第2話 変わらない日常 Part2

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 紫の容姿はとても端麗だ。

 夏季で夏服に変わった事で露になっている腰のライン等の良さがそれを証明している。

 しかも、慌てて乗り込んだ事で少し乱れてはいるが、それもスポーツドリンクのCMを連想させるようだ。


 そう想ってしまった所為か、 零の目が最も露になっている紫の両脚に向いた。

 流麗で、躍動感溢れる素晴らしい脚線美。

 零は目を離せない。視線は徐々に吸い寄せられている。


「……え…っと天星くん?」


 女性らしい少しムチッとした肉付きの中に、キュッと絞まった脚。

 美しさの中に逞しさが両立するのは反則級だ。

 しかも、体育祭では二百メートル走を陸上部を差し置いての一位。

 陸上部よりもスプリンターの脚と言っても過言ではないだろう。

 原石は磨けば輝くとはこの事だな、と零は一人納得する。


「急にどうしたんだ?顔が近いというか、その挙げた手は何だ?う、動きが…その」

「会長、今は静かにする場面です」

「え、そう。そうなの、か?」

「ええ、何か新たな扉が開けそうなんです」


 零の本能が美しいその両脚に惹かれ、可笑しな扉を押し開こうとしている。

 理性では駄目だと言っている。何かが終わると叫んでいるのに吸い込まれるように止められない。


「開くな!」

「あたっ!」


 紫は忠告を込めて容赦なく全力で拳を零の頭頂部に叩き落とした。

 零の挙動に危機感を覚えたらしく、紫は脚を守るように手を前に出してササッと身を引いた。


 だが、お陰で零は正気に戻った。

 頭頂部の痛みを堪えつつ、零は顔を上げる。

 紫が恥ずかしそうにしながら不審者を見る目で見ていた。


「「…………」」


 何だか気まずさにお互いに見つめ合う。

 零は空気を入れ替える為に、一度咳払いをする。


「すみません、物凄くどうかしてました。そういえば、発車ギリギリに来ましたけど、どうかしたんですか?」


 いつもはホームで待っているのに何故今日はギリギリに乗ってきたのだろう、と零は疑問に思ってはいた。


「それは…」


 紫が苛立ちが今にも爆発しそうな雰囲気で言葉を詰まらせた瞬間、ああ、と理解した。

 一触即発。抱いたとしても口にしてはいけない疑問に零は触れてしまったらしい。


「すいません、無粋でした。忘れてください!」


 シートから立ち上がり、直角に腰を曲げて謝罪する零。

 その姿に紫は、ぽかん、と呆気にとられたような顔になるが、笑いのツボにでも嵌まったのか直ぐにクスッと笑みを綻ばせた顔に変える。


「本当、君は優しいな」

「いやいや、誰だって触れたくないものに触れるのは嫌です」

「たしかに。つまり君は優しそうに見えた意地悪なのだな」


 紫は腕を組ながら、目を細めて薄く微笑む。

 表情が少しだけ恐ろしく感じ、視線を下ろす。が、腕組みで強調された胸が視界に入ってしまい、目の置き所に困って右に逸らす。

 すると、紫が顔を覗き込むような距離まで身を寄せてきた。

 零は慌てて反対側に体を向ける。


「……ふむ、そうか…私は臭いのか。臭いものには蓋をしろというくらいだ。蓋はここにはないから体を背けるしかないか…」

「いぃいえ!そういう訳じゃ……」


 先輩の前で言葉を噛んだことが恥ずかしくなり、零は左手で鼻から下を覆う。


「あっはは、冗談だ!意地悪は私だな」


 と言って、突然真剣な表情を浮かべて紫は思案し始めた。

 数秒ほどして、彼女は、よし!と小さな声で意気込んだ。


「天星くん、謝罪も兼ねて放課後、生徒会室に来てくれないかな?」


 後光でも射すかのような笑顔でで言われたことに、零は咄嗟に自分の身を守る。

 これが校内だったら殺気の籠った鋭い眼光に晒されそう、という起きる事は想像に難くない。

 けれど、それだけ慕われているということだ。


「どう…かな?」

「…それじゃあ是非」

「うん、約束だぞ!実は、たまに生徒会に贈られてくるお菓子などの御茶請けが沢山あって。棄てる事も出来なくて困ってたんだ」

「あれ〜?謝罪とは真逆の言葉が来たぞ」


 零が軽い口調でツッコミをすると、人気者生徒会長は、困った表情で苦笑するのだった。


 それから、学校のある駅に到着する間、何となしに会話は続いた。

 再来週の期末試験のこと。

 その後の夏休みの予定のこと。

 最近また紫の人気に拍車がかかったこと。

 他にも零が食堂のメニュー改善をお願いしてみたり、逆に紫が生徒会に勧誘してきたり、校内恋愛が増え始め学校や生徒会はどう対応するのか真面目な話を加えつつ、また話題を変えて、最近互いに観た映画の感想などを交わして盛り上がる。


「君たち少し静かにしなさい」


 零達はいつの間にか乗車していた男性に叱責されてしまう。

 先程まで自分達以外いなかったことと、夢中になっていたとはいえ、周囲への配慮を失念していた。

 申し訳ありません、と零と紫は頭を下げる。


「次からは話すならもう少し声を落としなさい」

「「はい」」

「……怒られてしまいましたね」

「……すまない。周囲に気を配るべきなのに忘れていた。生徒会長として情けない」

「それは俺もですよ」

「じゃあお互い様ということで」

「ですね」


 それきり会話はなくなった。

 流石に、叱責された後で会話を再開するほど図々しくはなかった。

 他人に不干渉という都会ならではの沈黙が車内の空気を支配する。


 暫くして、電車が目的の駅に到着した。

 時刻は六時半。

 駅前広場は静かで、|人の歩く姿はまばらであるものの見られる。

 登校にしても出勤にしても少し早い時間なので仕方ない。

 それも三十分もすれば人が増え、八時には雑多な人数になるだろう。

 ただ、曇り空もあって交通量はやや多い。


「ふぅ…暑くなってきた」

「扇子持ってきてますけど、使いますか?」


 学生鞄から扇子を取り出して、紫の目に移るよう持ち上げる。


「何故扇子なんだ?」

「だってうちの学校何故かハンディファン駄目じゃないですか」

「ああ。だから折り畳める扇子と」

「どうしますか?」

「では、少し借りて良いかな?」


 感謝を述べて零から扇子を受けとると、紫は骨を広げて涼み始める。

 人の溢れる時間にでもしていれば間違いなく目に留まる程に凛と花が咲いたような絵になっている。

 そんな美少女を観ていると、自然とはいえ何故友人関係となれたのか、と零は疑問を抱いてしまう。


「行こうか」


 にこり、と微笑んだ紫は歩いていく。

 つられて零も歩き出したが、遅れると紫が足を止めてしまいそうな予感がした。

 一瞬だけペースを早めて隣に並んで学校へ向かう。





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異世界の異端魔術師―Heretic magician in another world― 翔丸 @morimaru

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