第43話

 転生知識チートは憧れ、もしくは博士ちゃんなんだね。お仕事できるよ!!(吐血


 ロリたちがギルドに戻るとアストラッドの居住用と物置用のテントが張られ、タープも増えていた。


 「壮観じゃのう。」


 「このパーティーに入るにはここでテント生活を送らなくちゃいけない決まりでもあるのか?」 


 首をひねったジェラルドの問いに三人の少女たちは哀れそうな表情を一様に浮かべて抱き合った。


 「みな家なし子じゃしのう。」


 「つらいっす。難民キャンプっす。」


 「屋根があるだけマシだよ。平原でモンスターに怯えながらマントに包まるより、よっぽどマシだよ。」


 ため息をついて、頷いたジェラルドにロリはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


 「そう言って楽しんでるんだろ。」


 「まあ。なのじゃ。」


 ジェラルドの言葉に肩をすくめたロリにユズから受付にゆくように言伝が伝わった。

 彼と途中までともにゆき、正面ロビーの受付に顔を出すとアニカが手紙と口座の残高を見せた。 

 最後にロリが見たときと桁が上がった残高に喉の奥から変な声が漏れ出た。

 

 「なんじゃ? 心当たりがないのじゃ。」


 首をひねりながら、封書を見るとミルシェの使う菱の井形に蝶の紋章だった。

 封を切り、中の手紙を取り出すと以前に話した鉛筆のアイディアがものになったことが書かれ、寝袋の時と同じ契約にしたいとのこと、手付としていくばくかを口座に入れたと書かれていた。

 頭がクラクラしながら、アニカに概要だけ説明をしたロリはミルシェをテント村に呼びつけるメッセージを依頼した。


 その日、ロリは何もせずにテントにこもって、唸りがながらゴロゴロと寝ていた。


 次の日、ミルシェは荷物を持たせた大柄な使用人を引き連れてやってきた。


 「ホンットにテントなのね!?」


 「なんじゃと思っておったのじゃ。」

 

 呆れたように辺りを見回す彼女に椅子を勧めるも膨らんだパニエでバランスが取れず、あえなくジェラルドがよく座る切り株に腰を下ろすことになった。

 なんとも情けない表情になったミルシェにユズはコーヒーを勧めた。


 「そこの白い子の制服が出来上がりましたので、ついでに持ってきてやりましたわよ。」


 「おお、すまんのじゃ。アストラッド、テントの中で合わせてくるのじゃ。」


 「はい。」


 アストラッドは使用人から箱を受け取り、自分のテントに戻った。


 「で、手紙のことなんじゃが。」


 「ええ、父から交渉を頼まれましたわ。」


 「交渉も何も、勝手に使ってよいぞとゆうたじゃろが。」


 「あなたのあの案でどれくらいの利益が上がるとお思い?」


 「知らん!」


 「そこらへんの炭小屋や倉庫の隅でゴミ扱いされていた炭の粉や形が悪くて売り物にならないような炭を粉にして、練ったものが多少の手間で筆記用具になって、どこでも字が書けるようになるのでしてよ!」


 「字だけじゃないじゃろ。あれで絵を描いてみい。絵描きはもとよりものづくりの元絵も現地を見ながらその場で修正だってできるのじゃ。もう少し工夫するのじゃな。」


 「そーやって!! 販路を広げるのはやめてくださいまし!? 父に伝えておきますわ!! 」 


 喧々囂々と言い合いをするロリとミルシェの横で着替え終わったアストラッドがユズのチェックを受けていた。

 

 「なに言い合ってんです? 」


 「いつものことなんだけど、今回はなんでも炭を使った筆記用具らしいね。」


 「おぉ。余計なことは言わぬが華っすね。」


 「そうだね。これでロリちゃんはまた、お金が入るよ。」


 「なんで冒険者してるんですかね? 」


 「アストラッドは聞いたことがないの? 」


 「はい。」


 「ロリちゃんに聞いてみるといいよ。」


 「わかったっす。」

 

 結局、売り上げの純利益の五分を月末締めで翌月払いにすることで合意に至った。


 「安すぎませんか!? うちは助かりますけども!! 」


 「なんどもいうがこれで金が欲しいわけじゃないんじゃ。言うなれば保険や年金じゃ。」


 「保険って、荷馬車や貿易船にかける互助金のことですか? 年金ってなんですか? 」


 「年金って公債のことだよ。国やギルドに定期的に少額でもいいから預けて債権を買うんだ。で、国やギルドはそれを事業などの資金として運用して、得た利益を貯金しておいて、歳をとったり、怪我をして働けなくなった衛士や兵、事務方といったかけ主に給金のように支払うお金のことだよ。」


