リレー9

 女の子が泣いている。道端で、だ。周りに親の姿はない。どうしたんだろう。ぼくは心配半分、好奇心半分で声をかけた。

「おじょうちゃん、どうしたんだい?」


「コンタクトレンズを落としたの」

「えっ?コンタクト?」

 女の子はいかにも小学生。コンタクトレンズを使うには早くないか?

 私は女の子に聞いてみた。

「あなたのコンタクトレンズ?」


 女の子は黒い髪と白い肌をもった、まるで絵に描いたような「理想の美少女」だった。僕は季節に似合わず汗ばんだ手を握りしめ、締まりそうになる喉からなんとか声を絞り出した。

「落としたの…どこで?」

 こんなに非力そうで大人の庇護を満身に受けていそうな少女がまずどうしてこんなところにひとりでいるのだろう。ふつうであれば怪しみはすれど畏怖は抱かないはずの存在を前に僕は身体を強ばらせていた。また、乾いた気道を開く。

「落としたの、本当にコンタクト?」


 女の子はうつむいたまま少し笑った気配をまとわせた。その隙すら甘受できない。

「そう言ったはずだけど」

 僕はおそるおそる女の子の顔をのぞきこんだ。それまで意図して見ないようにしていた。知ってしまえば、「その代わり」になるものを僕が失いかねない気がしたからだ。そしてそれは────案の定だった。

「ほらね」

 女の子が艶々と光る前髪をはらいのけたそこには、真っ黒な穴が二つ空いていた。


 少女の真黒な目は、ブラックホールだった。ちなみに、つい最近、ブラックホールの撮影に初めて成功したらしい。天の川銀河中心のブラックホール、私たちが住む天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールで、いて座A*の姿を初めて捉えた。地球上の8つの電波望遠鏡を繋ぎ合わせて地球サイズの仮想的な望遠鏡を作るイベント・ホライズン・テレスコープによって撮影された。望遠鏡の名前は、光すらも脱出不可能なブラックホールの境界である「イベント・ホライズン」にちなんで名付けられた。ブラックホールは光を放たない完全に漆黒の天体であり、そのものを見ることはできない。しかし周回で光り輝くガスによって明るいリング状として写し出された。そんなことを考えながら、僕の体は引きさかれ、あらゆるものと一緒に飲み込まれていった。そうして、地球の歴史は幕を閉じた。


「あっ、ああーっ!やっぱり地球の真横にブラックホールを置いたらこうなりますよね。地球が吹い込まれるところも見れたし、今日はこの辺で。」

 さるYoutuberはこう話して動画を終えた。

 彼は「ユニバース・サンドボックス」で地球に色々なことをしてきたが、それが現実にならない保証はない。


 ……ということで、皆さんもブラックホールには気を付けましょう!

 ……こんなことを言っている間にも、また地球の横にブラックホールが出現していることでしょう!

 いやー私も、これまで何千回と吸いこまれてきましたが、やはりブラックホールには慣れませんね!

 誰かこのループする世界を止めてくれる英雄は現れるのでしょうか!

 ザザッ

 おっとまたしてもお別れの時間のようです!それでは、今日もこの辺で!

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