第76話
少年の一晩の成長は汚されたわけじゃないのじゃ
少年が突然、鳥になろうと窓から空に飛び出した事件がやっと落ち着き、軽口が出るようになりアストラッド、アニカ、シャルロッテ、グレートヒェン、ヴィルヘルミーナ、そしてブリュンヒルデがロリの右脇に控えていた。
「ディートフリートだったか? 何があったのか聞きたくないのじゃが、辛い目に合わされたようじゃな。 」
「拉致されて南方の諸王国へ連れ去られ、あの悪女に愛でられていたそうですが、幸いにまだ男としては早すぎたようで、純潔は保たれていたそうです。と言うか、そう言った知識は全く持ち合わせていないと思います。」
「ねえ、ロリちゃん。ショタの強火担…… 」
「妾はそんな言葉は知らんのじゃ!! 」
「アストラッドも姫さまのお付きなら、言葉を選ぶのですよ。」
「あっ、はい……すみませんっす。」
彼女らの中で、ヴィルヘルミーナが口を開いた。
「どうされますか?」
「誰ぞ、早馬でディートフリートの父親に連絡して引き取ってもらうのじゃ。 」
「ノイエハイデルベルク辺境伯でしたら、即刻首を落とすかと。」
「みな野蛮じゃのう。どうしてこう短気なんじゃ? 」
「姫さまが言われますか? 」
シャルロッテがボソリと呟くと、ロリはごめんと呟き返した。
「雌犬の体はどうなったの? 」
悪気もない朗らかな声でグレートヒェンが尋ねると、アニカが暗い表情で答えた。
「腐りやすい部分を抜いた後に塩漬けにしてシュトロホーフェン公爵家に送ったそうです。北方に向かったマムルクたちとは違う部隊が届けると言うことで無事に戻ってくると思います。 」
「戦争になるのう…… 」
「避けられないかなぁ。もう戦い続きで、勝ってるうちはいいけどさぁ。」
ユズが気弱な発言をするとブリュンヒルデやシャルロッテたちが彼女を睨みつけた。
「でもユズさんのおっしゃる通り、勝っているうちはいいですけど、この先の落とし所は見つけないといけないっすよ。戦争は外交の一手段で結果や目的じゃないっす。 」
アストラッドの反論にブリュンヒルデは腕組みをしてやや考え、改めてアストラッドに尊敬の眼差しを向けた。
「相変わらずの見識の高さですわね。あなたのような子がなんで奴隷をしていたのかわからないわね。 」
「だから、したくてなったわけじゃないっすよ。 」
「姫さまはどう思っていらっしゃいますか?」
「そうじゃのう…… シュトロホーフェン公爵は自分の娘に誑かされて、戦争を仕掛けて、終戦の証の王家の交換も暗殺を潰した挙句に男爵家を潰そうとして逆に一万人の軍勢を敗退させたわけじゃ。そして出奔した娘も南でまた戦争を起こそうとした挙句にこうじゃ。 」
ロリは自分の首に右手を手刀のかたちにして横に引いた。
「よほどの愛娘じゃったのだろうが、面子も父親としても大激怒じゃろう。そしてバイスローゼン王国もエミリアに探りを入れてきよった。まあ、アルマン卿が程よく首輪をつけていたようじゃがな。 」
「彼はヴェルナー王子ですわ。姫さまのお越し入れ先ですわね。 」
「……? ハゲておらんのじゃ。 」
「誰も王子がハゲとは言っておりませんわよ。ハゲ、ハゲと言っているのは姫さまだけですわ。 」
「なんで自分から来たのじゃ? 」
「多分姫さま生存の噂はついでで、エミリア卿の確認ですわね。 」
「妾といい、エミリアといい、あやつは幼女趣味じゃな。 」
「そこは分かりませんわね。そうすると王国としては手を出さないでしょうか? 」
「あやつにどのくらいの力があるかわからんのじゃが、公爵家が本気になれば、国に圧力をかけることぐらいはできるじゃろ。国が出ると考えてもいいじゃろ。 」
「戦には勝つ。これは確定じゃ。そしてあのハゲ王子を立てて手仕舞いとするのじゃ。 」
「勝つ自信はあるのですね。」
「もちろんじゃ。グレートヒェンでもブリュンヒルデでもよいいのじゃが、ここまでの街道の太さはどのくらいじゃ? 」
「えっと、荷馬車が二台並んでも余裕があるかな? 」
「本隊が十五万程度、其れに輜重隊がつくとなるとここまでどのくらいの時間がかかるかのう? 」
「本隊とは攻撃する騎兵や歩兵たちがそれだけ来ると予想しているのでしょうか? 」
「まあなのじゃ。色々と情報は持ってゆかれたのじゃ。それくらいは出して物量で潰しにかかるじゃろう。 」
「だとしても、それだけの部隊の展開は困難ですよ。それに『フェリ・ドゥ・フルール・リス』は総員で二百名しかいません。 」
「勝てないよぉ〜 」
「じゃろうな。だから、キーロフ平原に舞台を作ってやるのじゃ。まずは相手の出方を待つのじゃ。 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます