第16話 開幕、至極の夏休み


__ギージリジリジリ


どこからともなくあたり一体に蝉の声が響く。季節はもう夏まっしぐら、である。


気付けばもう夏休み。とは言うもののこれと言ってなにかする訳でもなくいつものように家でだらだら過ごすことになるだろう。


「あー、暑い。溶けそう。」


暑さで目覚めるとはまた嫌なものだ。自室からリビングへ徐ろに足を動かす。


『本日の最高気温は_』


テレビから今年の夏も猛暑日続きであることが聞こえてくる。全く耳が痛い。


ピロン!


携帯から元気よく通知音が響いた。


「誰だろう?」


渚さんからだ。思えば文化祭から渚さんとはあまり話せていない。当然のことだろう。


「大分、迷惑かけちゃったよなぁ、正直気まずい。」


『圭くん、夏休みいかがお過ごしでしょうか?もし圭くんさえよろしければ私の別荘にお越しになりませんか?』


《別荘》とはさすがご令嬢、平民とは住む世界が違う。でも実際1度はお金持ちの別荘に行ってみたいものである。


______



「あ、圭くん!それに皆様も!私の別荘にようこそ!」


そうして僕と葵、何故か嶺二が渚さんの別荘に招待され今に至る。


「なぁ嶺二、何故お前がいる?」


「圭とよくいる人だよね、なんで来たの?」


「お前ら揃いに揃ってあたりがキツくない?圭だけをハーレムにさせるワケにはいかねーって。」


「何言ってんだこいつ。」


「さぁ、私にもよくわかんない。」


と僕らが雑談していると渚さんがぷんぷんしながら提案をしてきた。


「3人だけで盛り上がっちゃわないで下さい!まずは荷物を置いてきてから昼食にしましょう!!」


「にしても広いな、さすが別荘。」


「うんうん、俺もそう思うわー。俺がいると場違い感が半端ない。」


「いや普通にお前は場違いやろ。」


「いや圭殿辛辣ぅ〜。」


「ふふっ、圭くんと成宮くんって本当に仲良いんですね。」


「私にはどっからどう見ても圭が一方的にあしらってるようにしか見えないんだけど。」


楽しい昼食の最中、午後は何をするのかという話題になった。


「午後は皆さまどうされますか?プライベートビーチやボート、あとは裏山など色々あります!」


「子供の頃の夢がここぞとばかりに詰まってるな。」


「そうなんです、私がまだ幼い頃、父上にお願いして出来たのがこの別荘なんです。」


なるほど海に山、夏のイベントならなんでも出来るであろう別荘の立地に納得が行く。


「とりあえず僕は砂浜でも拝んで来ようかな。」


「なら砂場の魔術師と呼ばれた私が本物のお城作ろーと」


「何それ、初耳なんだけど。」


「じゃあ午後は海に行きましょう!色々準備しておきますね!」


そうして僕らは白い砂浜に来ている。と言っても日陰になるように渚さんがパラソルを持ってきてくれたのだが。


「こんな暑いのにあいつら元気あるよな。」


視線の先には(自称)砂場の魔術師さんと嶺二がどっちが凄いお城を作れるかと競っている。


「楽しんでるみたいで良かったです。圭くんは何かやらないんですか?」


「うーん、僕はこうして砂浜と海を見てるだけで十分楽しめているよ。海のこの感じが好きなんだ。」


「なんだか少し分かる気がします。私もよく姉様とここに来ていた時は景色を眺めていました。」


「そういえば澪のやつは今日は居ないのか?」


「あ、はい。そうなんです、『ボクがいたら邪魔だろう』って。気を使ってくれたみたいです。」


「今の真似結構似てたな。なるほど、それで居ないわけか。」


「晩御飯はバーベキューにしようと思っているんです、その後に花火とかどうでしょうか?」


「いいんじゃないかな、楽しそう。あいつらにも言っておこうか?」


「はい!お願いします圭くん!」


ウキウキしている渚さん可愛いなぁ。


「ジーーー。」

戻ってきた葵と嶺二が同じ顔で見てきた。


「圭、あんた今結構キモイ顔してた。...ってそんな事より、今こそ審判の時!」


「そうだぞ!若干キモかったけど、ジャッジングタイムだ!どっちのお城の方が凄い?」


「そうは言われてもなぁ...お前ら『城』の方向性が違いすぎるんだよ。なんで白鷺城とノイシュバンシュタイン城で決着つくと思ったんだよ。」


「いや、だってほら私世界史だし...?」


「そうだぞ!俺は日本史選択だぞ!」


「決着つかないからやり直し、ラウンド2ファイッ」


とりあえず適当にあしらっておくことにした。


__雲ひとつない快晴の下、真夏の日差しを燦々と浴びる彼女を只想う__


そんな夏の1日も悪くないなと思った。













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