7.5話 信州の車窓から
外の景色は、飛ぶように遠ざかっていく。
遠くに見える山脈、線路の裾から広がる田園、青く広い空、相変わらず夏全開の太陽。
先程まで居た内陸の海なし県から東京へと向かう新幹線の車窓から、俺はぼーっと外を眺めていた。
故郷を発つ感傷に浸っているわけではなかったがなんとなくしんみりしていたところで、隣の席から風情ゼロの横やりが入った。
「ん~ん美味!
「落ち着いて、頬張りながらしゃべらない。あとその比喩はありきたりすぎて食レポ的にはロースコアです。加えて幕ノ内の由来は知りません。相撲か歌舞伎かなんかだった気がしますけど」
「ろーふほはほわはんれふは!」
「『ロースコアとはなんですか!』ですね?宝石箱はさんざん使い古されていて真新しさに欠けるということです。あとやっぱり食いながら喋るな!」
あの後汗だくで山を下りなんとかタクシーを捕まえロッカーからスーツケースを回収、駅に直行。
そして駅の窓口で確認したところ、俺の隣は都合よく空席。
その席を新幹線発射15分前に予約し、すぐに乗車。
というわけでハナさんは駅弁に舌鼓を打ち、はじめてのしんかんせんを満喫していた。
今は宝石箱の中身をペットボトルのお茶で流し込んでいる。
「ッパハァ。このお茶もなかなか。味が濃ゆい!良い葉っぱ使ってんねぇ!最近の子はいいもん飲んでますねぇ」
「オッサ、いやオバサンくさいですよ。見た目は若くて綺麗なんだから、あんまりそういうこと言わないでください。残念感がすごいです」
「あら綺麗だなんて嫌だわ、オホホ」
「反応もオバサンくさい……」
くだらない会話をしつつ、新幹線は東京へと近づいて行く。
ハナさんが弁当を食べ終えるころに、俺は昨夜から続く疲れからくる睡魔に襲われていた。
「ふぃー。ご馳走様でした。ゴミ捨ててきますね」
「……ん、はい。揺れるから気を付けて」
何とか返事はしたが、頭が船を漕ぐのが止められない。
実家の片付けと登山出会い下山また登山下山、横には神様。
さすがに、疲れた。
いかん、意識が。
「戻りました。おや、稔くん?」
「あー……眠いです」
「じゃあひと眠りしなさいな。東京へ着きそうになったら、私が起こしたげます」
「はい……」
「ふふ。……ねぇ稔くん、どうして死のうとしたんですか?」
ここでかよ。
いかん、いしきが。
りゆう……。
「……俺はきっと、ずっと独りだからです。この先も、これからも。だから……」
「だから?……おや、限界でしたか。おやすみ、稔くん」
どう答えたか自分でもわからなかったが、ここで俺の意識は途切れた。
俺と神様、二人を乗せた新幹線は、東京へと進んでいく。
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