第54話

カントリーハウスって愛憎渦巻く舞台装置って印象が強いのは海外ドラマの影響ですね。


 ロリは今後、拠点とするために借り上げたカントリーハウスに戻ると、馬車が十台以上も停められ、ロートバルト女男爵家の制服や他の家の見かけたことない制服を着たメイドや下働きの女性が忙しそうに働いていた。


 彼女らはチハたんやハゴたんなどの戦車と共に無口な98式走行運搬車ーソダ車数両、くろがね ニューエラ号が一両が敷地に入ってきたことに驚きの声をあげて、ヴィルヘルミーナを呼びに中へと駆け足で戻った。

 すぐにヴィルヘルミーナとその侍女である眼鏡の女性が駆け寄ってきた。

 

 「殿下。無事なお帰り、喜び申します。」


 「何を大袈裟なことを言っておるのじゃ。この者たちはなんなのじゃ。」


 「第二陣できた者たちとロートバルト女男爵家より借りたメイドです。二陣の者たちは『イリス』が護衛しながら、乗馬のできないメイドや先行したそれぞれの家からの荷物を馬車で運んで来ています。つい先ほど、到着いたしました。」


 「それはご苦労であったのじゃ。妾たちも無事に武器とチハたんの仲間を連れてきたのじゃ。」


 「おお、鉄獅子が増えていますね。これは心強いですが、武器類はどこでしょうか?」


 「鉄獅子とは誰から聞いたのじゃ? 確かにチハタンはそう自称しておるな。荷物はユズの空間魔法で収納しておるのじゃ。どこぞで、出したいのじゃが、邪魔にならんところはないか?」


 「ではユズ様はこちらへ。グレートヒェン! 馬車小屋の向こうの石倉にユズ様を案内をしてください。」


 呼ばれたグレートヒェンはこれから、ここに住む令嬢や淑女の部屋割りの采配を自身の侍女である黒髪の落ち着いた女性に任せて、玄関前のロリたちの元にやってきた。


 「はい。わかりました。お荷物はどのくらいございますか?」


 「そうだなぁ、木箱で150個くらいかな。大きさはこのくらい。」


 ユズは自分の両腕で大きさを示すと彼女は驚いた様子を見せながらも、ユズを連れて奥にまわった。

 二人の様子を見送ったヴィルヘルミーナはロリに向き直った。


 「では姫様に到着した者たちの紹介を……」


 「ああ、よいのじゃ。いまついたばかりで慌ただしいのじゃろう? 落ち着いて明日の朝にでもするがよいのじゃ。妾たちも一晩、野宿であったからな。今日は冒険者ギルドの温泉に浸かって、あそこの食堂のおばちゃんのご飯を食べて、ゆっくりとするのじゃ。」


 「ええっ!? 姫さまはこちらに戻られるのではないのですか!?」


 急な大声にロリは両方の手のひらで耳を塞いだ。

 周囲にいた令嬢や使用人たちが一斉にロリたちに向かって驚愕の表情をした。


 「妾たちはまだテントが棲家じゃ。それに片付けもおわっておらんのに妾が居を移したら、迷惑じゃろが。」


 「そんなことありません!! 一番に姫さまのお部屋を整えましたのに!! 」


 わらわらと歳若い令嬢たちが集まってきて、ロリを取り囲み、口々にカントリーハウスに住むように説得しはじめた。


 「気持ちはありがたいのじゃが、妾の好きさせて欲しいのじゃ。アストラッド、ユズが戻ってきたら、チハたんに乗車じゃ。ハゴたんとテケたん、そのほかの車両はここで『イリス』たちと共におるのじゃ。ブリュンヒルデ。」


 「はい。」


 「明日の朝食後にお主が迎えにくるのじゃ。よいな。」


 「……はい。謹んでお受け致します。では姫さまはごゆるりとお休みください。」


 「お義姉さま!! 」


 「姫さまのご命令は絶対だ。それが私たち『イリス』だ。」


 非難がましい目でブリュンヒルデを見つめていた彼女らはブリュンヒルデの一言で顔付きを真剣なものに変え、その場でロリにむけて片膝をついて敬礼を行った。


 「お、おう……じゃあのじゃ」


 ロリは屋敷の角から出てきたユズの姿を見つけて、アストラッドをつれてその場を離れた。

 

