街ブラで笑いをとりたい初瀬ちゃん 2 


 言われてきた喫茶店。店内の雰囲気はログハウス風で控えめにもお洒落。ゆったりとしたカフェミュージックが流れているため、心が落ち着く。


「落ち着きません」


「何でよ」


 テーブル席に座って開口一番そう言った初瀬さんに尋ねた。


「こうお洒落な所にくると私みたいなもんが、とか思っちゃって、そわそわしちゃいます」


「初瀬さんクールだし綺麗だからよく似合ってるよ」


「う、嘘です! クールでも綺麗でもないので、似合うはずがありません! それより、注文しましょう。メニューです、お先にどうぞ。私は決まっているので」


 こういうお店には珍しいけれどテーブルにメニューがあった。


 俺は一番人気と書かれているブレンドと焼き菓子のセットを選ぶと初瀬さんは笑った。


「あ、やっぱり! ブレンドと焼き菓子のセットにするんですね! この店の売りを一発で理解するなんて流石です! 私も同じものを頼もうと……ちょっと待ってください」


 突如、再考タイムが入った。


「うーん、その、えーと……」


 初瀬さんはうんうん唸って悩んでいたが、ふと気づいたように慌て出した。


「あわわ。すみません、お待たせしてますよね?」


「いいよ、ゆっくり決めな」


「い、いえ。注文自体に迷っているわけではなく……」


 初瀬さんは小恥ずかしそうに言う。


「ボケるチャンスなのかなぁ〜、と。それで、どうボケようか考えてまして……」


「そういうことなら悩んでいいよ」


 あまり長いと迷惑かかっちゃうからダメだけど。


「大丈夫です、お時間はとらせません! ぱっとボケます!」


 えーと、その、あのー、と悩んだのち、そうだ! と声を出した!


「私お腹減ってて、すっごくチャーハンが食べたかったんです! だからチャーハンにします! ああ〜チャーハン食べたいなぁ〜」


 と初瀬さんはボケた。お冷を持ってきた店員のお姉さんの存在に気づかず。


 ことん、とテーブルお冷やが置かれる。


「お客様。大変、申し訳ございません、当店にはチャーハンがございませんので……。もしよろしければ、こちらの……ふふっ、ミ、ミックスサンドはいかがでしょう? 味、量、共に……うふっ、当店の自慢の料理になりますが?」


 いい性格した店員のお姉さんが、必死に笑いを堪えているのだ。俺も笑うまい。 


「———っ!! そ、それでお願いします!!」


「かしこまり……っくふっ、ました。お客様は?」


 俺はあらかじめ決めていたものを頼む。


「ブレンドと焼き菓子のセットですね。かしこまりました」


 伝票にボールペンが滑る音がなり終えると、いい性格した店員のお姉さんは初瀬さんを見た。


「なるべく早くお持ちいたしますね、ふふふっ」


「————!!!!!」


 羞恥を耐える声にならない声を初瀬さんは出した。もちろん、顔は真っ赤である。


 店員さんが去ると、初瀬さんから小声の早口が漏れた。


「恥ずかし、恥ずかし、恥ずかし、恥ずかし、恥ずかし、恥ずかし」


 かわいそうなので、何とかフォロー入れてみる。


「よかったね。笑いとれたじゃん」


「笑いとれたけど、よくないです! 私は貴方を笑わせたいんです! それに何より、こんな笑いは望んでません!!」


 うぅ……と初瀬さんは落ち込む。


「それに、お目当てのものを頼むことが出来ませんでした。お腹鳴らないよう、朝ごはんちゃんと食べてきたから、量のあるミックスサンドは重いです……」


「気にしないでいいよ。ミックスサンドは俺が食べるから、初瀬さんはお目当てのコーヒーと焼き菓子のセットを食べなよ」


「え、だ、ダメです、ダメです! 交換するのはダメです!! 申し訳なくて、申し訳ないです!」


 相当、パニクっている模様。


 別の提案をしてみる。


「じゃあ、わけよう……って、い、いいんですか!? ま、マグカップだと間接キスになりますけど!? し、してもいいですか!?」


 俺はそれは違うと説明する。


「コーヒーは私が飲んで、他はわける? う、うぅぅぅ、だったら! 最初からそう言ってください! てか飲みません! 申し訳ないって言ってるじゃないですか!!」


 仕方がないので、店員さんを呼ぶ。


「え、店員さんをどうして呼ぶんですか?」


 戸惑う初瀬さんをよそに、追加注文する。


「かしこまりました。ブレンドを追加でもう一杯ですね」


 店員さんが去ると、初瀬さんは頭を下げた。


「すいません。気を遣わせてしまって……」


「気にするようなことじゃないよ」


「気にするようなことじゃないって……もう」


 初瀬さんは、どこまで優しいんですか、とぼそりと呟いた。


 まだ気をつかってるようなので冗談口調で言う。


「お礼は笑わせてくれればいいよ」


「……は、はい! お礼が笑わせることでいいなら、絶対に笑わせてみせます!! そうと決まれば……って元からですが、ここからどういうプランにするか……」


 思案を巡らせる初瀬さんを見ていると、美味しいコーヒーが飲みたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る