第4話 放課後、教室、何も起こらない訳もなく?
「...なんか変な感じがしますね、私たち。」
沈黙をかき消すように紫電さんが言った。”変な感じ”か、確かに僕らは互いの距離感がよくわかっていない。
「まぁ、そうだな。ただ、口を動かす前に作業を続けた方がいいんじゃないか?」
僕らはいま放課後の教室で二人、学級委員として任された『学園祭の準備』を行っている。
「むぅ、宵宮君は真面目過ぎます。少しくらいお話ししてもいいじゃないですか?」
「日が暮れるまでに終わるといいがな、何せ仕事の量が半端じゃない。」
そうなのだ、今は午後六時。作業開始からすでに二時間が経過していた...のだが一向に終わる気配はない。
僕と紫電さんは普通に会話ができるくらいには親交が深まっていた。というのも、ケーキ屋での一件以降『学園祭準備』や『委員会総会』などで何かと関わる機会があったのだ。
『んー。』と大きく伸びをしている紫電さんを横目にずっと気がかりだったことを訊ねてみる。
「なぁ、紫電 澪という人物について聞きたいんだが_」
「えっ、宵宮君あの子に会ったんですか?...あの子色々と抜けてるところがあるとは思うんですけど、とっても優しくていい子なんです。仲良くしてあげてくださいね。」
と少し驚いたような表情をしながらそう告げる彼女に違和感を覚えたが、今はまだ無理に追求すべきではないと、そう思い
「...あぁ。確かにぶっ飛んでるし何考えてるか分かんないけど善処するよ。」
とだけ返しておく。
「ありがとうございます。」
それから時折他愛もない会話をしつつ作業を続けて___
もう一時間くらいたったくらいでようやく今日の仕事が終わった。辺りはもう真っ暗だ、きっと校舎にも僕たちくらいしか残っていないだろう。
__暗い校舎、二人きりの教室。今なら何をしても不問になるかも...しれない、なんて邪な気持ちを僕の理性が全力で押しとどめ何とか平常心を装っていた。
「やっと終わりましたね~。今日も大変でしたね、お疲れ様です宵宮君。もう外は真っ暗ですよ~。」
「あぁ、そうだな。まだ四月半ばだし日暮れもはやいからな。」
「...。」
「...。」
暫く沈黙が続く。あー気まずい、ここは僕が、『もう暗いし、家まで送ってくよ。』とか言うべきなんじゃないのだろうか、漫画知識だけど。と、とりあえず何か、何かを言わねば!そう決めかねていたとき__ふいに携帯が鳴った。僕の携帯だった。
「もしもし、どうしたんだ急に?」
『もしもし、じゃないよ!今どこで何してるの?圭』
…電話の相手は葵だった。何というか、タイミングが良いというか悪いというか、。
「今教室で学園祭に向けての仕事をしてたところだ、今帰る支度の途中なんだが。」
『そーゆーことはちゃんと前もって連絡してっていつも言ってるでしょ?もー、今日はおばさんの帰り遅いからうちで食べてくんでしょ?…ずっと待ってるんだから。』
「あぁ、すまん。もう帰る、いや…もう少し遅くなる、な。先食べててくれ。」
そういえば今日は葵の家でごちそうになる日だった。朝、母さんからも葵からも言われていたのにすっかり忘れていた。
だが、女の子を、ましてやこんな美少女を一人で帰すわけにも行かずそう言って電話を切ろうとする僕に葵は、
『え、ちょっと何で?まだ何か用事あるの?だったら私待ってるよ?』
と、怒ったようなそれでいて心配してくれているような声音で言葉を放つ。
「そうだな、少し用事があってな。それじゃ、腹空きすぎて倒れぬ程度に待っててくれるか?」
『…ったくしょうがないな~、圭の頼みだから素直に受け取っておくけど。次はちゃんと言ってね?』
「分かった。悪いな、いつも迷惑かけて。」
『…いきなりどしたの?今に始まったことじゃないし、それに全然圭っぽくないよ。変なの~。』
「そうか?まぁ、それじゃ切るわ、また後で。」
『はいね~、また後でね~。』
と言葉を残し電話は切れた。
「...用事って私のことですか?」
「まぁ、そんなとこだ。今日は家まで送ってくよ、こんなに暗い中女子を一人帰すのは危ないし。」
「優しいんですね、宵宮君は。」
「これくらい普通のことだろ?それに紫電さんは、その...可愛いし、変な奴が寄ってくるかもしれないだろ?」
勢い任せに言ってしまったが思い返せば葵以外の女子と帰ることなど今まで一度たりともなかった。...僕はいま、とても、緊張している。
その刹那紫電さんは頬を少し赤らめたように見えたが顔をプイッと背けてしまいよく見えない。
「...ズルいです。ほら、早く帰りましょう?...一緒に帰ってくれるんですよね?」
そう言い足早に教室を後にしようとする彼女の姿にどきりとしながら、僕も負けじと教室を出た。
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