第11話

暮らしを立てましょう、話はそれからです


 

「ほ、本当にここで暮らすのですかぁ? 」


 戸惑った様子のアニカの声が青空に抜けていった。


 ギルド所有の馬を住まわせる馬小屋の隣に馬車の小屋があった。


 馬車小屋はすでにいっぱいであるが、その隣は修練場とギルド館を区切るための防風林があり、少し広くなった空き地になっていた。その向かいはギルド館で後ろは中がのぞくことができないくらいの高い石塀が建てられている。


 そこにチハたんが鎮座していた。


 チハたんの後ろの木からはロープが伸び、この地域特有の強い日差しやバケツをひっくり返すような豪雨になる夕立を防ぐためのタープとして天幕が張られ、その下にはチハたんとともに旧陸軍のテントが設営されていた。


 天幕の下には小さなかまどが呼びつけられたフィムの手によって作られ、さっそくお湯を沸かすための薪が焚べられていた。


 ロリはちゃっかり馬小屋から真新しい桶を拝借して、ブーツを脱ぎ、沸いたお湯で足を洗った。そして、上着を脱ぎ捨て、ズボンも膝が見えるくらいまで巻き上げて、毛布を敷き詰めたテントの中でくつろいでいた。


 「どうじゃ。よい考えじゃろう。金もかからんし、安全も確保したのじゃ。惜しむらくはお風呂がないところじゃのう。あと食事は街に出て、屋台や露店で食べることにしようかの。」


 先に呼ばれたフィムの後を追って報告が終わった『夏至の暁』パーティーの面々がやって来て、ジゼルとグロリアも大きなため息をついた。


 「はぁぁ。女の子の発想じゃないよ。」


 「ジゼルの言うとおりです。なんなら私たちと一緒に来ませんか? 宿代などは出しますよ。」


 「グロリアの放って置けない気持ちはわかるが、ロリはまだ一二歳でみなし冒険者だ。俺たちのように各地を転々と移動するような『流れ』のパーティーに在籍することはできないんだぞ。」


 「そうですよ。後、まあ、色々理由はありますが……安全という点ではここはいい考えかもしれないですね。ギルド長のオフィスとプライベートエリアの真下ですしね。」


 「そうなのか?」


 ジョルジュの言葉にアニカはギルド館の窓を指差した。


 「はい、二階がギルドマスターの室になります。そのすぐ上の三階は彼の住居になっています。ギルド長は不測の事態に対応するために、任期中はギルド館に部屋を持って、そこで生活することになっています。」


 「意外と苦労しておるのじゃな。」


 「そうですね。ああ、それから食事は一階の酒場で食べて結構です。でん…じゃなかったロリさんの食事は生活が安定するまでジェラルドが払ってくれますので、安心してください。それからお風呂ですが、皆さんもご存知ですよね。」


 アニカが振り向いて、椅子の代わりにどこからか持ってきた大きな石に腰を下ろした『夏至の暁』の面々に確認した。


 「もちろんよ。ロリちゃん、このギルド館の奥の修練場に公衆浴場があるのよ。後で一緒に行こう。使い方を教えてあげるわよ。」


 「おお、それは頼もしいのじゃ。さっそく行きたいのじゃ。もう体が痒くてたまらなかったのじゃ。」


 ロリの喜ぶ姿を見て微笑んでいるジゼルとグロリアの横でそっとアニカは目元をぬぐっていた。 


 「その前に色々と買い足しにゆきませんか? 今回のクエストのお金も入ることが決まりましたし、ロリちゃんはいらないと言っていましたが、助けてもらったのですから、私たちで少し奢りますよ。」 


 「よ、よいのかの? そんなに贅沢は言わんが、小さな腰掛けとテーブルが欲しいのじゃ。あと、下着類は替えがないので不便をしておったのじゃ。」 


 「善は急げですよ。じゃあ、ジョルジュ、行ってきますね。」


 「おう。楽しんでこいよ。俺たちは酒場にいるからな。」


 「潰れていたら承知しないからね。」


 「はいはい。」

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