リレー6
「カラン」
コップに入ったオレンジジュースの中、氷が音をたてた。オレンジジュースはささいな見栄だ。普段家に来る悪友たちにはよくてお茶しかださない。でも、今日来ているのは、ヤカンで作った薄いお茶を出す相手ではないのだ。
私の目線の先、テーブルの向かいには小さな男の子が座っている。
幼いのに大人しくて、お行儀もよい子だ。大切に慈しまれているのだろう。よかった、と心から思う。私のもとに置かなくて。明るい声で、笑顔で、日に1度でも私に幸せを運んでくれる。このまま育ってちょうだいね。その先に私はいないけど。愛してない訳じゃない。でも、夢を追ってしまう私では、この子をいつか裏切るから。
「あのね、こんどたなばた?があるんだよ!幼稚園で!」
オレンジジュースを半分飲んで、目の前の子は話を変えた。
七夕。それは一年に一度夜に横たわる大河を渡って彦星と織姫が出会う日だ。もっとも私の彦星は別の人と結ばれてしまったけれど。
今目の前にいる子を見ると彼のことを思い出してしまう。目元とか鼻の形が似てるからかな。あの人みたいにたくさんの友人に囲まれて幸せに育ってほしい。
「今日はありがとう、お姉さん!」
そう言われてふと時計を見るともう夜の9時を過ぎていた。名残惜しいがそろそろお別れの時間だ。
男の子が帰る。見送りに私は玄関まで行く。
「ねえぼく、将来の夢はある?」
私は聞く、どうせ聞いてもこの子の将来に私はいないくせに。求めたのは共感だろうか。
「写真家になりたい!」元気よく言ってくれる。素敵な笑顔だ。
「そうなの?じゃあちゃんと天ノ川に祈らないとね」
「うん!」
神様が決めてさえいなければ、たぶんたくさんの未来があるのだろう。
私は小さい頭に手を乗せそう思案し、
でもできれば――
「君には周りの人も大切にできるようになってほしいな」
《未完》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます