Stardust Heros Saga ~星屑英雄譚~ 雷神と呼ばれた少女

杵露ヒロ

第1話 エスネアという少女

ここは原界と呼ばれる世界。


その中でも最も高い山の頂きに天と地を見守るように建っている神殿がある。


星導宮と呼ばれるその神殿では星読みの女神セリカが原界を見守り続けてきた。


そのセリカの元にある客人が訪ねてきた。


旅人は英雄達の話を望み、セリカは伝説の3聖人について語っている日々だ。


そんなある日のセリカと旅人の会話


ーさすが、3聖人。様々なエピソードをお持ちだー


ーふふ。そうですね。あの娘達の話はまだまだたくさんありますよ?

どうでしょうか、ここら辺で1度他の者の話でも挟んでみますか?ー


セリカは客人に問いかける。


客人は少し考えてから答える。


ーそうですね。それでは人々に人気の高い雷神殿の話をお願いしましょうか?ー


ーなるほど、雷神エスネアですか。確かにあの娘も比類なき英雄です。

あの娘が成人し『雷神』と呼ばれる様になってからの話は多くの人も知るところですねー


ーはい。そうだ。かの雷神殿が如何にして雷神と呼ばれる迄になったか。あの方が雷神と呼ばれる様になったのは成人してからと聞いていますー


ーそうですね。では、あの娘が如何にして『雷神』になったのか、なっていったのかを語りましょうー


ーそれは良い。かの雷神殿の子供の頃の話はあまり聞きませんからね、是非にお願いしますー


ー畏まりました。そうだ!少し趣を変えて話をてみましょうか♪そう、あれは…ー


そして、セリカは雷神と呼ばれた英雄、エスネアについて語りだす…



           



時は神帝暦1520年


あの伝説の3聖人が堕神の王を打ち破ってから約1000年。


人の世はさほど1000年前と変わらずに日々が流れています。


国家同士の大きな戦が起こらないのが大きな理由だと家庭教師の先生は教えてくれました。


ヒトには共通の不倶戴天の敵である亜人が存在するからです。


亜人や魔物。魔物に至っては野生化し、動物との交配なども進んでしまい、原型を追うのも難しいそうです。


私は大陸2大国家の1つユーグラシス王国の4大公爵家の1つソール家の娘です。ソール家は王国の西側に広い領地を持ちます。


最も西側は最果ての地へと続く地の入口だし、北西部は神聖帝国とも近い。東側は東側で不毛の地の監視もあって、色々とお役目は多い家ね。


申し遅れました。私はエスネア。エスネア・フォン・ソールです。15歳になりました。



銀の髪をしています。今は肩くらいまでの長さ。


それを首の後ろで軽くまとめます。


まとめるときは母の形見のバレッタを使ってます。


アメジストがあしらわれた銀細工の物でとっても素敵なのよ?


大人になるまでにはそのバレッタも似合っていた、お母様の様にもっと綺麗に伸ばしたいと思ってます。


瞳の色はアメジスト。肌は白い方だと思います。


背は同世代の女子の中でも少し高いかな?


よく、エスネア様はスラッとしていてますね。といわれるわ。


胸は大きすぎず小さすぎず。ほどよいサイズだと自負してます。


普段は、紫色のスタンドカラーの上着を着てます。


あ、腰くらいまでのハーフマントもしてます。


上着の丈の長さはお尻が隠れるくらい。


上着の下は普通のブラウス。


ボトムは上着の丈より少し長いくらいの薄紫のスカートを穿いてるわ。


勿論、見えない様に対策もしてあります。


ブーツは膝まで。


華美なものはあまり好まないので平服でも着ません。


戦いの時にはこの服装に胸当てと籠手、籠手は右手のものは手の甲から先はありません。これには理由があるけど、説明はまた後ね。

足にはレッグガードを着け、服の下に鎖帷子を着るわ。


どれも雷を通さないミスリル銀製のもので、軽いし見た目も美しいのよ?


まぁ、それなりに高価なものなのだけどね…



私は、家に伝わる五雷器と呼ばれる神器(アーティファクト)『雷槍 ブリューナク』を継承者しています。

その証拠に継承者の証である「雷槍の紋章」が右手の甲に現れてるわ。


雷を纏う神の槍。私に紫電の如き早さを与えてくれます。


でも、ブリューナクが最も力を発揮するのは投擲時なの。


私が雷槍の紋章の力を解放した状態で投擲すると、ブリューナクは神の雷となって敵を穿つの。


さすがは神器。

投擲後に再び再構成されて私の手元にもどるの。


最も、再構成されるまでの間は神器の加護もなくなるし丸腰になるから、本当の切り札としてしか使えないわ。


力を解放すると右手の甲の雷槍の紋章が色を失うの。


ただこれは、自然に私の力が戻ると同時に色が満ちていき、紋章が元の形にもどるとブリューナクが再構築される様になっている。

だから、紋章の状態を確認する必要があるから右手の甲は見えるようにしているというわけ。


このブリューナクのお陰で皆からは『雷公女』って呼ばれてる。


まあ、私の紹介はこれくらいにしとくね。


しばらくの間、よろしくお願いします。



            


