第68話

メスガキって言葉って下品じゃなくって?


 

 「まさか、あの言葉がフラグになるとは思わないのじゃ。」


 「ロリちゃん、乙っす。」


  再度、城門の上に立つロリの眼下には、以前とは比較にならないほどの兵が広がり、バイスローゼン王国とシュトロホーフェン公爵の旗を掲げていた。


 「聴け!! 魔道具を揃えて女に持たせて騎士団の真似事をさせるふざけた男爵!! 女のスカートの中に隠れる貴様のような腰抜けの男なぞ、貴族の風上におけねぇ。

 シュトロホーフェン公爵が第二子、ロミオ・マクシミリアン・フォン・シュトロホーフェンが退治してくれるわ。」


 ロミオと名乗るシュトロホーフェン伯爵の第二公子が口上を述べた。

 ロミオは肩までの長い金髪を乱雑にまとめ、魔法銀(ミスリル)の合金の素材に細かい金地の彫金で魔法陣を刻まれた鎧を見に纏い、堂々と胸を張り、間違えた情報をもとに口上を高らかに叫んだ。


 「う〜ん、アホの子が来たのじゃ。」


 「ロリちゃん、わぁにしゃべらせてくんねか? 」


 「う? うむ、誰か? エミリアの声を拡声するのじゃ。」


 「では、わたしが。」


 「アニカか、頼んだのじゃ。」


 「ロミオ・マクシミリアン・フォン・シュトロホーフェンとやら!!


 なんも知らずによくここまで来た!!


 その考えずに行動するしかできない貴様の頭に免じて、名乗りを上げてやります!!

 

 わたしはバイスローゼン陛下よりこのロートバルトを治めるように拝命つかまつった、エミリア・アレクサンドラ・リュニリョール・フォン・ロートバルト女男爵です!!


 公爵の次男風情が、国王陛下から襲爵された女男爵を愚弄するばかりか、その相手のことすら知らぬとは恐れ入りましたわ!!


 バイスローゼン王国がまだ南へと進める余裕のない、はるか昔にわずかばかりの戦士と領民を連れてノーマンズランドたるロートバルト平野の小鬼やモンスターを討伐し、王国へと寄贈したロートバルト家を愚弄するか!!

 

 我がロートバルト、そして北方高位種族連の地位をもつハイエルフのリニュリョール家の血に誓って貴様に敗北をあじわせてやる!! 」


 「うゎぁ、北方高位種族連の名を出したっすよ。ロリちゃん。」


 「本気というわけじゃの。」


 ロリたちの感想が終えた頃合いに、ロミオ公子が声を張り上げた。





 「なるほどメスガキならば仕方がない。とでもいうと思ったか!! 


 南方の猿と北方の田舎者の混じり物が家を誇っても誰も知らんわ!!!!


 栄光あるバイスローゼン王国と、北の野蛮なローゼンシュバルツ王国との国境を完全無欠に決める最終戦争で浅はかにも利敵行為を行い、我が精悍なる公爵軍にすり潰された男爵軍が王家に偽りの報告をし、哀れみを誘い陛下を偽るとは、さすが混じり物のエセ貴族!!

 

 メスガキの素っ首を持って、ただしてやる!! 」


 「わぁが、猿と田舎者の混血なら、お前はこの間までお手洗いの後も手も洗わずに手掴みで肉とパスタを食らって服で手を擦っていた野蛮人の息子じゃろ!? 」


 「ふふふ、まだ毛深く額の狭い類人猿だった頃から高度魔法社会を形成していた北方高位種族を愚弄するなどとは片腹痛い。奴らを泥の底なし沼に沈めてやりましょう。」


 「エミリアさん、落ち着いて!! 」


 「後ろの奉仕種族も手出ししちゃダメっす!! あれは頭が空っぽで洗脳された貴族のバカ息子が勝手に言ってるだけっす!! 」 


 いつもはお淑やかで慢性疲労気味の血の気のない美少女が歯をむき出しにして、公爵家の次男の首を噛み切らんばかりに恐ろしい表情をしたエミリアと表情どころか、顔の構造も取り繕わなくなったメイドや執事たちの顔にタールのように重苦しい影が差した。


 必死になってユズとアストラッドが彼女らをとどめていたが、抑えきれないとロリに無言で訴えた。


 ロリはアニカの腰を叩いて、自分の声を拡大するように求めた。


 「シュトロホーフェン公爵家後継の予備品とやら、先だっての使者が尻尾を巻いて帰ってから、早々に軍を整えて来たことは褒めてやるのじゃ。


 次代の公爵候補の兄がよっぽど安泰で、出る幕がないから南の金のガチョウを手に入れようと焦ったか?


 じゃが、お前は父親の許可を得たのか?


 北東のシュトロホーフェン領では、まだこれから小麦や芋やらの収穫や保存、納税のための準備に忙しいところじゃろう。よく、領民を徴兵できたものじゃのう。


 妾たちは相手をしてやっても良いが、公爵家に収める税の準備もできず、来年も収穫を減ることが目にみえることも意に返さずに遥か遠くの南の辺境まで軍を進めて、徴兵した領民をすり潰すとはお前の父親は豪気なものよう。


 ただでさえ、あの紛争以降、青色吐息と聞いておるが、こんなところにいて良いのか? 」


 「ちっ、ちょっと待て!! あの女のいうことは本当か? ……いや、そうだろう。ただの戦前の口上…… 何? いや、こやつのいうことを遮るな!! お前らは軍人で農民ではないだろう? ……えっ? では来年はどうなる? ……うむむ……


 ちょっと待て、なしだ。


 領民兵は戻さねばならぬことがわかった。


 出直すので、そのまま待て!! 」


 「いつまでじゃ? 」


 「うむむ…… 半月ほどだ!! 良いか!! 領民兵に手を出すなよ!! 」


 「やはり育ちの良いバカは素直じゃのう。 エミリア、領民兵の帰還の保障はしてやるのじゃ。地の塩に罪はないのじゃ。 」


 「……わかりました。わぁは別に国を潰したくないので、そんでええのじゃ。」


 「うむ。よく堪えたのじゃ。


 わかったのじゃ!!


