第69話

(注:いつもの1.25倍くらい長いです。)


よい子アホの子元気の子 


 きっかり半月後、領民兵を外して、職業兵士と騎士のみを連れて公爵家次男のロミオ公子が進軍してきた。


 「聴け!! 魔道具を揃えて女に持たせて騎士団の真似事をさせるふざけた男爵!! 女のスカートの中に隠れる貴様のような腰抜けの男なぞ、貴族の風上におけねぇ。

 シュトロホーフェン公爵が第二子、ロミオ・マクシミリアン・フォン・シュトロホーフェンが退治してくれるわ。」


 「なんじゃ? なんで先回と同じ口上を上げておるのじゃ?」


 「おっといけねぇ。口上の書いた紙を間違えた。」


 ロメオ公子は手に持っていた紙片をしまい、今回の口上の紙片を探したが、見つからず、肩をすくめた。


 「お前は本当にど阿呆じゃのう…… それで、どんな顔をして来たのじゃ? よく父親に怒られなかったのじゃ。 」


 「先だってはすまないな。おかげで父の公爵によく気がついたと褒められたぞ。


 だが手は抜かねえから、覚悟すんだな!! 」


 「アホの子が良い子過ぎて、ためらいが出るのじゃ。」


 ロリは深いため息をつくと、表情なく、前髪に顔に影が被さり、目だけが光るメイドが応えた。


 「ですが、相手は滅ぼす気できていますので、遠慮は無用でお願いいたします。エミリアさまのために相手を殲滅していただけると信じております。」


 「本来はそうじゃのう。のうエミリアよ、お主はあやつらをどうするつもりじゃ。」


 「わぁはむしろ、どうすべばいいのか、教えて欲しいです。」


 「まずはあのスペアを殺してしまっては公爵が引っ込みつかなくなってしまうのじゃ。

 

 いや、もう引っ込みがつかないのは、つかないのじゃろうが、ガチで公爵家を喰らうまで、収まりがつかなくなるじゃろう。


 フゥム。


 いや。


 はぁあ……


 しょうがないのう。」


 ロリは身体のすべてのものを吐き出すように深い深いため息をついた。


 「砲兵隊は城門と城壁に配置せよ。間隔は広めじゃ。侍女やメイドの歩兵たちは砲兵たちの援護じゃ。サンパチちゃんで砲兵を狙うものを排除せよ。


 重機関銃隊は城門の上に配置せよ。彼女らにも直掩をつけて攻撃に備えよ。重機関銃は騎兵たちが前に出ないように威嚇をするのじゃ。


 グレートヒェンと銃騎士隊は待機じゃ。


 チハたんとハゴたん、テケたんは今のところ、妾たちの秘匿兵器じゃ。また待機を頼むのじゃ。


 アストラッドとユズは妾の横に、エミリアとブリュンヒルデも同様じゃ。ユズは弓や魔法に対する防御を頼むのじゃ。アストラッドとブリュンヒルデは妾の副官で参謀じゃ。意見具申を頼んだのじゃ。


 エミリアは、そのままいるが良いのじゃ。」


 「フェッ!? ロリちゃんさ、わぁも戦うゆうたじゃ!!

  出しとくれるんじゃなかったか!?」


 「覚えておるかのう? お主が旗印じゃぞ。旗が出て負けたらそれで一貫の終わりじゃ。今日は動くでないぞ。


 各部隊にはエミリアのメイドたちをつけよ。伝令を頼むのじゃ。情報は生の魚よりも足が早いのじゃ。アストラッドとブリュンヒルデに逐一報告し、二人は妾に伝達するのじゃ。


 アニカ。」


 「はい、ここにおります。」


 「砲兵たちは戦場を支配する女王という言葉もある。」


 「初めて聞きました。」


 「もしかすると女神だったかもしれんのじゃが、ともかく、バカ火力は戦場を支配する要じゃ。砲兵たちには公爵軍に当てぬように前方と後方ギリギリを狙わせるのじゃ。


 本来なら、測量と言って距離を測ったり、夾叉と言って砲の距離を合わせるのが必要なのじゃが、そんな暇はあるまい。


 すまんが、魔法でなんとかするのじゃ。


 多少当てても紛争なら仕方がないのじゃ。


 ともかくあの交換部品とその周囲を殺すのではないのじゃ。


 今回は砲撃による火力の飽和攻撃で、公爵軍とあの次期公爵の予備品がお漏らしするほど打ち込むのじゃ。重機関銃隊も同時に兵たちが前方へ出ないための足止めで発砲するのじゃ。


 初めが肝心じゃぞ。せーので撃つような斉射は必要ないが、爆発力で驚かせるのじゃ。


 わかったか?」


 「……多分。」


 「アニカ? 姫さまお言葉が理解できないとはなんと信心が足りない娘なのですか?

