第20話

友だちには隠し事はしないよね? 2



 「で、結局こうなるというのか?」


 「仕方がないのではありませんか?」


 キューポラの中から上半身を出して、珍しくチハたんの諦めたような声を聞きながら、ロリは今回のクエストに同行するメンバーを見下ろした。


 慣習になっていたみなし冒険者への搾取とそれがギルド職員が関わっていたことから、さすがにジェラルド自らが動くわけにはゆかなかったが、ロリの随行員として、アニカが同行することになった。


 そしてギルドマスター自らの指名依頼により、『夏至の暁』のメンバーがいた。


 「ロリちゃん、パーティーを立ち上げたんだって?」


 「おう、ジゼルか。そうじゃぞ。ここにいるユズとともにな。」


 「え〜。私も入りたいかも〜」


 「面白い冗談じゃな。」


 「何も面白くねぇよ。いくら命の恩人でもメンバーの引き抜きはさすがに笑い話じゃすまねぇぞ。」


 「ジゼルはわがままじゃからな。引っ張り回される将来しか浮かばんぞ。こやつはジョルジュに任せるのじゃ。」


 「ははは。」


 乾いた笑いを発しながら、フィムは自分たちの荷物を小柄な彼のためにわざわざ選んだ小さな馬の鞍にくくりつけていた。


 「四日程度と聞いていたんだけど、大丈夫かい?」


 「ああ、多分大丈夫じゃろう。そちらと初めて会った時に妾がやってきた方向にある谷までゆくのじゃ。」


 「谷か…………トンべのことかな? あそこはそれほどモンスターが出るところではないけど、ゆく途中に小鬼(ゴブリン)のテリトリーを横切る必要がありそうだなぁ。」


 「小鬼(ゴブリン)か。グロリアの魔法が頼みだな。」


 「心配するでないぞ。チハたんの主砲はとっくに小鬼(ゴブリン)の王とやりあって勝っておるわ。小鬼(ゴブリン)なぞ、木っ端微塵じゃったぞ。それに今回は魔人族のユズもついておるからな。」


 「おぉ。魔人族。ピケ族ですか? 」


 「いえ、私はダ・ディーバ族です。」


 「ふわっ!! 『青の部族』!! すごい、会ってみたかったんですよ!」 


 「珍しくグロリアのテンションが高いよね。」


 「魔法となれば目の色を変える子だもんねぇ。」


 「でん…ロリちゃんは準備が整いましたか?」


 「アニーは相変わらず切り替えるのが苦手じゃのう。大丈夫ぞ。そろそろ出立するのじゃ。」


 ウィ〜ス。


 気の抜けたジョルジュとフィムの返事とともに二人が騎乗した馬が先頭に立ち、続いてロリ、ユズ、ジゼル、グロリア、そしてアニカを乗せたチハたんが動き出した。


 一行は朝日と職場へと向かう町人たちの視線を浴びながら、西の大通りを進み、チハたんよりも背の高い城壁の門を抜けた。


 「いい天気ですね。」


 「うん。のんびりするわ〜。」


 車上で砲塔に寄りかかりつつ、のんきに会話するジゼルとグロリアをを眺めていたロリはキューポラの中に潜った。


 「大丈夫じゃか?」


 「私は問題ないですよ。」

 「ちょっと気持ち悪い、です。」


 対照的な答えを返すアニカとユズはそれぞれ、運転席と通信士席に腰をかけていた。


 「外があんまり見えないから、なんか気持ち悪いよぉ。」


 「ああ、それは車酔いというやつじゃな。もう人目ものうなったし、ユズよ。外の風に当たるが良いぞ。」


 「そうします。」


 右手で口元を押さえたユズは狭い車内にぶつかりながらハッチから外に出て行った。


 「この魔導具は本当に便利ですね。道を選ばないんですか?」


 「大体はどこでも行けるらしいのじゃが、履帯といって、足のところにあるベルトのようなものが外れると大変なんじゃそうな。あとはあまり深い川や急な崖は無理じゃと。」


 「それはどんな乗り物でも無理ですよ。殿下はこの魔道具の操縦を誰から習ったのですか?」


 「特に習っておらんぞ。」


 「えっ?」


 「チハたんが勝手に動いておるのじゃ。」


 「ハァ…………。」


 「師団長どの。それでは私が命令無視をする輩のように聞こえるではありませぬか?」


 「ぬぅ。すまぬ。そういうつもりではないのじゃ」


 「? だれと話しているんですか?」


 「だれもおらぬぞ。」


 「?」


 午前中は順調に進むことができ、予定よりも先のポイントで休憩を取ることができた。

 ユズの持つアイテムボックスのおかげで食料や綺麗な水に苦労することはなく、今日の昼食はギルドの酒場のおばちゃん謹製お弁当だった。


 焼いた分厚い水牛の肉に西洋ワサビのような辛味のある香辛料をなすりつけ、ヤギのバターでパンに水分が移らないようにして挟んだだけのものと薄い赤ワイン、そしてデザートがわりに果物の詰め合わせだった。


