第2話 エスネアとフェルディナント公爵家
我がソール家はユーグラシス王国の西側に南北に広い領地の面積を持つ。
一方、これから私が向かうフェルディナント家の領地は王国の東側になります。
東西に横断出来ればどれだけ楽なことか…
1000年前は大陸のほぼ中央部にユーグラシス王国とイースリアス神聖帝国と面する形で魔法公国ルーンヴェスタという国があったそうなの。
ルーンヴェスタは大規模な魔法災害により滅亡。
領土の一部は王国と神聖帝国が統合する形になったそうなのだけど、魔法公国のあった中心部はとてもではないが人が済める状態ではないみたい。
魔法災害の傷跡が今も残っていて、所々で瘴気が満ち魔素が溢れている。
より凶暴に変異した魔物や亜人が闊歩している。
並の実力者だと帰還は困難と言われている。
それでも、ルーンヴェスタの跡地には1000年前の遺物が眠っており、それを求め、まさしく命懸けで探索に行こうとするものが後を経たない。
また、強力な魔物の素材はこの上ない武具の材料にもなる。
単純に修行に利用するものもいるみたいね。
そんなルーンヴェスタ跡地は今は不毛の地と呼ばれている。とても危険な地域なのよ。
ソール領から北は神聖帝国領内になるのでそちらからは行けない。
なので、街道に沿って南から不毛の地を迂回して、ヴェスティア伯爵領を通りフェルディナント公爵領へ、というルートになるわ。
ヴェスティアは王国の南側の交通、交易の要所として物凄く賑わっています。
不毛の地への入口としても一番大きな街になります。
不毛の地への出入りは冒険者ギルドにより厳しく管理されているそうよ。
一攫千金を狙う人、魔物や亜人の討伐により懸賞金を狙う人、自信を高める為に修行に明け暮れる人、商隊の護衛を請け負うことを生業とする人等様々な冒険者がいるようね。
私達が朝早めに、ソールのお城を出立して、半日ほど。
私達の一行は正午ごろヴェスティアに着く。
それぞれに食事休憩を含め自由時間を2時間ほど取らせる。
私はヴェスティア伯にご挨拶に行ってきました。
ヴェスティア伯フィリップ様はご高齢ながらとてもお元気。
私の父親と同じくらいのお年ですが、毎晩の様に街の酒場に繰り出してはサーガを語るのがご趣味。
お料理も凝られていて、同じ様に街の酒場に繰り出してはキッチンを借りてお料理を振る舞われるそうよ。
中には御領主様だと気づかない人も多いとか。
フィリップ様はとってもユーモアがあってスマートなジェントルマンです。お父様とは大違いね。
でも、お元気とは言えご高齢。お子さまもいないので後継者問題があるとかないとか。
噂では最近、「養子に!」と熱烈にラブコールを送ってる方がいるそう。あのフィリップ様が惚れ込む方とはどんな方なのかな?お会いするのが楽しみです。
今日は残念ながらフィリップ様にお会いできませんでしたが、久しぶりのヴェスティアの賑わいを楽しみました。
私の騎士団は若い人ばかり。
一番年上はサラね。
お父様が配慮してくれたのかな?