 姫さまの言う通りにすれば全てがうまくゆくのですわよ。」


 「はい!! 義姉さま!!! わたしが至りませんでした!!!! 」


 「いや、初めてのことじゃ。理解できなくて当たり前じゃ。


 あとね、ブリュンヒルデもそう、あのね、信心? って言った? わたしの聞き間違いだったらごめんね、でもね、もしもね、そうなら、ちょっとその言葉は怖いからやめてね? 」


 「ロリちゃんがびびって普通の言葉になっちゃったっす。」


 「いきなり信仰対象となっちゃったら、怖いってば。」


 「ともかく!! 砲兵は魔法兵と一緒だと思うがいいのじゃ。魔力で敵に攻撃するのと同じじゃ。


 アニカよ、配置を進めるのじゃ。


 皆のもの、頼んだのじゃ!! 」


 何もかもを無かったことにするようにロリは大きな声をあげて、命令した。

 続いてブリュンヒルデが落ち着いたアルトの響きながらも声色に威圧を込めて喝を入れた。


 「聞こえていましたね。今回、我らがカロリーヌ姫さまが直接指揮をとられる初陣です。


 『フェリ・フルール・ド・リス』の義姉妹たちで姫さまに勝利を捧げる義務があります。


 故郷に残らざるを得なかった義姉妹たちにも恥ずかしくない戦いをしましょう!! 」


 「おー!! 」


 『イリス』の令嬢、淑女たち、彼女らの侍女、メイドたちは拳と共に鬨の声をあげた。





 「……女どもが気勢をあげているな。どう思う? 貴様は前回、あの卵男と一緒に降伏をさせにいったのだろう? 」


 「どうなんだ、百人兵長? 返答を許す。」


 ロミオの疑問を副官で彼の側近である参謀章を肩につけた青年が伝達した。


 「はい。ロミオ様の弟様の配下でもありました重装騎士隊の貴族の方々も彼女らの個々の戦力に敗北しています。

 前回は事前情報になかった魔道具による攻撃でパイク兵も何もできずに負傷、使者どのについていたお小姓が口にされた『鉄の化け物』とやらが出る間も無く撤退してます。」


 「それは報告書で読んだ。で、どう思うのだ!! 」


 参謀章をつけた側近のイライラした棘のある言葉にも百人兵長は顔色変えずに胸を張り答えた。


 「底がしれません。敵の赤い巻き毛の指揮官が勝てると考えているのでしたら、彼女らは勝つでしょう。」


 「貴様!! 女に一度負けたからと言って敗北主義に囚われるとは情けないぞ!!! 」


 「そう思われるのでしたら、一度軽く当られるとよろしいかと。


 それでも参謀殿がわたしを敗北主義者というのならば、この首からその文字を大きく書いた看板を吊るして、これから生きてゆきましょう。


 正直わたしのような平民出のたたき上げには、彼女らの武器に対して説明するような頭はありません。


 わかっているのは貴族の重装騎兵ですら、手玉に取られるほどの戦力と、まだ練度が低いながらも統率のとれた騎兵隊や騎士たちの能力の高さとそれら全員が持つ未知の魔道具です。


 そこから何を導き出されるかは、参謀たる上官殿であります。


 わたしのような平民出の兵長はあったことを話すだけであります!! 」


 一見、階級の上下による立場を守っているようでも、ほのかに上官である参謀役のロミオ公子の側近を試す言葉を垂れ流す兵長に彼は苦い顔をした。


 「ちっ! もう良い!! ロミオ様、敵は戦い慣れていません。その証拠にいまだに城門の扉は開いたままで、堀の跳ね橋もあげていません。突撃命令を! 」


 「いやな。再度出陣する際に、親父からロートバルトの街は交通の要所で破壊や略奪は控えるようにと厳に申しつかったのだ。


 なんとかできるか? 」


 「えっ? そう言うことは早く話してくれると助かりますが…… 確かに南北と西方への交易が盛んのためか、城壁も低いですし、乗り越えもノイエハイデルブルクの国境の都市よりは楽だと思いますが、まずは城門へと早々に突撃して入口周辺を確保しましょうか? 」


