ラストダンス!

〇イモータル化したトニー。コッコとマータ。そしてイナバの戦い。


・「そんな……こんなの、滅茶苦茶すぎる……!」

・鉛色の空の下で、巨影が立ち上がる。

・イモータル。不死。オチミズを得て理性を無くし、本能のままに暴れまわる存在。

・トニーは。その異能の強さから災害級の異常存在となり得た。

・「これはもう決闘がどうとか言ってる場合じゃねえな……逃げるぞコッコ」

・「いや、もう遅い……」

・ハッキリと、トニーは空色の目でコッコ達を見下ろしていた。

・味が欲しい。食べたい。ただそれだけの、それだけに強い思いが、怪物と化したトニーを突き動かしていた。

・泡立つ肉の腕を振り上げて、振り下ろす。

・コッコはマータを抱えてギリギリでよけきったものの、その風圧で吹き飛ばされてしまう。

・防御も成り立たない。まっとうな戦いにならない。

・相手の動きは緩慢に見えるが、巨体であるが故にそう見えるだけで、スピードそのものはだいぶ速い。

・だから分かってしまう。トニーが左手をつき、右手をつき、そして逃げ場が無くなった所でコッコとマータを口で食らってしまうだろうことは

・コッコはマータを抱き寄せるが、それ以上のことはできない。

・防御は無駄で、逃げることすらもう、既に間に合わない。

・コッコに迫る、列成す牙。

・その向こうの、まっくらな穴。あれが石炭袋か。

・「ココねー!」

・瞬間。その全てが吹き飛ばされた。

・トニーの巨体が、のけぞり、あお向けに倒れ込んだ。

・倉庫のいくつかが、その背ビレで破壊される。

・そしてコッコとマータは、すでにその場所にはいない。

・『マータが』コッコを抱えて、空中に浮遊していた。

・「……!? マータちゃんが、何かしたの?」

・「わ、わかんない……だけどなんか……飛んでる!? 飛べる!?」

・いつの間にか尾ヒレモードになっていたマータ。その尾ビレに、不思議な感触を感じる。空気が、まるで水のように重く、粘りがある。身体が、何もしていなくても浮き上がる。

・「ストームルーラーだ! マータが継承した力が、覚醒した! これはマータの異能だ!」

・イナバの計測。マータの霊力値が跳ね上がっていく。クラスⅡどころか、クラスⅢやクラスⅣに匹敵するほどの霊力。

・倒れていたトニーが、尾びれを使って立ち上がろうとしている。マータを、明確な脅威として認識している。あるいは、極上の『味』と理解したのか。

・「で、でもマータよくわからない……あんな大きなもの、どうやって吹っ飛ばしたか……」

・「いいから動いて! 衝撃波が来る!」

・ゆっくりと、イモータル・トニーが右手を泡立たせ、シャコのハサミに転換する

・そしてそれで、衝撃波を放つ。

・「ひ、ひえ……!」

・建造物を根こそぎ破壊するほどの高圧。広範囲の攻撃。避けることは絶望的に見えた

・しかしマータが尾ビレを振るって下がろうとすると、そこで風が逆巻き、衝撃波とぶつかり、打ち消して見せたのだ。

・「そうか! 衝撃波の媒介である大気そのものをかき混ぜちまえば、波動を打ち消せる!」

・「で、でもおかしいよ? マータはちょっと尾びれを振るっただけなのに……」

・「風を起こしているんじゃなく、尾びれを振っただけか? その尾びれの感触が変? つまり……」

・イナバが思い当たる。慣性制御。実質量には変化はないが、それを動かすための『慣性』により大きなエネルギーが必要になる。エーテリウムを重力子として利用する伝説の異能

・「お前が起こした『重い』風が、周囲の『軽い』空気を巻き込んで大きな流れを作るんだ……なるほどクラスⅣなわけだ。どんでもない力だ……」

・「つまり、マータはどうすればいいの!?」

・「動き回れ! とにかくトニーの周りをグルグル泳ぎ回って、大きな風の渦を作るんだ! シャチって言うのは、そういう風に狩りをする者だろう!」

・ラストダンスが始まった

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