第6話 波乱の幕開け

なんやかんや、葵の家に泊まることになってしまい、自宅へ着替えを取りに帰る。その時誰かからLINEが届いた。見てみるとそれは__紫電さんだ。


『いま少しお時間よろしいでしょうか?』

「あぁ、問題ないよ。どうかしたのか?」

と送ると、すぐに既読と返信が送られてきた。


『通話しながら確認したいことがありまして。』

「分かった、こっちはいつでもかけてもらって大丈夫だ。」

『ありがとうございます。それではかけますね。』


程なくして彼女から電話がかかってきた。


『もしもし、宵宮君?』

「もしもし紫電さん、何か確認事項でもあったのか?」

『重要なことでもないのですが、1つお願い、がありまして。』

「お願い、か?」

『はい、な、名前の呼び方についてなのですが..//』


...名前の呼び方。そういえばあまり気にしたことがなかったな。変えるとしてもどう変えるのだろうか?


『私のことは、渚で構いません。ですので、私も宵宮君の事を圭君と呼んでもよろしいでしょうか?』


「僕は別に構わないけど、どうしたんだいきなり。」


『いえ、その...大した意味はないのですが、こっちの方がより親しみやすいかな...と思いまして。』


「なるほどな、確かにそれはあるな。じゃあ早速呼んでみるか?」


『ほんとですか?!では、私からいきます。け、圭君。』


「じゃあ僕も、渚さん。」


『...渚でいいですよ、さんをとってください!』


「わ、分かったよ。渚。」

自分で言っててとても恥ずかしいようなこそばゆいような感じがする。


『なんか、呼び方ひとつで変わりますね。少し恥ずかしいし、照れます。』


「そうだな、僕もそう思っていたところだ。」


『明日から学校でもちゃんと渚って呼んでくださいね、圭君?』


「分かった、最善を尽くすよ。な、渚。」


『それではまた明日です、圭君!』

「あぁ、また明日。」

そう言って電話を切った。





________


僕は、葵の家に戻ってお風呂を満喫するのだった。

「はあ〜生き返るなぁ〜。」

風呂は生命の洗濯、とはよく言ったものだ。湯船に浸かるや否や思い出すのは、先程の紫電さん_もとい渚さんのことだ。


「突然どうしたんだろうな。」

名前の呼び方を変えよう、と提案してきたのだがその意図はよく分からない。ただ、僕らの掴めない距離感が少し変わってきているのは確かだ。


「圭〜!タオルここに置いておくね〜。」

脱衣所で葵が叫んでいる。


「分かった、ありがたく使わせてもらよ。」

と返し、ぶくぶくと泡を立てながら思考を巡らせた。



________


「圭君、かぁ。ちょっと大胆過ぎましたかね?」

私は彼とのLINEの画面を見つめながらそう呟く。


「でも、彼はとても魅力的な人だから皆さんが気づく前にアタックしなきゃ、ですよね?澪姉様。」


「よく分かってるな、流石は私の妹だよ、渚。」


「でも、ボクの可愛い可愛い妹が骨抜きにされることがあるだなんてなぁ。」


「もぅ、姉様ったらからかわないでください!」

「ははは、可愛い妹の為だ。ボクも一肌脱ごうじゃないか!陰ながら手伝わせてもらうよ」


「それは、素直に感謝しておきます、姉様。でもその喋り方何とかならないんですか?」


「それは無理な相談だな、我が妹よ。ボクは昔からこんな感じじゃないか?」


「はぁ、まぁそうですけど...。」

ここで話していても埒が明かないと思い私は自室の鏡に映る私を見ながら、


「私は貴方の瞳にどう映っていますか?圭君。」

とため息混じりにつぶやく。


彼の瞳に映る私の姿を想像しては、

「もっと、頑張らなくては。」

と奮起して、また明日も彼を篭絡させるために頑張ろうと心に決めたのだった。




_________


「お風呂、気持ち良かったよ、ありがとう。」


「それなら良かった〜、それじゃあ次は私が入ってくるね。」


「おう、行ってら。」

とやりとりをしてからほどなくして葵はお風呂に向かっていった。


_ピロん! 突如僕の携帯に通知音が鳴る。


『夜分遅くにすみません、今週末からGWですね。良かったら何処かお出かけしませんか?』

と、渚さんからお誘いが送られていた。


こ、これは、!?行くしかない!「分かった、行こう」と送った後でふと、心に引っかかるものがあることに気づく。


何かあったはずだ。何か大切?な予定があったような...。......。思い出せずに考えていると、そこにはお風呂から上がってきたばかりの葵の姿があった。


未だ濡れてしっとりしている髪とふんわりと広がるやわらかな甘い匂いにおかしくなりそうになるが、僕の理性は何とかそれを押しとどめていた。


「そういえば、圭は今年も行くんだよね?」


「行くってなんだっけ?どっか行くとこあったか?」


「何言ってるの?私たち家族絡みで毎年旅行に行くじゃない?ゴールデンウィークに。」


「あ〜そうだったな。今年ももうそんな季節か、すっかり頭から抜けてたわ。」


「も〜しっかりしてよ〜!で、行くんでしょ?」


「そうだな、もちろん行k..」

とそう言いかけたところで言葉に詰まる。あれ、GWってさっき渚さんからもお誘い受けてたよな、さすがに断れない、よな。


「うん、行くに決まってるだろ。」

そう言っておくことにしたが、内心冷や汗だらだらだ。

もし、渚さんのお誘いを断れば渚さんは傷つくだろうし、それがほかの男子にバレたらおそらく海に沈められるだろう。

一方で、葵もとい家族絡みの付き合いを棒に降れば、今までに前例は無いし、葵との関係も気まずくなるだろう。



__僕はどうすればいいんだろうか。ひょんなことから人生の帰路にたたされてしまうのだった。

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