第13話 約束、友人、迫る影_。


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 憂鬱な試験も終わり、解放されたのも束の間で僕らは”テスト返し”という悪魔の儀式が始まろうとしていた。...とは言うものの、今までで一番手応えがあったので左程苦だとは思っていないが。


ガラガラとドアが開く音がした。

「それじゃテスト返していくぞー。今日は特別日課だから時間ごとに全教科返ってくるから心しとけよー。」


――ドキリ。今日全教科返ってくるということは、あの『数学』も来るわけか。

 そして渚さんとの約束が果たせるかも決まってしまうということでもある。


 難なく国語、生物、化学は平均を超えていく。...悪くない出来だ。渚さんと勉強したところが特に良くできている。さて、そろそろ主役のお出ましか?そう思っているとその時がやってきた。


「それじゃ次、数学返してくぞー。」

 ――瞬間クラスが静寂に包まれる。


「今回はすごかったなぁ、先生見たことない点数だらけでびっくりしたよ。平均点は...」


「このクラスは38点だな。うん、もう少ししっかりやった方がいいんじゃないか?先生お前らがしっかり理解してるか心配だぞー。」


...明らかに出題ミスである。それを頑なに認めようとしないこの教師をどうにかしてほしい、切実に。


 そして出席番号順に返却される。…先生の小言を聞きながら。


「次は宵宮か。お前は点数自体はいつも通りだが、出来としては割とよかったな。今後もしっかりやれよ。」


「...はぁ、ありがとうございます。」

 そういってテストを受け取る。58点。いつも通りの可もなく不可もない点数だが、平均点を考えるとおそらくそれなりには取れているのだろう。しかし、なんとまぁ、あの教師は一言多い。褒めるならそれだけでいいのに余計なことを言うのだ、全国の数学教師がこうでないことを祈るばかりだ。


__なんにせよ『約束』達成にまた一歩近づいた。それだけで充分だろう。


ここで午前の分の返却は終わり昼休みになった。残りは午後に返ってくるらしい。


「結果はどんな感じですか、圭君?」

渚さんが話かけてく、る?学校で他の人が居るのに直で話すのは初めてだ。


「ぼちぼちだよ。…今のところは約束守れてるよ。」

慌てる内心を抑えながら気丈にふるまっておく。


「あれ?圭、お前って紫電さんとそんなに仲良かったの?確かに同じ委員会ではあるけど、それにしてもなんか距離近ない?」


 と、嶺二が口を挿む。でも周りからしたらクラス隅の陰キャとマドンナが話してたらそんな風に感じるものなのかもしれないな。


「...確かに距離感近いってのは間違いじゃなさそうだな。物理的に、の話なら今そう思ってる。」

 なんかすごく近い。渚さんの整った綺麗な顔がすぐそこにある。


「そうですか?私はあんまり気にならないですけど...。」


「なんだよイチャイチャしちゃって!これだから圭は釣り竿なんだよ。まったくどうやってそんなに仲良くなるんだよぉ、クソ。」


「僕も知らないよそんなの!あと人をモノ扱いする奴と仲良くしてくれる人はいないと思うぞ。」

 しれっと僕の事を貶してきた嶺二に仕返しと言わんばかりの言葉をプレゼントする。


「ふふっ。二人はとっても仲いいんですね、なんだか少し羨ましいです。」

 少し遠い目をした渚さんがそう言う。どこかさみしそうな、儚い雰囲気を纏っている。


「いや、誰がコイツと仲いいんだよ?俺は無理だよ、うん。」


「はぁ~⁈ちょ、圭ひどすぎでしょ、俺たち友達よね?ね?そんなことより、ワタクシも紫電さんとお近づきになりたく申し上げます。」


「あはは、ありがとうございます。けど、今は大丈夫です。」


「嶺二、渚さんをあんまし困らせんなよ?」


「ん?“渚さん”?随分と親しいんだね~?圭よ、やっぱここで死んどくか?」


「あー、はいはい。分かったよ死んどくわ。にしても下らん会話見せつけて悪いな。」


「いえいえ。お二人の会話はどれも面白いことばかりなので聞いててたのしいです。ですからお気になさらずに。」


「なら、それでいいか。」


__そうして昼休みも過ぎテスト返却午後の部に突入するのだった。


 午後は英語と地理だ。まぁ、数学以外に特に不安要素を感じないテストだったのでイケるだろうと思っていたのだが、。


英語は難なく切り抜けたというのに、なんと地理で引っかかってしまった。いま思い返せば勘に頼るところが多かったような...?

 


 夢、此処に潰える。これで約束はなしになってしまった。


__いや、ここで諦めるわけにはいかない。意地でも採点ミスを見つけるのだ。

テストという行事にここまで心血注いだのも随分と久しぶりだ。


「あの、ここあってませんか?ここが__。」


先生は若干不服そうであったが、なんとか点数を貰う交渉は成立した。僕はあまり点数にこだわるタイプではないのでここまで食い下がる姿に先生は驚いていた。




――そんなこんなでなんとか『約束』を果たせた僕は渚さんに報告をしていた。


「...よかったです!それじゃ“ご褒美”あげなきゃですね♪」


何故か約束が果たせたことを僕以上に喜んでるように見える渚さん。そんな姿も愛おしくて、でも...始めから終わりが分かっている恋だ。葵との約束はある、だがそれでも僕は怖い。



 この幸せな日々が終わってしまうなんて嫌だ、ずっと続いてほしい。

けど、現実には“永遠”なんてどこにもなくて時間は残酷に、平等に過ぎていく。


_脇腹に鈍痛が走る。


 またか、最近多いな。まだ多少の猶予はあるはずだが、それでも終わりが近づいてくるのが自分でも分かる。


まだ、まだ逝けない。せめて次の春までは__



  君と出逢ったあの季節で君に告げるまでは_。









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