外は雨、初瀬ちゃんは曇る。
ざぁざぁ、と雨が降り、雨水が窓を叩きつけている。
ときおり、ひゅごぉ、と風がなる。
階段を駆け上る足音が聞こえてきた。
それはだんだんと近づいてきて、部屋の前で止まった。
インターフォンがなる。
ぴっ、とモニターをつけると、傘をしまっている途中の初瀬さんがいた。
「はい」
「あの、初瀬です。実は、報告したいことが、あって、急遽、訪問させていただきました。お会いできませんか?」
荒い息を隠せないまま初瀬さんはそう言った。
「もちろん、いいよ」
「ありがとうございます!!」
妙にテンション高いなぁ、なんて思いながら、玄関の扉を開ける。
「こんにちは!」
やはりテンションが高い。どうしたの? と聞くまでもなく、初瀬さんは言った。
「友達ができました!!」
急なことに、驚くけれど、おめでとう、と祝う。
「祝ってくださって、ありがとうございます! 実は、友達ができたのは、あなたのおかげでしかないんです!」
どういうこと?
「あのですね。昨日ので、で、でーとぉ……と、とにかく! 昨日、2人でいるところをバイト先のクラスメイトに見られてたんです!」
「それで、か、かれし、なの? って話しかけられてですね。ご迷惑をおかけしてはいけない、と思って、クラスに馴染めないから笑いの練習につきあってもらっている人だ、って説明したんです」
「そしたら、かわいい、って言われて、すごく恥ずかしかったんですけど、それがまたなぜか受けて……。初瀬さんのイメージがらっと変わったって、友達になろう、って言ってくれたんです」
それなら良かった。
「なるほど、それで友達ができたんだ」
「はい。食い気味に、お願いします、って言っちゃって、それもまた恥ずかしかったですけど」
なるほど。初瀬さんの性格を可愛いと思える子なら、きっといい友達になれるだろう。
ならば。
「じゃあ、俺の役目はここで終わりだね」
そういうと、初瀬さんの顔が凍った。
「友達ができたなら、もう頑張る必要もないでしょ?」
「あ、それは、そう……ですね」
「うん。俺も役に立てない以上、夕食作ってもらうのは悪いしね」
「夕食くらいは別に。でも……たしかに、私に付き合わせてしまうのは申し訳ないです」
初瀬さんは、暗い顔で続ける。
「今まで、ありがとうございました。本当に、本当に、感謝してます。ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しいときをありがとう」
玄関をしめようとしたけど、初瀬さんは動かない。
「初瀬さん?」
「……」
「初瀬さん?」
「えっ、あ、はい。すみません、それでは」
初瀬さんが部屋に帰るまでの、たったの数歩の重さは、ゆっくりと、キー、と鳴る玄関扉が閉まっていく音が表しているようだった。
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