決戦編

未明の帰還不能点

〇もう一度マリカと話すコッコ


・集中するため、外部接続を切ってスタンドアロンになるイナバ

・ただのぬいぐるみのように、動かなくなる。

・コッコは目覚め、出立の準備をする。

・ブーツを履いて、コートを羽織り、羽根帽子を被る。

・そしてプラットフォームから階段を昇り、別のホームを目指した。

・トニーが指定した場所は埠頭の倉庫。であるなら、9番線のホームからなら電車があるはず。

・地下通路を通って、いくつか階段を昇ったり降りたりして。

・そしてホームへと続く階段の中間で、マリカが待っていた。

・道士服ではなく、真っ赤なドレスに身を包んで。

・「わっさー。マリカさん。やっぱり洋服の方が似合っているね」

・「コッコさんも、お元気そうで」

・「おかげさまでね」

・首を傾げるコッコ。珍しく皮肉っぽい反応。

・「私共はこの街の秩序を護るために選択しました。故にコッコさんへ個人的な恨みはございません。その上でコッコさんが我々と対立するのであれば、また対応は違ってきますが……」

・「このまま引き返せと。マリカさんも言うの? 状況は知っているんでしょう?」

・「既に水上警察も動いています。オルカ族の少女がトニーに人質にされ、捉われていると」

・「そう……」

・階段を降りるコッコ。すれ違い際に、マリカが手を出す

・その先には、一枚の紙切れ

・「当ホテルの最上級スイートルーム。その無料宿泊券ですわ。お詫びとしてこちらを差し上げます」

・「いらないよ」

・「そうですか? ペア用チケットですのに」

・「…………」

・黙ってチケットを受けとるコッコ

・それっきり、マリカは手を下ろす。コッコを阻まない。

・「わたくし共は企業です。『投資』の対象も、より利益が望める者に投資いたします」

・「マリカさん……」

・「水上警察にはしばらく待機させましょう。どうせ無理でしょう。アナトリアの騎士が『説得』に行くと伝えておきます。ほら。電車がきましたわよ」

・ブレーキの音。金属が軋む音。

・地下鉄ホームに電車が滑り込む。

・「……お礼は後で言うね! とりあえずマリカさん! お元気で!」

・階段をかけ降り。電車に乗り込むコッコ。

・閉まるドアから見上げても、マリカがコッコを振り返ることは無かった。

・ほどなくして電車は発車し、次の駅へ向かう。

・三駅ほど行けば埠頭の倉庫へはすぐに着く

・コッコはがらがらの車内でもシートに座ることなく、地下道を進む真っ暗な窓の外を見ていた。

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