 「うん。そうだな。半月ほど間があったのに、まったく準備していないとは、やはり娘男爵と取り巻きの女騎士だけあって、素人感丸出しだな。 」


 「半月ほど間があった? ロミオ様! …いえ参謀殿、それはどう言うことですか?」


 「ふん。さかしらげな幼子が収穫や税の取り立て前に領民兵を使うことに対して、指摘があったのです。おかげで収穫や徴税のための人出は確保できて助かりました。」


 「いや、それは相手に情けをかけられてたのでは…… ウッンンッ!! 敗戦勧告の使者が送られる前に公爵家の影が前宰相の襲撃に失敗していたとのことで、あの娘っ子たちは使者の兵隊が来ることとを想定してました。


 今回もそれをしていない保証はありません。


 ならば、なんらかの意図を込めて、この半月の猶予を勝ち取ったと考える方が自然です!! 」


 「そうなのか? 俺は半月後に来ると言い残して去ったからなぁ。でも半月でどんな準備ができるんだ? 」


 「熟練の将ならば、なんでも。」


 「だが、娘たちだぞ!! それも綺麗な!! 」


 「いや、参謀殿、綺麗なはこの際、関係ないです。」


 百人兵長のツッコミに顔を真っ赤にした参謀の側近は俯いた。


 いや、わかるんだけどよ。あの娘っ子たち絶対貴族の令嬢たちだろう。女の冒険者や傭兵とは違って見た目にも金かけてるだろうし、娼婦のように世慣れしたふてぶてしさもないからな。

 重装騎士も心まで奪われてしまったみたいだし、この参謀はまだガキだしなぁ。


 百人兵長は心の声を閉じ込めて、知らぬふりをして、城門を見上げた。


 俺、また泥舟に乗っちまったかな?


 百人兵長は我が身の運の無さを恨んだ。


 「ともかく、戦闘準備だ!! 」


 参謀が叫んだ時、百人兵長は城門の上にきらりと光が反射するのを目撃した。

 百人兵長は上下の階級差に関係なく、大声で命令した。


 「ふせろ!! 」




 ヒュ〜ン

 ヒュ〜ン

 ヒュ〜ン

 ヒュ〜ン

 ヒュ〜ン




 間の抜けたような、気の抜けたような空気音がいくつも空に抜け、赤い大地と岩を砕いた。

 地面が揺れ、街道を埋め尽くした一万の公爵軍の目の前に砲撃が地面に花を開いた。


 89式重擲弾筒や97式曲射歩兵砲から発射されたピンク色の魔法弾の軌跡からの煉獄のような爆発の炎が前後を取り囲み、侮っていたロミオ公子配下の軍人たちが恐れで身を固めて、動くことができなかった。


 いくつかの砲弾は公爵軍の中に着弾したが、概ね公爵軍を前後に挟むように着弾し、騎士、歩兵、輜重兵の兵種に関わらず平等に衝撃と赤い地面に着弾し、爆発により飛び散った砂や礫が彼らの頭の上に降りかかった。


 迫撃砲と擲弾はロリやアストラッドの記憶の男たちがいた世界では火力としては小さい方に分類される。


 それでも歩兵や機械化部隊の足止めに使われ、陸上の部隊展開の阻害として重宝されている。


 ましてや、魔法による火力に馴れているはずの、彼らでもおおむね軍の編成や運用が中世欧州レベルのこの異世界での火砲の集中運用は発想の埒外で、近代戦以降の兵士たちが爆風に対して身をかがめて避けることすら知らずにただ棒立ちになって、動くことができなかった。

 

 


 「なんだ!? 」

 「魔法か!? 」

 「逃げろ!! 」

 「後ろも爆発してるぞ!! 」

 「動けねぇ!! 」

 「死ぬしかねえ、死ぬしかねえのか!?」

 「喋ってる間は元気だろ!! 」




 

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!!!!!





