第25話 私の大切な人

 「間違えた。」


 ブランコから降りたまりあが私を抱きしめた。

 「男じゃないけど、那帆が好き。世界中の誰よりも、那帆が好き。」


 「そんなのぉ、私も好きに決まってるじゃん……。」


 私も、その背に手を回す。抱きしめた身体も、私の身体も雨に打たれてずぶ濡れだ。いっそ全部溶けて、一つになってしまえばいい。


 それくらい、好き。


 ――だけど、あなたは、誰?

 

***


 「身体は男なのに、中身は女なんだよ……。」

 シンは、そう呟いて顔を歪めたまま少し笑った。


 「気持ち悪いって、思うでしょう……?」

 「思わない!」


 私はシンの正面に回り込んで、顔をのぞき込んだ。


 「シンは、シンだよ。男でも、女でもどっちでもいい。私にとってシンは、世界で一番大切な人。何があっても、私がシンを守ってあげる。」


***


 あの日、誓った言葉は嘘じゃない。

 あの日の気持ちが、揺らいだことも一度だってない。


 抱きしめる腕に力を込める。雨の匂いに混じって、甘いローズの香りがする。


***


 「本当に……?」


 信じられない、といった顔をシンは私に向けた。私は、力強く頷いた。そして、シンの手首から手を離し、手の平と手の平を合わせた。


 シンの瞳が戸惑いに揺れる。私はもう一度頷いた。

 「世界中の人間を敵に回しても、シンの事は絶対に私が守るから。」


 瞳の内側まで見ようとするように、シンが私を真っ直ぐに見た。私はシンの視線も、戸惑いも、不安も全部受け止めた。


 シンが、小さく頷いた。


 戸惑いながら、指を絡める。そして、しっかりと握り合った。





 あの日、繋いだこの手を、死ぬまでずっと離さないって、誓ったんだ。


 たとえ初恋の人の手を、二度と握ることが出来なくなっても。

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