第17話 君の抱える秘密_。
_____
あっという間に陽が落ち、宵の明星が輝く時刻となっていた。
「せっかくなので皆さんと花火がしたいです。」
辺りを見回してから紫電さんが口を開く。
「さすが渚ちゃん!!よしっ早速準備に取り掛かるぞっ!」
「ラジャ!隊長、俺は水バケツ用意してきます!」
相変わらずのノリで準備を始めた嶺二と葵を傍目に紫電さんは言葉を紡ぐ。
「星空がとっても綺麗ですね。」
「そうだな、普段は街の灯りで見えないもんな。」
「.....。」
「.....。」
沈黙が2人を包む。
「私、その_」
何を話そうかと思案に暮れていると先に彼女が口を開いた。
「私、圭くんに伝えておきたいことがあるんです。」
「あなたって意外と空気読めるんだね、ちょっと驚いた。」
「何を言ってるか俺にはさっぱりだけど、咲坂さんは何か知ってるご様子?」
「茶化さないでよ、もう。あの二人どうなると思う?」
「そればかりはご本人達にしか分からないと思うけど、一筋縄ではいかなそうかな?」
「...?それってどういう_」
「ま、俺にはさっぱしわからんけどな〜。」
圭といつも絡んでるこの人の腹の中は全然見えない。
________
「実は、圭くんは気付いていなかったのかもしれませんが学校で会う以前貴方に会ったことがあるんです。」
「その時私は何もかもが嫌になってあまつさえ全部終わらせようとしていました。」
「...」
ここで僕はにも言うべきではない、彼女の言葉を受け止める責任がある、と強く感じた。
「そんな時あなたが私にこう言ったんです、『あんたを必要としている人がまだこの世には絶対に居る。それだけは忘れないでくれ。』って。」
その時、頭の奥底に眠っていた記憶が呼び起こされる。厨二病をこじらせていた時の身勝手な言動。
「正直、何て身勝手な言動だろうって思いました。私のこと何も知らないのに何言ってんだって。」
確かに今思い返しても身勝手だったと過去の自分を悔い病みそうになる。
「...でも、私のことを何も知らないあなただったからこそ響くものがあったんだなって分かりました。あの時の私はきっと私を大人の都合としてではなく、一人の人間として見て欲しかったんです。」
「だから今は心から感謝しています。」
「....お、おう。」
照れくさいのと過去の自分への気恥しさで悶え、情けない返事しか出来ない。
「私、もう血の繋がった家族が居ないんです。」
「実の父は私が産まれる前に既に逝ってます。母と姉も家族旅行で私を庇って...。」
「勿論今のお父様は私のことを実の娘のように接してくれてはいます、私も実の父のように慕ってます
。」
「ですが、紫電の忘れ形見として大人の都合に振り回されることに嫌気がさして、それで_。」
そう告げる彼女の目には今にも零れそうな涙が溜まっていた。彼女の口から出た衝撃の事実に理解は追いつかない。
「そうだったのか....あの時君はそこまで追い詰められて....」
「圭くんのおかげで今があります。とっても楽しい時間を過ごせて私はとても嬉しいです。」
あの時彼女を引き留めたことに後悔はない。事情なんて知らないし、適当な正義感で辛い現実に押し戻してヒーローぶってるそんな偽善者が僕だった。無論後悔はしていない、けれど__。
「あの時少しでも君に寄り添えたら君は救われたのかな。」
「″もしも″の話は辞めました。私は前を向いて″今″を生きようって、だから圭くんがそんな悲しそうな顔しないで下さい。」
「立ち直るきっかけをくれて、私は私のままでいいと肯定してくれたそんなあなたが私は好きです。」
_好きです。
その一言に込められた彼女の想いを汲むことは僕にできるのだろうか。
「.....ありがとう、すごく嬉しいよ。少し時間をくれないか?」
__好きな人と両片思い。本来ならば飛び跳ねて喜びたいところだが、安易に返事は出来ない。__
「...はい、じっくり考えて答えを出していただきたいです。いきなり色々話しちゃって申し訳ないです。」
程なくして戻ってきた葵達と花火を楽しんだが、渚さんと微妙な距離感になってしまい言葉を交わすことはなかった。
春。君と出逢い、別れた季節。 ゆるゆる @yurukun_da
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