第19話

友だちには隠し事はしないよね?


 テント前の小さなかまどの火を起こして、お湯を沸かしている間にロリはあったことをユズに語っていると、ジェラルドがふらりと立ち寄った。


 ロリはコーヒー豆を二人分煎り、自分とジェラルドにはコーヒーをそしてユズにはリクエスト通りに白湯を入れてあげた。


 「結局はささやかな既得権益を守りたかったということじゃのう。」


 「ああ。カールが欲張って上納金を釣り上げて苦しかったところにロリちゃんが薬草採集をするから稼ぎが減って頭にきていたそうだ。」


 「アホらしい。彼奴等が勝手に逆恨みをしたのか。」


 「ねえ、ロリちゃん。私、少し気になっていたんだけど、あの時、受付のアニカさんがロリちゃんのことを『でんか』って呼んでいたよね。」


 ユズの問いにロリはさりげなくコーヒーを飲むふりをして顔を隠した。


 「あと、ロリちゃんも不敬だとかって叫んでいたし………」


 ユズの追撃にジェラルドの視線がロリの顔に突き刺さっていた。


 「そういえば、言葉遣いも方言だってはじめは話していたけど、それって違うよね。」


 「オッ、オホン。う、うむ、ユズは妾とパーティーを組むのじゃしなぁ、本当のことを話そうかと思うてなぁ。」


 「ハハァ。あのですなぁ、殿下、ちょっと迂闊じゃありませんか? 」


 「やっぱり殿下って呼んだ。」


 「うっ、よ、よいじゃろが。さて、ユズよ、妾が記憶がないことはすでに話したと思うが、名前だけは覚えておるのじゃよ。」


 「で?」


 「カロリーネ・アウグステ・プリンツェシン・クラシス・ローゼンシュバルツが妾の名前じゃ。」


 「ん〜、長い名前なんだね。お貴族さま?」


 「ユズは遠くの土地から来ているから、よく分かんねぇだろうが、カロリーネ殿下の名前には意味があってな。

 ローゼンシュバルツ王国の王家とクラシス公爵家の間に生まれた王位継承権を持つ王女であるところのカロリーネというんだ。ちなみにアウグステは洗礼名な。

 と、いうことでロリちゃんはこの国、ヴァイスローゼン王国の隣国に当たるローゼンシュバルツ王国の第二王女殿下だ。」


 「…………………………」


 ジェラルドの補足説明を聞き、無言のまま、固まっていたユズはゆるゆるとカップを地面に置いて、椅子から降りた。そしてそのまま、平伏を始めた。 


 「知らぬこととはいえ、不敬な言葉を数々口にしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。ですから捕まえないでください。」


 「何を訳のわからぬことを言っておるのじゃ。よいからいつも通りにせい。ま、そういう訳じゃ。」


 「な、なんでこのようなところで浮浪者のようにギルドの軒先に住んでいらっしゃるのですか?」 


 「何気に失礼じゃのう。まあ、たまたまじゃ。たまたま暗殺されかけて、気がついたらこの近所のキーロフ平原の谷におったのじゃ。どうしておったのか、そこらへんからの記憶がないので知らんわ。」


 「あ・ん・さ・つ…………?」


 「おう。実は犯人がわからんのじゃ。じゃから、もうカロリーネ・アウグステ・プリンツェシン・クラシス・ローゼンシュバルツは死んだことにして、ここでは旅の途中で親とはぐれた記憶喪失のロリちゃんという、みなし冒険者となったんじゃ。」


 「みなし冒険者というよりみなしご冒険者だな。」


 ジィィィィィィッ


 声もなくジェラルドを見つめるロリに彼は新しい銅のカップで顔を隠した。 


 「このおっさんめが。」


 「なんか、とんでもないことを知ってしまったような気が…………」


 「まあ、あえていう必要もあるまい。じゃからユズも軽々しくいうこともないぞ。」


 さらりと脅すロリにユズは体をガクガクと震えだした。

 ロリの隣ではジェラルドもさりげなく威圧を出してだめ押しをしていた。


 「そうじゃ、ジェラルドよ。」


 「なんでありますか?」


 「もう普段通りの言葉に戻せ。色々と厄介だろうし、妾もちょいと用事があるゆえ、四、五日ほど、この街を出てゆくぞ。」


 「で、どこにゆくんだ? あんまり遠くまでゆかれても困るんだが。」


 「なに、チハたんと妾がおった場所までじゃ。場所はチハたんが覚えているゆえ、それほど時間もかからんと思うぞ。」


 「キーロフ平原だな。それじゃあ、護衛をつけることにしよう。」


 「余計なお世話じゃぞ。ここにおるユズを連れてゆくんじゃ。平原を一人で渡ってきた大魔導師なら、十分護衛として役立つじゃろうよ。」


 「エェッ? 私、ついてゆくの!? もしかして、そこで私を埋めるつもりね!!」


 「何をアホなことを抜かしておるのじゃ。大っぴらには言えんが、そこにはジゼルに渡した武器がまだたくさんあるのじゃ。それをそなたに下賜しようと思ってな。」


 「サンパチちゃんとか言ってたやつ?」


 「おい、ロリちゃん、あんなのがまだたくさんあるっていうのか?」


 「うむ。どれくらいあるのかわからんがな。あれ以外にも色々とあるのじゃそうだ。ジゼルは魔力消費量が多いとかで、エルフ族じゃないと使うのは無理とゆうておったが、ユズは魔人族じゃそうだし、使いこなせるのではないかと思うてな。」


 「そうなのか。ならまあ、それほど心配ではないか。」


 「何ぞ心配事でもあるのかや?」


 「いや、他の冒険者がそれを見つけてしまったら大変だと思ってな。大量にあるのだったら、モンスターの討伐どころか、戦争の形すら変わってくるかもしれないかと考えた。」


 「ぉう…………確かにのう。しかし、妾が出てくるときには結界を張ってきたのじゃし、おいそれとは見つからんと思うが。」


 「ううむ、いや、しかし、だが、ムムム……」


 ロリの言葉を聞いてもジェラルドは首筋がこわばったかのように頭をぐるぐる回しながら、自分の考えに深く沈んでいった。



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