 参謀の命令で突撃しようと準備していた騎兵隊の前方に城門の前に設置されたマリア=テレジアやゾフィー、エリザベートらの92式重機関銃が連射され、足止めされた。


 「くそっ!! どうなってんだ!! 1万もの兵が足止めされているぞ!! 」


 「突撃も後退もできません!! ロメオ様は頭を下げていてください!! 魔法ならばいつか魔力切れになります!! その時が狙いです!! 」


 「そうか!? 百人兵長!! これは見たことあるか!? 」


 「いえ、こんなのはないですよ!! ドドドドドッて来るやつは知ってます。三発で使者の馬車が木屑になって、馬を縦に突き抜けて後ろ半分が粉砕されてました!! 人が当たったら、影も形もなくなるやつです!!

 ですがこんな流星を打ち出して爆発して地面を揺らすような魔道具なんか見てないです!! 」


 「なんと恐ろしい!? 魔力切れになるのか!? 」


 「なる前に騎兵突撃がありました!! 乗馬しているのは娘っ子ですが、これよりも威力は小さいけど、鎧ごと胴抜きできる魔道具を全員持ってました!! 」


 「大袈裟じゃないだろうな!! 」


 「公爵家の軍が辺境の娘男爵に負けたんですよ!! 察しろよ!! この石頭のガキ参謀!! 」


 「なんだとぉ!? 」


 「うるさぁ〜い!!!!!!!!!! 攻撃が止んだぞ。」






 先ほどの砲撃音が消え、耳が痛いほどの静寂に公爵軍が当たりを見回した。


 アニカが拡声魔法と指揮のための固有スキルの一つを用いて、味方と敵に話しかけた。


 「傾注(アハトゥンク)!!!! 


 どうですか? 身動きが取れないでその場で粗相をしていませんか? 南方の平原の陽は平等ですから、しばらくして乾かしてくれるでしょう。


 このまま、おめおめと逃げ帰っても、我らがエミリア・アレクサンドラ・リュニリョール・フォン・ロートバルト女男爵は王宮や夜会であってもお優しく接してくれるでしょう。」


 アニカは指揮棒をどんと石の床に打ち付けて、冷笑した。


 「くっ、エミリア娘男爵の父親の裏切りは明白なんだぞ!!


 そもそも、なぜこんな戦力を持ちながら、しょぼい十人程度の騎士団を率いて、最終戦争に参戦したのだ!? それだけでも不服従の証だろう!?」


 「なっ!! なんじぇそんなこと言うのじゃ!! わぁのおっとぅはなぁ…… おっとぅは…… 」


 エミリアは次の句を告げずに泣き崩れた。

 ロリはエミリアの肩を抱き、彼女を支え、大声を上げた。


 「乙女を泣かせるのも大概にせい、この女の敵。


 代わりに妾が答えてやるのじゃ。


 戦場の出来事など見る目が変われば、黒を白と見間違うこともあるのじゃ。


 じゃから、双方の王国から戦時監察官が出取るのじゃ。

 何か疑問があるのなら、監察官に聞くが良いのじゃ!!


 あと、お主が恐れ慄いておるこの戦力は、令嬢の教育と保護がサービス内容のプライベート・ミリタリー・カンパニーである『フェリ・フルール・ドゥ・リス』商会のものじゃ。


 妾はエミリアとバイスローゼン王国の先の宰相、アルマン・デュ・プレシー・フォン・リシュリュー卿とエミリア・アレクサンドラ・リュニリョール・フォン・ロートバルト女男爵によりロートバルト領の保護、エミリア卿の教育のために雇われた商会の商会長じゃ。


 我らが来たのは、つい半年もたたぬ頃じゃ、どういうわけか、契約していたマムルクの奴隷騎士団たちが契約を切り上げて去ってしまったために、急遽、妾たちが後釜として両名と契約をしたのじゃ!!


