スケアクロウ
〇コッコの反撃。スケアクロウ。
・かつて。強い騎士がいた。
・「オレはいつか。誰かに倒されるだろう」
・いつもは飄々とした、そして超然とした、あるいは単に傍若無人な、風のようにつかみどころのない人間だったが、ぼそっと呟いたその一言だけは、不思議なリアリティがあった。
・「あんたがいろいろ恨みを買ってるのは知ってるが、それでもあんたを倒せる人間なんているのかね」
・だから当時の俺は思わずそう返してしまった。
・ナッシング・レイヴン。アナトリア女王騎士第九位。
・序列こそ九位だが、決闘ではただの一度の敗北もないと言われる、最強の騎士。
・かの騎士より素早い者はいる。かの騎士より力の強い者はいる。かの騎士より技巧に優れた者はいる。
・だがどんな人間も。かの騎士に勝つことは無かった。
・その騎士にはどんな称号も似合わない。ナッシングこそが唯一ふさわしい。愚者にして不信心にして虚無たる者。
・「じゃあよ。オレを倒せるアーキタイプを作ってくれよ。アーキテクト」
・それは挑戦状だった。俺は面白そうなので引き受けた。
・ほどなくして、試作品が生まれたが、いずれも要求スペックを満たすことはなかった。
・スピードを重視したLEO。パワー重視のWOODSMANはかの騎士には簡単に対策されてしまった。ならばと、三つ目にSCARECROWを作った。
・しかし
・「無理だな」
・使いこなせる人間がいなかった。アーキタイプの性能が追いついても、それを動かす人間の能力が追いつかないのだ。
・「まあ、面白かったぜ。こいつは貰っていく」
・三機の試作品は、そのままレイヴンに渡した。
・まさかそんなものを、レイヴンが他人に譲り渡すとは思わなかったが
・「なるほど……これは……!」
・着装した瞬間、コッコの脳内に霊子頭脳から大量の情報が流れ込んでくる。
・コッコ周囲に滞空するジャノメ・リコンからもたらされる情報が、OSによる処理をされずほとんど生の状態で流し込まれているのだ。常人なら一瞬で目を回していることだろう。
・だがそれも、数秒で落ち着いた。
・まっすぐに立ち、武器を構える。
・「なんだあ……? そのアーキタイプは」
・トニーも首を傾げる。
・当然だ。SCARECROWには装甲もパワーアシストも必要最小限しかない。あるのは観測装置だけで、一見するとただの偵察用だ。戦闘用には見えない。
・「まあいい……そっちが動かないなら、こっちのターンだ」
・トニーは再び、ブロックをコッコの頭上に落とす
・割れた
・コッコに触れる前に、ブロックが真っ二つに割れて砕けたのだ。
・「……今、何をした?」
・続けてトニーがブロックをぶつけようとするも、コッコを潰すことはない。届く前に砕ける。
・ならばとトニーはプラズマガンを展開し斉射するが、これもコッコに届くことなくかき消えてしまう。
・「面白い!」
・背中のウォータージェットを使い、トニーが突進する。そして拳を撃ち込む。
・弾かれた。
・感触で理解できた。一瞬だけ、コッコのイエローブリックロードが出現し、消えたのだ。
・「馬鹿な。こんな固さはなかったはず……」
・「それは、キミが最も弱いレンガしか知らないから」
・目を閉じたままコッコが答える。
・「未来は未だ来ずまだない。過去は過ぎ去りもうない。ただ今。ここには今だけがある……今、ボクはイエローブリックロードの効果時間を5/60秒に制限した上で、一個ずつしかブロックを出せない」
・「ハア? なんだそれは弱体化だろう」
・「代わりに。ブロックの強度は何十倍にも増している。こうなったら、キミのどんな攻撃でも防ぐことができる」
・「やってみろ!」
・トニーが連続攻撃。
・左右の拳。ブロック
・上段と下段の回し蹴り。ブロック。
・噛みつき。背ビレを利用した斬りつけ。ブロック。
・そしてチェーンマイン
・爆雷がチェーンから外れ、広範囲を吹き飛ばす。
・しかし。
・コッコは既にブロックを使い、空中へ飛んでいた
・スケアクロウの観測能力。それはトニーの霊力の波を感知し、そしてフォースフィールドの隙間を見つけることすらできる。
・人間には盲点が存在する。それは異能の力を得ても変わりない。均一で完璧な防御を備える人間はそうはいないのだ。
・そこへ向かい、コッコは剣槍を突き立てた。
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