 ジョルジュはジゼルの分まで食べ、その代わりジゼルはジョルジュのデザートである果物を分けてもらっていた。逆にフィムはパンと肉をグロリアに渡し、果物をもらっていた。

 その様子にアニカは微笑んで、声をかけた。


 「『夏至の暁』はみんな仲がいいのね。」


 「ああ、飯のことか? 俺は肉がないと力が出ない。」

 「わたしはエルフだから、獣の食材は全く食べれないこともないけど、できれば避けたいところね。」

 「人族が魔法を使うということはとてもエネルギーを使うんですよ。」

 「俺はエルフと小トロール族のハーフだから、少食なんだよね。」


 最後のフィムの発言に全員が固まった。


 「……ええっ!?」


 「なんと。」


 「なんでだよー。 ハーフなんて珍しくないよー。」


 「いや、そうじゃろうが、しかしのう…。」


 ロリは説明を求めるかのように『夏至の暁』のメンバーたちを見つめたが彼らも首を振った。


 「私たちも知らなかったわね。」

 「聞いたことなかった。」

 「まあ、待て。どっちがどうなのか、それが重要だろ。」

 「確かに。ジョルジュさんの言う通りですね。」


 「アニカさん、そんなのどっちでも一緒だと思うわ〜。 ないわ〜。 だって、小トロール族よ〜。 私にしたら、ジョルジュやギルドマスターがロリちゃんと結婚して、子供を産ませたようなものよ〜。 」


 「妾を引き合いに出して、どういうことじゃ!?」


 「小トロール族って人族よりも長命のくせに一向に大人見たくならないんだって。フィムをみてよ。どうみてもユズちゃんと同じくらいに見えるけど、これでロリちゃんのおじいちゃんと同じくらいの年なのよ!

 私たちエルフ族は一六〇歳くらいで大人と認められるから、こんな見た感じお子ちゃまと結婚なんて、ないわ〜 」


 「うっさいなぁ。だから言いたくなかったんだよ。………俺の父親はれっきとした小トロール族だよ。北の千湖の小トロール族の血を引いているんだよ。母親は北の森の白エルフ族だよ。」


 「そっちかぁ〜!! かぁ〜! 姉さん女房か!!」


 「えっ、ちょっと待って!! 北の森の白エルフって、ちょっと!! ジゼル!!! どういうことなんですか?!!!!」


 「知らないから!! 私、全然こんなヤツなんか知らないわよ!! 嘘言うんじゃないわよ!!」


 「ウソじゃねーよ!! リュニリョール家のスクラドってのが、俺の母さんだよ。父さんはベルクファング家のミントっつうの!!」


 ギャーーーーーーッ!!!!


 フィムが両親の名前をあげるとガバリと顔を伏せて叫び声をあげた。


 「ど、ど、どうしたんですか? ジゼル?」

 「まさか知り合いというわけではなかろうな。」


 「そのまさかよ…………。 うちのおばあちゃんの妹よ。」


 ギョエ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!


 今度はフィムが両手を上げて仰向けに倒れた。


 『夏至の暁』の斥候と弓士が使い物にならなくなった様子を見て、ロリはユズに声をかけた。


 「……どういうことじゃ?」

 「どうやら、フィムはジゼルの大叔母の息子だったみたいですね。」


 ユズの説明にグロリアが首をひねった。

 

 「親戚だったってことですか? でもちょっと遠いような気もしますね。」

 「…エルフって、長命種で子供も生まれにくいし、村も規模が小さいから、それくらい離れていても、普通に親戚付き合いするのよ。」


 「ほぉ。それぞれじゃのう。」


 「フィム。」


 「なんだい?」


 「後で話があるわよ。おばあちゃんに頼まれていたことがあるのよ。」


 「うっ、あああの、この依頼が終わってからでいいか? いま聞いて集中力を失いたくないよ。」


 「…………いいわよ。待ってなさい。」


 「なんか怖いよ。」


 バタバタとした昼食が終わり、気持ちを落ち着ける意図もあって、ロリが全員の分のコーヒーを提供した。


 皆に行き渡り、湯気の漂っているカップの中の漆黒の飲み物に口をつけた。恐る恐るだったジゼルやフィムもその上質な香りとコクのある苦味の前に大きなため息をついた。


 「いやぁ、こんな依頼なら毎回受けたいもんだなぁ。」


 「このままゆくといいわねぇ。」


 ーーそういうのを異世界の記憶では『ふらぐ』と呼ぶのじゃぞ。ーー


 ロリはあの『にぃと』の記憶に冷や汗を垂らした。




 

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