 それまでお前らはどうするのじゃ!? 」


 「ちょっと出直す!! 待っていろよ!! 」


 ロリはベーと舌を出した。







 なんともしまらいシュトロホーフェン公爵軍が撤退したのち、ロリとユズ、アストラッドとブリュンヒルデ、マリア=テレジアは98式走行運搬車に89式重擲弾筒と97式曲射歩兵砲を積み、ロートバルト平原に出た。


 「さてと今日はこれらが使えるかどうかを調べるのじゃ。」


 「これらはどう使うんですか? 」


 マリア=テレジアの質問にアストラッドは5センチほどの直径の円筒にU字型の支えがついた89式重擲弾筒を手に取った。


 「これはこの曲がったところを地面に置いてここの筒に弾を入れるっす。そして引き金を引くと弾が飛んで爆発するっす。こっちの曲射歩兵砲は数人で使うっす。敵の距離を測って、それに合わせて筒の角度を決めて、筒の先から弾を入れて打ち出すっす。

 どっちも弾を遠くに飛ばせて、サンパチちゃんなんかよりずっと威力が高いっす。

 ただどうやって使うのやら、よくわからないっすよ。」


 「まあ、そこは実践するしかないのう。」


 ロートバルト平原でも冒険者の来ない場所で98式走行運搬車を停めたロリたちは荷物を出した。


 「まずは擲弾筒からじゃ。うむむ〜 ユズよ、これを構えよ。アストラッドは教えてやるのじゃ。」


 「は〜い。」


 「えっ? アストラッドじゃなくて、なんでわたしなの? 」


 「アストラッドは魔法が使えんからのう。ユズよ、怪我をしないように魔法をなんでも使うのじゃ。」


 「あ〜 なるほどねぇ。ロリちゃんはもう少しわたしのことを気遣ってもいいかもねぇ〜 」


 「本気になったお主をどうやって傷つけるのじゃろうなぁ? 」


 「さあ、やってみようか。 」


 ユズはアストラッドの言う通りにUの字の部分を大地に据えて、角度をつけた。


 「こんな感じでいいかな? 膝の上にほうが安定しない?」


 「それをやった敵の太腿の骨が折れたっす。ちゃんと地につけるっすよ。

 あと的はないから、角度は前に飛ぶぐらいでいいと思うっす。さて、これからどうするっすか? 

擲弾はないっすよね? 」


 「うむ。妾が擲弾を打ち出す係をするのじゃ。」


 そう言ってロリが擲弾筒に手を触れるとピピピと電子音が聞こえ、ロリは手を離した。

 電子音は消え、ロリは周囲の少女たちの顔をみまわした。


 「なんか聞こえなかったか?」


 「えっ? 別に聞こえなかったすよ。」


 「わたしも〜 」


 「おかしいのじゃ…… ほら!? 聴こえるじゃろ!! 」


 「聞こえないよ? 」


 ロリはユズたちの答えにほのかに恐怖を抱いていると、筒の脇にピンク色の横長のゲージが見え、動いていた。


 「ファ!? 」


 ロリが驚きで手を離せないでいるとゲージがいっぱいになった。

 何も考えずにロリが引き金を引いた。


 ボシュ!!


 空気と共に気の抜ける音と共にピンクの光の塊が空を飛び、ロートバルト平原の赤い荒野に着弾し、爆発した。


 「フォォォォォ!! 」


 「どうやったんすか? 」


 「なんか、触ってると筒の横にピンク色の横バーのゲージが出て、ピピピって電子音が聞こえるのじゃ。んでゲージが満タンになって引き金を引くとポンって弾が打ち上がったのじゃ。」


 「レトロゲーの決め技のゲージみたいっすね。でもピンクっすか。」


 「他のもの……アストラッド、お主、魔法は使えなくても魔力はあるのじゃったな。やってみぃ。」


 「うん。……わっ!? ほんとにゲージが出てきて、音が聞こえたっすよ。あ〜満タンになるっすね。」


 しゅぽっ!!


 ヒュルルルルルルゥ…


 ドーン!!

 

 「すごいのじゃ。」


 「テケたんの戦車砲よりは威力は弱いでしょうけど、それでも騎兵でしたら飛ばせそうですわね。」


 「どれだけの魔法力を必要とするのか、各自、一度ずつ試射してみるのじゃ。」


 「はい。」


 ロリの命令でそれぞれが試射を行ったが、ピンクのゲージが見えてと電子音が聞こえたのはロリとアストラッドだけで、その他のユズやブリュンヒルデ、マリア=テレジアは水甕のような何かが溜まるようなイメージが浮かび、引き金を引くと擲弾の代わりにやはりピンクの魔力弾が打ち上がった。

 ユズとブリュンヒルデの話し合いの結果、魔法が使えなくても魔力を持つものならば、ある程度撃つことができるほどに魔力消費量が少ないと言う結果になった。


 「おお、予想通りじゃのう。」


 擲弾筒よりも遥か遠くの荒野に大きな爆発による穴を開けた曲射歩兵砲は擲弾筒よりも魔力消費が多く、扱える人間を選んだが発射の手順は擲弾筒と同様に、魔力が溜まると各人にあった方法で知らせて、発射するものだった。


 「これで戦術の幅が広がるっすね。」


 「ああ、じゃが、余裕があまりないと言うことがネックじゃ。さて、どうしたものじゃのう。」

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