第77話
先に怒った方が負けと思うのじゃ
シュトロホーフェン公爵からの烈火の如き宣戦布告が届いたのは、公爵令嬢の葬儀から五日後のことだった。
ロリたちはその1日前に戻ってきたマムルクから報告を受けていた。公爵令嬢の亡骸は年老いた乳母が確認し、彼女はそのすぐ後に殉死したとのことだった。
生母は遺体を見ることなく、葬儀では夫の公爵ではなく、後ろに控えていた彼女の見目麗しい男の守護騎士に身体を捻り込み、気絶した。
ロメオ卿の兄弟たちは彼らの取り巻きの貴族子弟とともに人目を憚ることなく泣いた。
そして公爵は目に涙はなかったが、顔を真っ赤にして怒りの表情を崩すことなかった。
これらの報告をしてくれたマムルクたちへは礼を弾み、帰国させた。
公爵の宣戦布告から三日遅れて王国から公爵家とともロートバルト女男爵に対して武力行使をするとの公布を出した。
エミリアも公爵家の令嬢が行った陰謀をまとめた声明を国内の諸侯、それに各国に公表し、抗戦を表明した。
国軍は公爵領へと進軍し、そこから公爵軍と合流することが確認された。
敵軍勢の動きを得たロリ、エミリア、ブリュンヒルデ、ユズ、アストラッドは大きなテーブルに広げたバイスローゼン王国の地図をもとに敵の進軍予想と会戦の地を決める軍議を開いていた。
「やはり、国軍と公爵軍を合わせて約十五万ほど、その後方には輜重兵が続いている様ですわね。」
「それらは街道を進軍しているっすかね? 」
「シュトロホーフェン公爵領はこの国の北東部に位置し、大してロートバルト男爵領は南西に位置しておりますから、街道を進むのが最も安全で早いですわね。 」
「他の貴族の反応はいかがでしょうか? 」
「公爵の影響力も低下していますし、ユズさまのロートバルト平野の横断から西方への貿易路の開発とそこから生み出される果実に目をつけた王国の財務や商務を司る若手官僚たちの野望を知ってますから、遠目に眺めている感じですわね。 」
「わたしが関係あるの? 」
「大いに関係しておるのじゃ。お主がどれだけの時間の節約と富をもたらすのか、考えるのじゃ。」
「実感がないなぁ。」
「姫さまはこれからどうされますか? 」
「まずは街道の封鎖じゃのう。」
東北のシュトロホーフェン公爵領より十日かけて進軍してきた公爵軍を中心に編成されたロートバルト地方の討伐軍はもう少しで男爵領に入るというところで足を止めた。
目の前には、土嚢が積み上げられ、その後ろには斜め45°の角度で街道を塞ぐ大きな鉄の塊が砲身の先を討伐軍に向けていた。
「矢を射かけよ。 」
「鉄に効果あるとは思えませんが? 」
先陣の指揮官の命令に首を捻りながら、副官が弓兵隊に命じた。
上空から急カーブで97式中戦車の上に落ちる矢の先はすべて戦車の黒鉄の防御に弾き返された。
キリキリキリキリ……
砲塔が回り、砲身が仰角をとった。
ズドーン!!!!!
うぁわ〜〜〜っ!!!!
公爵軍と国軍の連合軍の手前に落ちた徹甲弾は地面を抉り、兵士たちの足を止めた。
そこに97式中戦車の後ろから数台の94式軽装甲車が飛び出した。
テケたんはロートバルト平原の反対にある丘陵地帯に登り、上から連合軍に向かい機関砲を連射した。
上官も兵士たちを止めることができないばかりか、自分も率先して平原へとに逃げ散った。
テケたんは兵士たちを追うことなく、どんどんと行軍していた連合軍の兵士たちを平原へと散らして回った。
「前方はどうなっているんだ!? 」
「謎の鉄の怪物に平原へと追いやられています!! 」
「魔法兵団を前に出せ!! 」
「敵の動きが早すぎて、的を絞れません!! 」
丘陵地帯から降りながらテケたんの仲間が連合軍をロートバルト平原へと追いやり、連合軍の指揮官は突然の襲撃に対応しきれずに虎の子の魔法兵団を出すことができずに戦車部隊に背を向けて退避を進めた。
テケたんは連合軍を深追いすることなく兵士たちを散らして回った。
高級将校たちは撤退しつつも、徐々に兵たちの統率を取り戻し、平原に軍を展開した。
「まずは第一段階は成功じゃな。 」
ロリは平原の何処、ロートバルト女男爵軍の陣の中央に位置するチハたんの砲塔上のキューポラに身を乗り出し、不適な笑みを浮かべた。
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