 お主らの指摘は的外れも良いところじゃ。


 わかったら、とっとと引き下がることじゃ。」


 「おっ、おう。戦時監察官の話は初めて聞いたぞ。だが、シュトロホーフェン公爵領ではすべてが娘男爵の父親を貶してるぞ!?  」


 「……おっとさまがかわいそうじゃ。不憫でかなわねぇ。なんのために公爵の要請で六つも年下のワラシと駆け落ちした娘っ子のために騎士団もろとも戦死したのか、わがんね。わがんねじゃ。なして、命を取られた後まで、名誉まで、しかも忠義立てした公爵家に奪われねばならんじゃ。これじゃおっとさまが浮かばれんじゃ。

 わぁはいい。

 でもおじじも剣を振り回したことのないおっとさまが忠義のために死んだことを誇りに思いながら、わぁを助けて、この戦いで使い果たした男爵の身上をすべて領民に差し出して、それでもわぁを女男爵にしてロートバルトを治めるために力を果たし尽くして、明け方ペンを握りしめたまま執務室で死んどったのじゃ。


 何回も言うじゃ!!


 わぁはいい!!


 わぁはロートバルト女男爵じゃ。


 王様にもあったことさねぇ、書状だけで襲爵した田舎男爵じゃ。

 綺麗なおべべを着て、王宮で成人のお目見えの舞踏会で踊ったことさねぇ。


 こんな筆ダコやら剣ダコでボコボコで鋤や鍬も握った荒れたこの手の田舎娘をデビュタントととはいえ、握って踊る貴族さまがかわいそうじゃ。


 だからいいのじゃ。


 でも、わぁのおっとさまやおじじさま、そしてわぁの家をばかにされて、そのままやり過ごすわけにはいかんべさ!! 


 若様には悪いが、わぁの親と祖先のために、わぁは戦うじゃ。」


 啜り泣くエミリアの可憐な姿にロミオは胸を押さえて苦悶の表情を浮かべた。


 「俺は……俺は……何をしてるんだ? あんな可憐な少女に対して俺は…… 」


 「しっかりしてください!! 


 まったく嘘泣きで虚言を弄するとは、恐れ入りましたね。


 アントネット公爵令嬢を貶めるとは恐れを知らぬ田舎娘め!!


 あなたたち背信行為とその後の行為に関しては明白です!! 」


 ロミオ卿を叱咤しながらも側近が狂気にも近いほど甲高い声を張り上げてエミリアを否定した。


 しかしロリは冷静に反論した。


 「それを戦時監察官が認めていないと言うことは、その事実が答えじゃろう。


 口上での合戦はこれ以上してもただの水かけ論じゃ。


 それでも、現状のお互いが信じている出来事を真実とするならば、互いの鉄と血で真実を決するしかないじゃろう。


 あとのう、一言言わせてもらうのじゃ。


 アントネットという貴族の令嬢が幼く美しいローゼンシュバルツ王国の王女の婚約者を奪ったと聞いておるぞ。

 そのものも未だ幼い無垢なる少年だったそうじゃな。


 男女の機微や意味すら知らぬような十そこそこの幼い少年が婚約者を捨ててまで逃避行するほど美しいのだろうが、公爵家の令嬢教育は随分と野獣のように肉食なものじゃのう。


 ロミオとやら、お主たち公爵家はその辺をどう捉えておるのじゃ?


 12歳の男の子が18歳の娘を本当に拐って自分のものとしようと考えるか?


 どうじゃ? 」


「そのような事実などない!!!!


 よしんばそのようなことがあったとして、あの貧弱な辺境伯の息子の嫁になるはずだったローゼンシュバルツの妖怪が恐ろしくてアントネットさまに相談したのだろう。アントネットさまは無私の聖女。その坊主を守るために逃げたのであろう!! 」


 「妾は妖怪じゃったのか?」


 「殺す。 あの役立たずの軍師気取りの若造の舌を抜き、首を切る。」


 「いや、ブリュンヒルデ? わたしのことを答えてくれればいいのよ? ひとまずそれで次の行動も決まるしね。だから、そんなに覇気を周囲に撒き散らさないで。漏れちゃうから。」


 「……姫さまは幼い頃より全てを理解していました。私生活がだらしないということも姫さまの中での優先順位で低いことは教育係の私たちにも理解できましたが、それは令嬢の中の令嬢たる王女さまには許されることではありませんでした。


 姫さまは常識外に生きる王女さまでした。


 それが我々、『イリス』の熱狂的な忠誠を受けることもあれば、その生き方を理解できず、受け入れることができないものもいました。」


 「で、その男の子はどっちじゃ? 」


 「残念ながら、わたしにはわかりません。ノイエハイデルブルク辺境伯家の繋がりのあるものに尋ねるしかないです。あとで確認しておきます。」


 「わかったのじゃ。」

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