 「ユズは詳しいのじゃな。」


 途中で説明に入ったユズは珍しくロリに褒められて豊かな胸を張って自慢した。


 「西の端にあるアストリア公国がね。あそこって外洋船が多くて、資金もたくさんいるし、けが人も多いしってことで発明したらしいよ。いつも港にいて酒を飲んでるおじいちゃんがたが不思議で聞いたら、年金で生活してるって。」


 ミルシェはユズの言葉に頭を抱えた。

 

 「また余計なことを聞いてしまいましたわ!! それって、安定した資金の導入が可能になるわけですわよね!? 」


 「そうじゃが、運用に失敗してしまうとオジャンになるのじゃぞ。」


 「わかってますわよ。先物に手を出すような真似はしないで、例えば西の交易路の資金をこれで集めるとか……」


 「そう上手くゆくかなぁ?」


 「できれば莫大な利益が見込めますわよ。」


 「いずれはできるじゃろうのう。ただ、今は平原に乗り出すことすら危険じゃろ。」


 「短期で利益を出すなんて考えませんことよ。本来なら国家間が共同で行うべき大事業ですわ。」 


 「泥棒横丁の服屋の娘店主が天下国家を語っとるのじゃ。」


 「そう言われるとぐうの音も出ませんが、想像するとワクワクするじゃありませんか? 」


 「ミルシェよ。お前は父親の所に戻るべきじゃ。」


 「それ以上にお洋服を作るのが大好きなんですもの……」


 ため息を漏らしたミルシェは冷めたコーヒーを飲み干した。


 「ともかく、父にいまの話をしてもよろしいですね。」


 「構わんのじゃ。今回はユズが仕組みを説明したのじゃから、ユズを相手にするのじゃ。」


 「ちょっと、なに逃げようとしてんの!?」


 「ユズもこれで金が儲かるじゃろ。よかったではないか。」


 「どちらが発案者になるかは父が決めることですので。私はこれにて失礼いたしますわ。」


 どっこいしょと立ち上がったミルシェが使用人を引き連れて帰ろうとした所に、医療班のペトルーシュカと鉢合わせになった。


 「あら、失礼いたしました。」


 「……お嬢ちゃん、名前は?」


 「ミルシェですわ。あなたこそお名前は?」


 「ギルド医療班のペトルーシュカよ。ミルシェ、あなたはリリス族よね。」


 「ええ、半分だけですけど。」


 「ちょっと来なさい。」


 「えっ!? ちょっとこれから私、お仕事があるんですのよ!! 」


 「アストラッドも午後の鐘が鳴る頃に来なさい。」


 「あっ、はい。」


 有無を言わさない力強さでミルシェは引きずられていった。

 残された使用人は戸惑った表情で立ちすくんでいた。


 「はぁ〜 シラーフシュツットの商館長にギルドの医療班に呼ばれて行ったと報告しにゆくのじゃ。ミルシェはこちらで送り届けてやるのじゃ。」


 使用人は口を開くことなく一礼してこの場を離れた。


 「変わった男じゃのう。」


 「あれ、きっとだけど舌を切り取られているんだと思う。」


 「なんじゃと!?」


 「人に聞かれてはまずいけど、人手が必要な時にそもそも話すことができなければ、広まらないだろうってことで奴隷商の方で処置するっす。捕まってた時に聞いたことがあるっす。」


 アストラッドが辛そうな表情で語った。


 「なんと残酷な……」


 「でもあの人はちゃんと食べさせてもらっているみたいだし、身なりもちゃんとしてるからきっと大事にされてるんだと思う。」


 「ミルシェちゃんもそういうこと許さないだろうから、きっとなんか事情があるじゃないかなぁ?」


 「まあ、あの娘店主なら自分の父親がそのような奴隷を手に入れたなら、烈火のごとく怒りそうじゃのう。」


 「そうそう。」


 「ああユズ。ミルシェはそちより年上じゃぞ。あんななりでも二十は超えておるとジゼルがゆうておったのじゃ。」


 「えっ!?」



 

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