第22話
家に着くまでが任務です
次の日の朝はやく、ロリたちは出立することになった。フィムとグロリアが焚き火の後を消し、残りのメンバーはロリが再度、洞窟に戻り、引きずってきた空の木箱に今回の収穫物を入れ、チハたんの後ろに積んだ。
「大丈夫かや?」
「はい。本来でしたら、エンジンがありますので、後部に可燃性のものは載せられないのですが、不思議と回らないので熱が上がらないであります。ですので、大丈夫であります。」
「んぬ? エンジンといえば人で言うところの心臓ではないか。それが動かんでどうしてチハたんが動いておるのじゃ?」
「はっはっはっ。わかりませんであります。」
「お主…………自分のことなのじゃから、もう少し真剣に考えるのじゃ。」
「小官は師団長のお役に立てればそれで良いのであります。不便がないのでありましたなら、それでよいのであります。」
「なんというか、言葉がないのじゃ。」
「はっはっはっ。」
少し離れたところで、ユズとグロリアがロリを薄気味悪そうに眺めていた。
「またチハたんと話しているんだ。」
「どうやら、あの魔導具はインテリジェンス・デバイスのようですね。」
「えっ? はじめて見たぁ。」
「おとぎ話の中のお宝や勇者の武器ですからねぇ。王家の宝物殿の奥にひっそりとあるかもしれませんが。」
「お、王家?」
「おや、ユズさんもロリちゃんが王家に関わりのある女の子だと気がついているんですか?」
「えっ!? えぇっと………………。」
白いターバンの下の緑色の瞳がうろうろと動き、どうやってごまかそうと呻いているユズを眺めながらグロリアは薄い唇をつり上げて笑った。
「大丈夫です。『夏至の暁』で気がついているのはあとはフィムだけです。あの爺さんも口が固いので大丈夫ですよ。」
「そ、そうなんだ。っていうか他の二人は?」
「鈍いですね。とても。自分たちのことすら分かっていないです。」
「ふぅん。あと、なんでフィム君のことを爺さんって呼ぶの?」
「そのままですよ。ジゼルが昨日、話していた通り、彼は意外と歳がいっているんですよ。確か今年で八〇は超えているはずです。」
「うへっ!?」
「エルフと小トロールのハーフでしたら、普通に四、五〇〇歳くらいまで生きそうですね。ですから、感覚的にはまだ私たちと同じくらいだと自覚しているのではないでしょうか? 確か魔人族は人族と同じくらいでしたっけ?」
「うん。魔力は強いけど、人と同じくらいだね。太く短くだよ。その代わり、怪我とか病気には強いんだよ。最近は乾燥にも強いことがわかったけど………うふふ………。」
一人旅の思い出がユズに暗い笑顔を浮かべさせた。
「羨ましいです。私がエルフでしたら、もっと色んな魔法を研究できるのに。」
「でもエルフって火の魔法は使えない人たちだから。」
「一長一短ですね。街に戻ったら魔法のことを少し尋ねてもいいですか?」
「うん。分かる範囲でね。」
「楽しみです。」
行くよー!!
はーーーい!!!
ジゼルの呼び声に二人は大きな声で答えて駆け出した。
帰路の初日はそれまでと同様に順調だった。
シェムの道案内も優れていて、旧街道をひたすら進むルートを辿っていて、予定していたポイントよりもはるか先でこの日のキャンプ地を決めることができた。
「単純に距離だけ言えば、今の街道よりもずっと短いんだけどね。」
「小鬼(ゴブリン)の森からも離れていますし、見晴らしもいいのにどうして放棄されたんでしょうか?」
「一〇年以上前の『蝕』でね。モンスターたちの進路と重なっていたんだよ。これだけ何もないと、逃げきれないでね。」
「ひっ。」
「随分と大変だったよ。今でもそこいらに骨が転がっているんじゃないかな。」
ユズがシェムの話を聞いて、身震いをした。
「だから今の街道は砦を建てたりと、わざと谷に橋をかけているんだよ。やつらの行軍(パレード)を寸断したり、逃げ遅れたものが少しでも助かるようにね。ああ、そうだ。ユズちゃんはこっちに来たばかりだから知らないと思うけど…」
「な、なんでしょう?」
「ここらは夜になるとね。出るんだよ。その時の人たちが。」
「や、やだなぁ。シェム君は驚かそうとして。」
「あら、こればっかりはシェムの言う通りなのよ。」
「どーしてみなさんは平気そうな顔をしているんですか!!??」
「まあ、実害はないしな。」
「そ〜そんなことないでしょ!? 体とか乗っ取られちゃわないんですか??」
「地平線の向こうにぼんやりと幾つも明かりが並ぶだけ。だから大丈夫なんですよ。」
「ろ、ロリちゃん。今日は一緒に寝ましょう。」
「ん? そうじゃな。寒そうじゃしのう。」
「違った気遣い!?」
ユズは毛布を持って寝袋にくるまっているロリの隣に陣取り、寝袋ごと抱きしめて硬く目をつぶった。
ニヤニヤと笑う『夏至の暁』のメンバーとアニカはのんびりと話をしながら夜を過ごしていた。
「うぅ、ひどい目にあったよ。よく眠ることができなかった。」
「ふぁあ。チハたん、どうせ何もこなかったんじゃろ?」
「そうでありますな。人やモンスターは今宵も現れませんでした。」
目の下にクマを作っているユズにロリがそれを伝えるとやっとこわばった顔を緩めて頷いた。
「そうなんだ。やっぱり噂じゃない………………『人やモンスターは』?」
「どうなのじゃ?」
「ええ、それ以外はそれなりに訪れていたであります。特に問題となることはしなかったので、夜の見張りの方々も無視をされていたようでありますな。」
「…………………………。」
ロリはユズにそのまま伝えて良いものか、少し迷った。
「どうだったって?」
「問題なかったそうじゃ。気にするな。あと、きょうはロートバルトの門前に着くまで、チハたんに乗って眠っているがよいぞ。」
「う、うん。そうするよ。」
とりあえず、この話はうやむやにするつもりで、何度も頷いたユズは毛布を片手にチハたんの荷物と砲塔の間に陣取り、毛布を巻きつけて、座ったまま目を閉じた。
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