェリ・フルール・ドゥ・リス』の陣の面前には盾で身を隠し、右手には長槍を構えた槍兵の軍勢が丘から行軍してきた。
楽兵の太鼓が轟く中、丘の端から端まで敵軍が足並みをそろえて陣形を三つ、四つと組み上げて進軍する様は本来なら抗戦意欲を失わせる光景だが、ロリたちには自分たちから進んで地獄の釜に落ちてゆく様にしか見えず鳥肌がたった。
「ロリちゃん、どう…するっすか? 前世の騎兵隊と戦車の戦いより酷いっすよ。 」
「タイムスリップした戦車部隊が侍たちに負けた作品もあったのう。じゃがあれは補給できずにジリ貧になったはずで、妾たちのように無制限補給じゃと圧倒的な物量差で逆にドン引きしてしまうのじゃ。」
「姫さま、どういたしますか? 」
「やるしかなかろう。 ユズ、戦車隊の覆いを外すのじゃ!! 」
「あ〜 よかったぁ。 術は簡単なんだけど、戦車が多いから魔力使って疲れてたんだよ〜 」
敵兵を目の前にして気の抜けたユズの返事に眉を顰めたブリュンヒルデたちだったが、彼女の行った百数台もの戦車を隠蔽した魔法に驚嘆していた。
ロートバルト軍からラッパの音が響いた。
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