リレー11
「……ぷはぁっ!」
深々と降り積もっていた雪の中から、やっとの思いで顔を出した。
すっかり冷たくなった皮膚に暖かい日光が当たり、少しずつ身体が解れてゆく。
凍てついた世界。流れ去った時。そして、眠っていた僕。
僕以外のすべてが変わってしまったこの世界で、僕が初めに出会ったものは────
土に汚れた老夫婦だった。
「また甘くて美味そうに育ったなぁ。」
おじいさんは白い息をはきながらうれしそうにそう言った。
おばあさんもまたうれしそうにして僕の頭の上にある葉を握って引き抜き、オレンジ色に輝く僕の皮膚から雪を除いた。
「そういえば、田村さんのとこの夫婦、この前避難先から返ってきたそうですよ。」
「おお、そうか。避難指示が解除されてから少しずつ人が戻ってきて嬉しいな。」
おじいさんとおばあさんは青々とした空を見上げながら話をしている。
すると、近くに軽トラが走ってくるのが見えた。
「あら、そんな話をしてたら、田村さんじゃない。」
「なにがあったんじゃろか。」
二人は不思議そうに、しかしうれしそうに見ていると、荷台から30代くらいの男が顔を出した。
「お久しぶりです!」
「ああ…」
「お久しぶりです」
少しとまどいを覚えながらも返事をかえした。
荷台には男と一緒に僕の仲間が多くいる。いくつかのケースに分けられている。
一つは全て均一で軍隊の整列の様であった。すぐ分かる、あれは正規品のケースだ、やはり正規は憧れる。僕の体を自分で見えないから、僕の糖度も分からないから、僕が彼らと並ぶのか少し不安で、少しわくわくする。その隣のケースは、個性的と言っておこう。おそらくカゴメの野菜ジュースか野菜チップスかだろう。それでも出荷されるだけ彼等も成功者だ。
さて、僕はどうだろう…。
「品質チェックするぞ。まずこいつだ」
僕だ!!体を持ち上げられてジロジロとながめられる。緊張して体が固くなりそうだ。
「あぁ、こりゃダメだ。廃棄だな」
そんな!!僕だって必死になって大きく育ったのに!!
「待ってくれ!!」
おじいさん!!大きな声をあげて捨てられそうな僕を助けてくれるの?
「廃棄するならワシが食べる。この子は多少見た目が悪くとも、ワシが大事に育てた!」
「ニンジンなのだから」
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