みんなヴェスティアでの時間を楽しんでくれたみたい。
ヴェスティアを立ち、フェルディナント領へ。
行程は順調そのもの。
街道沿いに行くだけなので大きな問題は基本的に起きないわ。
特にフェルディナント領内は治安も良いことで有名なのよ。
さて、私達も日が傾く前にフェルディナント公爵家のお城につきました。
「エスネア!」
と、私を呼ぶ小さい影。
「フィリー!」
私の幼馴染み、フェルディナント公爵の公女フィリーです。
綺麗な金髪は快活感を与えるショートカット。瞳はブルー。肌も白い。
背は私より頭1つは低い。
なお、背が低いのは当人も気にしてます。
服装は、ブルーのスタンドカラーの上着。襟は開いていてスカーフをしているわ。所々白のラインが入っています。
右肩の方にだけ肩章と赤い短いマントをしています。
上着の丈は短め。
ミニ丈のプリーツスカート。此方は白をベースに青のラインが入っています。
勿論見えない対策も万全です。
膝下までの白いブーツを履いています。
「あなた、馬に乗れる様になったの?」
と、馬から降りた私に駆け寄るフィリー。
「ええ。何とか通常の移動で乗る程度には」
実は、私は馬に乗れない。
今日の様に馬を走らせないなら乗ることが出きるのだけど、いざ走らせそうとなると身体が硬直して震えてしまうの。
お医者様にも相談しましたが、どうやら初めて馬を駆けさせた時に落馬したのが原因の様です。
お医者様のアドバイスやサラの助けもあり、何とか乗れる様になったわけです。
勿論、私は馬に乗れないことを隠しているわけではありません。
むしろ、包み隠さず公表しています。
「そっか~、それも進歩だね。エスネア頑張ったんだ!」
と抱きついてくるフィリー。
この娘のこうした屈託ないところが、私は大好きです。
「あ、サラ!こんにちは」
サラの姿を見つけたフィリーが彼女に挨拶をする。
私のお目付け役なこともありサラとフィリーも旧知の仲です。
「これはフィリー様。おかわりなく」
と一礼するサラ。
「サラをはじめ、騎士団のみんなは東側の別館を使ってね。場所はわかるわよね?」
はい。と答えるサラ。
「では、後はサラに任せます。今日は長距離の移動で疲れてるでしょうから合同での訓練はしません。個々でやる分には構わないわ」
私が指示を出すとサラは騎士達を連れ宿舎の別館に向かう。
「あ、後、夕食はみんなでワイワイやりながら食べようって兄さんが言ってたからそのつもりでいてね」
「まあ、ホルス様がそんなことを?」
「うん。結構そういうの好きみたいよ。今、お義姉様が一生懸命お料理してるよ」
「アヴェール様がお料理を?」
アヴェール様とは。
フェルディナント公爵家の公子ホルス様の奥方です。
何と、ユーグラシス王国の第2王女様であらせられます。
私達くらいのお年まで神聖帝国内の修道院でお過ごしになられていました。
ホルス様と劇的な出会いをされたそうです。
何でも、魔物か亜人の群れにアヴェール様が教われたところを救出したそうですよ。
その時はお互い名前を名乗る暇もなく、離れ離れに。
そして、アヴェール様の王国へのご帰還を祝う式典で再開され、その時のパーティーではお互い最初のダンスを踊られたとか。
お互い、一目惚れという噂もありますし、ホルス様は王国聖騎士にも任命されている方ですから、王様も快くアヴェール様をフェルディナント家に嫁がせたそうです。
お互い、深く愛されており、ユーグラシス国内では理想の夫婦像にもあげられます。
私にもお二人の様な夫婦みたいになれる方とのご縁はあるかしら?
荷物をいつも宿泊させてもらう部屋に片付ける。
「さあ!エスネア!訓練よ!」
とフィリーが息巻く。
勿論、私もそのつもり。
さあ!訓練よ!
訓練場。
私達以外は誰もいない。
私は訓練用の槍を構える。
対するフィリー。
左手に訓練用の剣を右手に盾を構える。
フィリーは左利き、というよりフェルディナント公爵家の方は左利きが多い事で有名です。
勿論、フィリーのお兄様のホルス様も左利きよ。
そして、剣と盾を構える戦い方はフェルディナント家が最も得意とするスタイル。
フィリーとは何度も手合わせをして競ってきた相手。手の内も大方把握しているわ。
まず、動いたのは私。
牽制のための突きを連続して放つ。
それを盾と剣でいなしながら距離を詰めるフィリー。
フィリーが盾で強く槍を弾く。
私はその力の流れに逆らわず、弾かれた槍先ではなく石突きで距離を詰めながら打撃を加えていく。
