街ブラで笑いとりたい、初瀬ちゃん 3


「食事も珈琲も凄く美味しかったです! ああ、また行きたいなあ……ってあ、つきました」


「ここは?」


「百均です!」


「何するの?」


「百均でウインドウショッピングです!」


「ひやかしかあ……」


「ひやかしとか言わないでください! 誰かに聞かれたらどうするんですか!? 冷たい目で見られますよ!?」


 あわわ、と止めてくる初瀬さんに、ごめん、と謝っておく。


「わかればいいんです。さぁ、ウインドウショッピング行きますよ」


 初瀬さんは、か細い声で言う。


「さて、どんな窓があるのかなぁ〜?」


 聞かなかったことにしよう。


「窓、買いたいなぁ〜」


 ……聞かなかったことにしよう。


「た、たしかぁ、ウインドウは日本語で窓って言って〜、ああ〜、窓買おうかなぁ〜」


 せっかく聞かなかったことにしてあげたのに。仕方ない、せめても、のってあげよう。


「いい窓あるといいね」


「はい、いい窓があるといい……じゃ!! ないです!! 窓!! 百均に売ってるわけないじゃないですか!! 窓!! ボケです、ボケ!! 窓!!」


 優しさで、そうだったんだ、と言い、本当の目的を尋ねる。


「うぅ、本当の目的はですね、窓を買いに来たのではなくて、これだけ商品があればボケやすいかと思ったんです」


「そうなの。頑張って」


 グッと初瀬さんは拳を握った。


「励ましありがとうございます! 絶対笑わせて見せます!」


「でも無理はせず、普通に欲しいもの見て回らない?」


「勿論、欲しいもの見ながらです。じゃないと、ひやかしになっちゃいますから」


 さあ行きますよ、と歩いて行った初瀬さんについていった。


「何があるかな〜、あ、このペアカップ可愛いです!」


「あぁ〜、うちで飲む時にあればいいもんね」


「はい、お伺いした時に、お借りするのも気が引けるので……って、先に使い方を言わないでくださいよ! ボケどころなのに!」


「ええ、ごめん。じゃあどうぞ」


「ありがとうございます、い、いきますよ〜。え〜と、あの〜、錦鯉を飼うのにちょうどいいカップですね!」


「そうだね」


「そうだね……じゃないです! 鯉です! 鯉!! 錦鯉をカップで飼えるわけないじゃないですか! 金魚じゃないの? って突っ込むところです!」


 それはそれで、おかしいんじゃないでしょうか。まあ可哀そうなのでのってあげる。


「どんな金魚を飼うの?」


「え、どんな金魚を飼うのって……じゃあ……そのぅ、デメキン飼います」


「名前は?」


「な、名前!? え〜と、クロちゃんです……」


 初瀬さんは肩を落とした。


「……次行きましょう」


 とぼとぼ、と歩いていた初瀬さんだが、パッと目を輝かせる。


「キッチンスポンジ、これいいですね!!」


 ふんふん、と物色したのち、あ、と声を上げた。


「こぉれぇでぇ〜、お背中、お流ししますね♡」


 艶やかに、最後は可愛らしく言った初瀬さん。ネタなのはわかっているが、からかいたくなったのでからかってみる。


「うん、じゃあ頼むよ」


「うえっ!? 頼まれちゃった!? や、やぶさかではないですけど、う、うぅ、だ、だったら!!」


 ぐい、と腕を引っ張られる。


「こ、こっひのボディタオルでなら、させていただきましゅ……」


「冗談だよ」


「え……冗談? わ、わかってましたけどね! こっちだって冗談ですよ、ほ、本気にしちゃったんですかぁ、ぐすぅ、可愛いですね」


 声が潤んでいたので、申し訳ないことをした、と思っていると、初瀬さんがボディタオルをカゴに入れた。


「買うんかい」


「買うんかいって買いますよ! まだ2%くらい使う可能性残ってますからね!」


 そう言って恥ずかしそうに他売り場に向かう初瀬さん。


「あ、これいいです! すのこ!」


「そうかな?」


「すのこ!」


「すのこ?」


「すのこ……名前、面白いと思いませんか?」


 首を振ると初瀬さんは肩を落とした。


「うぅ、ちゃんと面白いことしないとダメそうです」


 どうやら笑わせなきゃ、と必死になっていて、楽しめていないご様子。なら。


「あのさ、無理に笑わせようとしたら、逆に笑えないよ」


「え、そうなんですか?」


「うん。だからさ、初瀬さんが楽しいことをしようよ。それで初瀬さんが笑ったら、俺も多分笑っちゃうと思う」


「え、えと」


「映画とか好き?」


「え、映画は好きですけど……」


「じゃあカゴの中のものを買って映画見に行こう」


「あ、待ってください!」


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