 「どうしたの。」


 「別になのじゃ。はよう、ギルドに戻るのじゃ。」


 チハたんにユズとアストラッドと共に乗車したロリはカントリーハウスの敷地を離れると深いため息をついた。


 「あの者たちも悪気はなく、むかしの妾の姿を覚えているからこそ忠誠を誓っておるのじゃが、いまの妾にはそれがなんとも重くてのう。」


 「あ〜わかるっすよ。あの人たちって、愛が重いっすよね。で、アストラッドちゃんはずっと静かだったね。どうして?」


 「ロリちゃんにうっかり気安く話しかけてあの人たちに怒られないか心配だったっす。ほら、わたしの右の胸の上に奴隷の印があるっす。解除できないっすから、奴隷じゃないって行っても、知らない人には信じてもらえないっすよ。わたしはちゃんと空気は読めるホワイト・ドワーフっす。」


 「変な気を回さんでも良いのじゃぞ。」


 キュラキュラとチハたんが小麦畑が広がる田舎道をのんびりと走りながら、いつもの調子を取り戻した三人は気楽に話していた。


 青空には小鳥が囀りながら飛び、行き交う人もいない。


 主砲を後ろにするデフォルトの位置に砲塔を向けて、その横にユズは寝転がって空を眺めていた。


 「でも、これからはあのお屋敷に住むんでしょう? そんなこと言ってるとアストラッドちゃん、疲れちゃうよ。」


 「いずれはお互いに距離感がわかって慣れると思うっす。それよりロリちゃんが作ろうとしている会社は『民間軍事会社』、PMCってヤツっすよね?」


 「お主も知っておったのか? そうじゃ。」


 キューポラから上体を乗り出して猫のように溶けていたロリは腰までずり上がり、キューポラの端に腰掛けた。


 「あれって傭兵団とそんなに変わらないっすよね。」


 「やってることが軍事サービスだから、それほど変わらんとも思うのじゃが、妾が植え付けられた記憶では、要人や敷地の警護、補給などの後方支援、あとは軍の教育などじゃのう。傭兵といえば傭兵じゃが、国とも契約するし、タチの悪いのもおるが、基本お行儀が良い印象じゃのう。」


 「何それ、転生前の世界の傭兵ってそんな感じだったの?」


 「傭兵はおるぞ。PMCは国の軍隊の仕事を請け負う会社じゃから、国家間で取り決めがあったり、国で厳しい基準を決めたりしとるそうじゃ。なので元軍人が自国で会社を起こして、そこで働いている者も軍人の経験者が多いそうじゃ。」


 「よくわかんないや。結局、ロリちゃんはエミリアさまのお手伝いをするんでしょ?」


 「そうじゃのう。妾はロートバルトが気に入っておるのじゃ。妾ができることなら、手伝っても悪くないのじゃ。あと、『イリス』のものたちの中には不遇を囲っておるものもいるとのことじゃ。武芸も達者で知識も教養もあるものたちじゃ。勿体無いのじゃ。ならば会社を起こせば、誰もが得するのじゃ。三方、マルッとお得なのじゃ。」


 「なるほどね。チハたんやサンパチなんかがあるからこそできることだねぇ。」


 「もちろんユズやアストラッドがおるからもじゃぞ。ユズなら極大魔法も撃てるし、魔法やその他のことも知識が豊富じゃ。アストラッドは力持ちじゃし、何より妾の異世界の知恵を共有しておる。妾の曖昧な記憶をアストラッドは助けてくれたり、誤りを正してくれるじゃろ?」


 「ロリちゃんが褒めるなんて、雨が降るかも。」


 「なんでもじゃないっすよ。で、できることだけっすよ。頑張ります。」


 「どこぞで聞いたセリフじゃのう。」

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