第5話 帰り道、雨、縮まる距離。

「さてと、どうしたものか。」

 靴を履き替えた僕らは突然降りだした雨に足止めを食らっていた。


「あの、私折り畳み傘なら一本持ってるんですけど...。」

 どうやら紫電さんは傘を持っていたらしい、僕は当然持っていないのだが。


「なら、紫電さんが使ってくれ。僕は大丈夫だから。」

「でもそれじゃ、宵宮君が濡れて風邪を引いてしまいます。」

「とは言っても、紫電さんを雨に曝すわけにもいかないし...。」

と僕が言うと紫電さんは、

「なので、私と、その…相合傘しませんか?」

 そんな大胆なお誘いをしてきた。こんな機会逃せば二度と巡ってこない、そう思い快諾した。

「ま、まぁそれが一番現実的だな。それなら、するか。その…相合傘。」

「はい!それでは入ってください!」

 ぱぁっと曇り空が晴れたかのような笑みを浮かべる紫電さんを見て不覚にも、可愛いなぁと思うのだった。


 さして話すことも思いつかず無言で歩く僕ら。すると10分ほど歩いたところで

「ここまでで大丈夫です、送ってくださってホントにありがとうございました。」

と紫電さんが足を止めた。


「おう、こちらこそ傘に入っちゃってすまなかったな。」

そう言って傘を渡そうとすると

「私の家はすぐそこなので宵宮君がそのまま使ってください。それとも…私の傘は嫌でしたか?」

と上目遣いで言われてしまった。そんな愛らしい姿に断れるはずもなく

「そうか、正直傘がないとキツかったから助かる。後日返すよ。」

と告げ葵の待つ家へ向かおうとすると、


「あ、あの宵宮君。」

 紫電さんが呼び止めてきた。

「どうかしたか?やっぱり傘が欲しくなったのか?なら_」

そう言いかけた辺りで彼女が被せ気味に言葉を紡ぐ。

「傘はいいんですけど、その、よかったら連絡先を交換しませんか?」


 瞬間、街頭に照らされる顔がゆでだこのように真っ赤になっているのがわかった。


_今、連絡先って言ったのか?僕の?紫電さんが?_と困惑していると、

「あ、いや、その。変な意味はなくてですね、私たち学級委員でしょう?お互いの連絡先を知っておいて損はないと思うんです。情報交換とかできますし、。」

 紫電さんが提案してきた。なるほど、確かに一理あるな。と思い僕も、


「確かにそうだな、交換しておこう。これがの僕のLINEのID」

「わわっ、ありがとうございます。登録しますね。」

 

 そう言ってそそくさと画面をタップして『よろしくおねがいします、宵宮君!』という文と共に可愛らしいスタンプが送られてきていた。僕も『あぁ、よろしく。紫電さん』と送っておいた。


「それじゃあ、また明日ですね、宵宮君。」

「あぁ、また明日だな、紫電さん。」

踵を返し、帰路を辿る。いつもより足取りは軽やかに。しかし、現実は非常だった。


「…。遅い、遅すぎるよ、圭。こんな時間まで何してたの?」

時計をみると、午後8時を回っていた。紫電さんと学校を出たのが7時くらいだったから、かれこれ一時間くらい喋っていたことになる。...そんなに話したっけ?


「すまん、ホントにすまん。さっさと飯食って家帰るから、許してくれ。」

 と言うと、葵は呆れたような顔をして

「それで許しちゃうのが私のだめなところなんだろうなぁ。とりあえず手洗いうがいしてきて、今ご飯温めるからさ。」

と言ってキッチンに向かって行った。

 僕は手洗いうがいをすませてテーブルに腰かけていた。

「熱いから気を付けてね、それじゃあ頂きます。」

「あぁ、分かった。僕も、頂きます...ってまだ食べてなかったのか?」

「圭が帰ってくるまで待ってたんだから当り前だよ?それに、一人で食べるよりより誰かと食べる方が楽しいし。」

「...そっか、待たせて悪い。」

「ほんとだよ!!反省したら今度スイーツ奢りね。」

 と機嫌を直してくれたようで僕らは食事をとりながら、雑談をしてあっという間に時間が過ぎていった。



そして食事も終わり、食器を洗っていると、ふいに葵が話しかけてきた。

「そいえばさ、今日何でここまでおそくなったの?」

「それは、委員会の仕事があってって言わなかったか?」

「それは、そうなんだけど、その後だよ!ちょっとした用事ってなんだったの?」

「あ、えーと、それは...」

あー、


 僕がしどろもどろになっていると、葵が納得したような面持ちで、

「ふ~ん。なるほどね、私以外の女の子と仲良くしてたのね。別に何とも思わないけど隠されるとそれはそれで...傷つくからさ。」


げんなりしたように言った。


「それは、ごめん。仕事が終わった頃には外が暗かったから送ってたんだ。」


「...誰を?」


「紫電さん」


「ふ〜ん。ま、いいよ。圭のこと譲る気なんて一切ないけどね!」


「何言ってんだお前?お前は僕の保護者か?っての。」


「この鈍感、アホなす、あんぽんたん」

「なんでこうなるんだよ!」

そうツッコミを入れた所でちょうど皿を洗いきった。


「それじゃ、僕は帰るよ。また明日。」


「...て?」


「なんだ?声が小さくて聞こえないんだが。」


「だから、今日はうちに泊まっていってって言ってるの!!」

なんだ、なんでこんなにこいつは怒り口調なんだ?


「いや、高校生にもなってお泊まりとかさすがに...」

「なんか、言いたいことある?」

物凄い剣幕で捲したてる葵に僕はおずおずと

「あ、特にないです。はい、分かりました。」

そう答えるしかなかった。


____________


「ちょっと圭、それ私の歯ブラシ!圭のはこっちだよ!」


「すまん、シンプルに間違えた。」


考え事をしながら行動するのは良くないね、うん。


「あぁ〜もう、圭ったらだらしないんだから!ほんとに私が居なきゃだめだめよ。」


「それは、まぁそうかもな。」

実際その通りであるため肯定しておく。

「だからちゃんと、責任取ってよね。他の子に目移りしたら許さないんだから。」


「...?何の事だがよく分からんが、胸に留めておくよ。」


「ほんっとに察しが悪いなぁ、圭は。」




__平穏な日々どころか修羅の道に進みつつあることを悟り先が思いやられるのだった...。


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