「とっ、とっ、とっ」
石突きでの連続攻撃をリズムよくかわすフィリー。
私は続けてフィリーの足元に向け、槍を払う。
それを軽くバックジャンプしてかわすフィリー。
私は続けて、大上段から槍を叩きつける。
それを盾で受け流し、一気に間合いを詰めてくる。
「そんな、大振りしていいの?」
「貴女こそ。不用意に間合いを詰めすぎじゃない?」
フィリーが距離を詰め、剣で切りかかって来る。
私は弾かれた力に逆らわず、そのまま後方に宙返り。
間合いを取り、着地と同時に一気に踏み込みながら突きを放つ。
私の槍とフィリーの剣が切り結ばれ、鍔迫り合い状態に。
「相変わらず、やるわね」
「貴女こそ」
私達はお互いを讃え合い、間合いを離す。
もう一度お互いが踏み込もうとしたところ。
「そこまで!」
男性の声が響く。
穏やかさと力強さをあわせ持った声。
「ホルス様!」
「あら兄さん。もどったの?」
この方が、フェルディナント公爵家の公子、ホルス様です。
すらりと高い背丈。
余計な贅肉はおろか、不必要な筋肉もつけていない整った体つき。
金の髪はほどよく整えられており、前髪は中心ではなく7対3の割合で分かられている。
青の意思の強さと優しさを感じる瞳。端正なお顔立ち。
今日は狩に行かれてたのね。狩りの装束でお見えだわ。
「ああ、帰るなり、雷公女殿が我が家のお転婆姫と手合わせ中と聞いてね。顔を見に来た」
私は嬉しくて微笑んでしまう。
この国で生きている女子はだいたい、ホルス様に憧れている。
目の前のフィリー以外は、ね。
「ふふ。そういうことです」
「アヴェール様!」
そこに1人の女性が現れる。
海のように美しい青い瞳。
緩くウェーブのかかった金の髪。
普段は腰の辺りまで下ろされていますが、今日は頭の後ろでまとめられています。
今日は簡素なお衣裳を身に付けられエプロンをされています。
「よく来ましたね。エスネア。息災でしたか?」
アヴェール様の穏やかな語りは、いつも心が和みます。
「はい!ホルス様もアヴェール様もお元気そうで何よりです!」
「ふふ。今日はこの人の発想で朝から炊き出しをしています。わたしも楽しくお料理させてもらってますよ」
ホルス様もアヴェール様もお料理がとても得意なの。
私みたいに客人が来た時は勿論、普段からも家の方にお料理を振る舞っているそうよ。
アヴェール様は修道院にいた時期があって、その頃に貧しい方々を対象とした炊き出しなどもされていたそうなの。
食卓を彩る繊細なお料理の腕前も素晴らしいけど、今回、炊き出しの様な大鍋のお料理ははじめて頂くので、とても楽しみ。
私もアヴェール様にお料理を習おうかしら?
折角だからフェルディナント家に逗留している間にお願いしてみましょう!
あ、ちなみにフィリーは全くダメね。
「さて、では私も夕食の準備にはいるかな?お客人に出すに恥ずかしくない、良い鹿がとれてね」
「まあ。それは楽しみね。貴女達も訓練はほどほどにね」
そう言い、ハチミツレモン水を手渡してくれるアヴェール様。
身体を動かした後のアヴェール様のコレは最高なの!
そして、ホルス様もアヴェール様も訓練場から去っていく。
残された私とフィリーはハチミツレモン水を飲みながら話す。
「ところで、エスネアは何で兄さんのところに来たの?」
「え?ええ。部隊訓練と槍の稽古をつけて頂くために」
「ふーん。でも兄さんって剣専門じゃないの?何で槍を?」
「あら、知らないの?ホルス様、ウェポンマスターだそうよ?」
フィリーは立ち上がり食い気味で私に聞いてくる。
「え?そうなの?知らないわよ!さては、隠してたな~!ご飯の時に問い詰めてやるんだから!」
私はフィリーの様子を見てフフッと微笑む。
きょうだいって良いな。
私は独りっ子なので、そういうのは正直に羨ましい。
夕食のお料理は本当に美味しかったです!
家臣たちもホルス様達のおもてなしにとても喜んでいました。
そして、フェルディナント家での、訓練の日々が始まるのです。
この時の訓練が間違いなく後々の私の大きな力になりました。
ホルス様には本当に感謝でいっぱいです。
さて、今日はここまで。
次は、魔法の練習をしていた私の前に現れた方とのお話。
Stardust Heros Saga ~星屑英雄譚~ 雷神と呼ばれた少女 杵露ヒロ @naruyamato
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