第10話 向き合うべき現実vol.2


____『明日の夜、今日と同じ時間同じ場所にきてくれ。僕からも大事な話がある。』


 私は彼にそう告げられた。その数時間前に私は彼に告白して、そして...振られた。


でも、僅かな期待を抱いてしまう。もしかしたら...なんてことを考えてしまう。彼はいつにもない真剣な表情をしていた。だから、ほんの少し、1%でも彼と一緒になれるのかもしれない、とそう思ってしまう。


…ずっと、好きだった。きっと彼は私の事を幼なじみとしか認識していない。そんなことは分かりきってるつもりだった。私はそれでも彼の事を好きになってしまったからたとえそれが困難を伴っても彼を振り向かせたかった。


 でも、きっと『もしも_』なんて存在しない。私たちが生きるこの世界はそれ程までに残酷で現実的だ。奇跡は起きないし、皆それぞれ身の丈に合った人生を送る。




__だから、もう終わらせよう。彼への執着を、。そして前を向こう。


 幼い子供が二人、公園を駆け回る。そこに居るのは、私と_。

よくやんちゃして怒られたっけな。昔はどこへ行くにも二人だった。私の方が彼より男の子みたいで馬鹿にされた時も、私が表彰されたのをまるで自分の事かのように喜んでくれた時も、高校受験で私が失敗して私立の高校に行くことになって、わざわざ自分の合格を辞退してまで一緒の学校に行くことを選んでくれた時も。


…全部、全部が彼の優しさと強さの表れだったのだと思う。そんな彼に私は次第に惹かれていった。だから彼以外の男子に興味なんて一切湧かなかったし、人気者として持て囃されても彼とかかわる時間が減るだけで鬱陶しいだけだった。


「私、全部、全部好きだったのにちゃんとそれ言えなかったなぁ。」

「圭は__私を選んでくれなかったんだ。」

 そう言葉にして、改めて実感してしまう。私の恋が、咲くことはなかった現実を。

青い日常は眩しい光を放っている。彼との思い出全部、全部胸にしまおう。

 

 立ち直るのはまだ難しいけど、まるで下り坂の人生を歩んでいるような気分はするけど、踏ん切りをつけて顔をあげてまた彼の隣を歩きたい。


だって私は___彼の”幼なじみ”だから。



_______________



『明日の夜、今日と同じ時間同じ場所にきてくれ。僕からも大事な話がある。』

と言ったものの僕はどう告げるべきか頭を悩ませていた。


「ここはいっそシンプルに言うべきか...?でもそれだけで伝わるのか...?わからん。」


__そう言えば、葵の告白に対してちゃんと返事ができていたのだろうか?

あの状況の流れで何かを言った気がするがすべては伝えてないはずだ。

つまり、

「全部含めて、あいつに話すのが筋ってもんか。」



_______________


僕らは昨夜まるで何もなかったかのように過ごした。僕が望んでいた平穏な日常のようだった、だがそれはもう要らない。そんな見せかけの平和を僕はもう理想とは呼ばない。



だから、___


 約束の時間。僕は逃げずに葵を待っていた。


「来たんだな。」

待ち合わせまでまだ少し時間があるが葵がやってきた。


「...うん。圭から大事な話って言ってくれたことないし、きっと本当に大事なことなんだなって思ったからね。」


「どうする?また、歩くか?」


「うん。その方が人目につかないだろうし、圭も言いやすいでしょ?」


「あぁ、その方が助かる。」


川沿いの夜道を二人歩く。

僕らを静寂が包み込む。


_ここで、言おう。


「葵、僕はお前にずっと言ってなかったことがある。」


「...うん。」


「僕は、僕は____。」


 その刹那、私は頭が真っ白になった。


彼が言ったことを理解できなかった。否、理解したくなかったのかもしれない。


「なんで、なんで圭が…?それに、なんでそんなに落ち着いていられるの?」

雫が頬を伝って一粒、また一粒と零れ落ちる。


「…まだ、実感がないんだ。僕だって正直受け止め切れているとは思っていない。」

ちゃんと、葵に言った。そして、


「だから、僕はそばに居てやれないから、お前の気持ちに答えることは出来ない。だから、分かってくれ、頼みだ。”一生のお願い”ってやつだ。」


「…ずるいよ。そう言われちゃったら私、何にもいえないよ。でも、ひとつだけ約束して。」


僕からの身勝手な我儘を聞いてもらったのだ、僕も彼女の”約束”を守る必要があるだろう、と思い返事をした。

「分かった。どんな約束だ?」


「もし、好きな子がいるんだったら、私と同じ理由で諦めるなんてことしないで。ちゃんと恋愛して。私が全力で応援するから。」


「でも僕は__」


「約束を守ってくれなきゃ私ぜっっったい諦めないっていうけど?」


「分かったよ。ちゃんと恋愛するよ。」


「私が圭の幼なじみでよかったって土下座して感謝するくらいにはそばに居てあげる。」


葵は僕の秘密を知ったうえで最後まで幼なじみとしてそばに居てくれると言った。今まで一人で背負ってきた秘密を半分背負ってくれた。今はただ、それが嬉しくて。


「あちがとう、葵。今でも充分に感謝してるよ。」


「…それで来年の桜は見れるの?それまで体は持ちそうなの?」

葵は少し俯きながら僕にそう聞いた。


「どうだろうなぁ、最後に一目見たいとは思ってるけど。3月いっぱいまでもったらいい方だって言われてるんだ。」


「そっか。圭のいない生活なんて考えられないなぁ。ずっと一緒だったし、私たち。」


「そうだな、僕も想像できないや。でも、いずれその日は必ず来る。そんな予感はしてるんだよ、もうずっと前から。」


僕は、葵に告げた。

僕の運命を、抱えていた秘密を_。


「僕は、僕は____もう余命が一年もないんだ。だからせめて、僕が居なくなる前に僕が居た証を残したい。」

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