季節は初夏。


春も過ぎ、これから一月は穏やかな日和が続きます。


「やあ!」


訓練所に響く私の声。


今、私は槍の稽古の最中だ。


「ま、参りました」


私に槍を教えてくれた騎士から一本取る。


「姫様。もう、家中では姫様のお相手が勤まるものがおりませんね。私もあっという間にぬかれてしまった」


「そんな。サラの指導があったからここまで早く、強くなれました。ありがとう」


私は汗をぬぐい、水を一口飲みながら、目付役の騎士に礼を言います。


「おおう。やってるなぁ」


そこにのそっとやってきた老人。


「これは大雷公、わざわざ訓練所までお越し頂けるなんて」


大雷公 ヴォーダン・フォン・ソール。御年60歳。


顔は年相応の老人だが、その肉体は鍛えに鍛えぬかれている。


『老いて益々盛ん』という言葉が良い意味でも悪い意味でも当てはまる。


現ソール家当主にして五雷器が一、『雷槌ミョルニル』の所持者。


つまるところ、私の父親。祖父ではない。


比類なき剛力を持ち、武勇伝は数知れず。


その武勇から皆は父のことを「大雷公」と呼ぶ。




手を着けた女の数も数知れず。


でも、子供を授かったのは齢も40半ばになってのこと。


しかも、ただ1人、それが、私。


「お父様、こんなところにどうしたの?」


「何さ、可愛い娘の上達具合を見にな」


と、お尻に手が伸びて来たので槍の石突きで足の甲をグリグリやる💢💢💨


「それで、娘の尻でもさわりに来たの?」


私はジト目で父を見る。


我が家の家中の女子にとってはこんなこと日常茶飯事だ。


全く…娘として恥ずかしい💢


「お、おう。そういうわけじゃねぇ」


父は咳払いをして話し始める。


「お前。もう、家中では相手がいないそうだな。武勇を誇る当家としてはその成長は喜ばしい限りだ」


私はまだジト目で父を見据え、無言で話を進めさせる。


まぁ、私達くらいの年頃の女子からすれば父親への対応は、こういった塩対応よね。


「どうせ、お前の事だ。もっと槍を上達させたいと思ってるだろ?」


父や先程の私の教育係の騎士、サラのいう通り、家中ではもう、私の相手が勤まるものがいない。


「手近なところに、いい相手がいるんだが?どうだ?」


珍しくまともな話に私も声にだし先を促す。


「ホルスさ」


「ホルス様?どうしてホルス様が?あの方は、剣の使い手では?」


ホルス様とは。


当家と懇意にしている同じくユーグラシス王国の公爵家の1つ、フェルディナント家の公子です。


王国1の剣の使い手で、背も高く、美男。


歴代数少ない王国聖騎士にも任命されている凄い方なの。


そのフェルディナント家には同い年の幼馴染み、フィリーもいるので、私も幼少の頃からよく遊びに行った間柄。


「あいつは、あまり知られていないが、ウェポンマスターなんだよ」


ウェポンマスターとは。


基本武技とされる、剣術、槍術、斧槌術、弓術、体術の5つつの技術を一定以上の水準で身につけた方の称号です。


武技を修める者としては憧れの称号。


「ホルスに稽古でもつけてもらいに行ってこい」


「それは、いいのですけど。他に何か目的とするものもあるのでしょう?」


父がただ槍の稽古だけでわざわざ今の私をフェルディナント家に行かせるような事はしないと思う。


「まあな。ホルスには先だってお前に結成させていた騎士団との合同訓練も頼んでいたところでな。向こうの準備が整ったと連絡が来た。いつでも来てくれ、とのことだ」


父の言う様に、私は最近になり、自分の発想のもと私設の騎士団を結成させていた。


勿論、父にやってみろ。と言われたからだけど。


とは言っても、私は用兵についてはまだまだ素人。


練兵の仕方もまだよく分かっていない。


それを見越した父の判断だろう。


「そうなのね。分かりました。では、善は急げ」


私はサラに目を配らせ


「サラ。午後の練兵は中止します。明日、フェルディナント家に向かいますから各員にその準備をさせて下さい」


サラは一例して「承知しました」とこの場を去っていきます。


私も自分の準備は自分で整える。


サラの指導で「何でもやってもらう人に人は仕えません」と子供の時に言われて以降、基本的に自分でできることは自分でしている。


フェルディナント家に行く準備も自分で早々と整え、午後は最近習い始めた法術のレッスン。


何でかと言うと、私の構想した騎士団のため。


騎士団は槍兵が前衛を務め魔法の使い手が後衛から援護する戦い方をイメージしたの。


ただ、その騎士団を率いる者が魔法が使えない、となったら恥ずかしいでしょ?


「エスネア様は法術にも才能がおありですな」


家庭教師はそう言うけど、私の満足には足りないかな?


昔から武勇を誇る家柄のため、どうしても家中に魔法が得意な者が少なくなってしまう。


よくないわね…


そう思った私は自ら率先して魔法を勉強し始めたところなのです。


魔法のレッスンも終わり、夕方。


先生からは「なかなかスジが宜しゅうございますよ」と誉められた。


明日、フェルディナント家に出立する。


ホルス様は勿論、フィリーに会うのも久しぶり。


サラとフェルディナント家への道筋を確認した上で今日は早めに休むことにした。


当家からフェルディナント家への移動にはほぼ丸1日を要する。


20名以上の行軍となるともっとだろうか?



私は、フェルディナント家での鍛練を楽しみに、ゆっくりと休むことにしました。



さて、今日はここまで。


フェルディナント家に向かってからの話は別の機会になります。


それでは…

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