リレー7
六月中旬、某日。僕の友人はおかしくなってしまった。
「オイお前ッ! パセリ食えッッ‼︎ パセリをッ食うんだッッ‼︎」
わめき散らしながら、友人は僕にウスターソースをかける。
やめてほしい。
どうして彼がこんなことになったのか、ことは数時間前に遡る。
「パセリってなんで乗ってるんだろうな」
料理の上に乗ったパセリをどけながら友人は呟いた。
パセリの存在意義は体に良いとか香り付けや毒消しだから『食べなければいけない』というわけではない、だが何となく食べ残しは気にくわない。
「食べろ‼︎」「嫌だ」「食べろ‼︎」「嫌だ‼︎」
押し問答だ。そんなときふと昨日のテレビを思い出した。――催眠術。
五円玉と糸をつなげ友人の前でゆらす
「そのパセリはトンカツと同じ味だ」
「……って、馬鹿言うな。こんな五円玉で催眠術って、5歳児だって引っかからない」 友人は僕を鼻で笑って、ぴん、と五円玉を爪ではじいた。僕のほおにいつから財布に入っていたのかも分からない小汚い五円玉が当たって、ペちりと情けない音を立てた。
『……今、五円玉を粗末にしたな』
「「は?」」 僕たち2人の声がそろった。その妙に低い声は、僕の小汚い五円玉からしたらしい。僕たちがじっと見つめていると、その五円玉はおもむろに語り出した。
『私は五円玉の神。五円玉を粗末に扱い、催眠術などに使う粗骨者には、報いが下る』
「…どのような罰でございますか…?」
友達は震える、今にも消え入りそうな声で神にたずねる。
というか、五円玉の神ってなんだ。友達はこの状況に疑問を持たないのだろうか。
『そこの君、』
「…僕ですか。」
『そうだ。君はパセリが苦手なようだな。』
「…いや、まあ、そうですけど。」
『君にはウスターソースがかかっている。ウスターソースといえばパセリだ。君には罰として苦手なパセリになってもらおう。』
「うわ〜」
俺は不思議な感覚に包まれた。温かいような冷たいような、まるで全身の血管がパセリになってしまったような… そこで俺は気を失った。
目が覚めると、体が縮んでしまっていた。
俺がパセリになっていることがギャル曽根にバレたら、また命を狙われてしまい、周りもパセリになってしまう。
アスパラガスの助言で正体を隠すことにした俺は、ピーマンに名前を聞かれてとっさに、「江戸川ごはん」と名乗り、神の情報をつかむために、父親がカンテンをやっているピーマンの家に転がりこんだ。
ピーマンは、「君はパセリになった自分を嘆くのではなく、パセリになった理由を探るのが先決ではないのか。焦らずウーロン茶でも飲んでみたらどうだい。ところで今疑問が生じたのだが、君は今本当にパセリなのか。はたまた、今まで自分を人間だと錯覚していただけでずっとパセリだったのではないか。僕もピーマンなのか本当のことは分からないし、僕の父さんもカンテンをやっているように見えて、ういろうや「ミソカツ※1」を行っていた可能性だってあるし、そう考えることだってできるだろう?言語や認識が変われば、君はパセリにだって人間にだってなってしまう。唯一信頼すべきなのは君が君であることじゃないのか。」と言った。僕はもう一度自分の体を見てみる。そこには、一般的な人類の体が映っていた。
※1→名古屋のうまいヤツ
そうだ、僕は人間だ。パセリだと思っていたのは五円玉の神のせい。ならばきっと友人がおかしくなったのも五円玉の神のせいだろう。本来彼は友人にウスターソースをかけるような人間ではないのだから。
「おい、目を覚ませ‼︎お前は五円玉の神のせいでおかしくなっている‼︎」
バチーンッ 友人は夢から覚めたような顔をした。
「あぁ、頭がどうにかしていたようだ。お前にウスターソースをかけるだなんて」
「そうだよ‼︎わかってくれたか‼︎」
おもわず満面の笑みをうかべた僕の顔に冷たい液体があびせられた。
「そう……君に合うのはしょうゆだ‼︎」
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