Day 3. 謎

 とっぷり暮れた農道に軽トラックのエンジン音もとろとろと鳴り、帰宅して仏壇のおりんを鳴らして親に手を合わせ、遺影を手に梯子を登る。古い梯子はきしきしと音を立て、俺たちは屋根の上に出る。

 お前が十二歳の時に作ったこの「台」の役割は、今日で終わるはずだったけれど、意外と、俺はこの場所が気に入ってしまった。

 七月三日、夜の七時四十八分、南寄りの空を東から西へと流れるささやかな星。

 六年前と同じように、俺たちは星を眺めて待っている。

 十六歳の俺に突然できた妹、お前はまるで謎の生き物に思えた。

 だってそうだろう。屋根の上が一番空に近いから登れる台を作れって言いだす妹が、謎でなくてなんなんだよ。

 お前は俺のお下がりのスマホでポチポチ何か調べては台に登り、寝転がり、親父とお袋をさんざん心配させて、家を出て、街をでて、国を出て、地球を出た。

 お前を突き動かしたのがなんだったのか、俺には全然わからない。

 でもまぁ、この台の上は、お前が「観測台」と呼んだこの台の上は、気持ちがいいし、俺も少しは勉強したよ。よくわかる星座とか、初めての天文学とか、そういうやつだ。

 七月三日、夜の七時四十八分、南寄りの空を東から西へと流れるささやかな星に見える光。

 お前を乗せて、火星から戻ってくる船の光。

 妹よ。

 とうもろこしは、今でも好きか? 

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