女の子を優しくあたためよう

〇都市の地下のステーションに逃げ込んだコッコとマータ。


・マータが水面から顔を出す。

・胸にぐったりと動かなくなったコッコを抱え、水面から引きずり出す。

・あちこちが浸水した地下空間。天気輪の柱が半分折れていることから、放棄されたステーションだと思われた。

・地下鉄駅のプラットフォームに上がって、コッコを寝かせるマータ

・「ココねー! しっかりして!」

・頬を叩いて意識を確かめるが、反応が悪い。呼吸はかろうじてあるが、脈拍が弱い。

・「まずい。低体温症だ! ダメージを受けすぎてフォースフィールドが機能低下してるんだ」

・「低体温? もう二月なのに?」

・「まだ二月なんだよ。この辺りは水流も速いし、水の体感温度が低い。早いとこ身体を温めないとくたばっちまうぞ」

・「で、でもどうしよう……水に浸かったから火種なんて……」

・「何を言ってる! 熱源ならそこにあるだろ!」

・イナバはマータ自身を指で差す。

・「……マータが?」

・「俺はもうただのオモチャだし、バッテリーの熱だけじゃどうしようもない。この場で一番熱を持ってるのはお前だけだ」

・「でもそれって……」

・「とにかく早く服を脱いで抱き合え! それが一番早い!」

・「全部?」

・「全部だ!」

・「下着も?」

・「下着もだ!」

・意を決して、コッコの服を脱がしにかかるマータ。せっかくのベストやシャツだが、脱がせるしかない。

・「イナバ! ココねーのおっぱい大きい!」

・「そりゃ良かったな!」

・「よく見たら腹筋ちょっと割れてる!」

・「アーキタイプのパワーは元の体力に依存するからな。それなりにタフじゃないとあんな戦い方できん。体脂肪率も低いんだろ」

・「……ねえ、ココねーって、女の子……だったよね?」

・「ああ、それか」

・イナバは振り向かず伝える

・「アナトリア人の40%ほどは雌雄同体……完全な両性具有だ。男も女も両方ついてる。卵も種も両方持ってるってわけだ」

・女性しか生まれない国。アナトリア。

・だから、男性の機能を持った女性が生まれる。

・「そこら辺は俺からは何ともよくわからん。肉体的には『両方』なのに、精神的には『女性』というんだからな。だがまあ、本人が言うんだったらコッコは女なんだろ」

・「そっか……」

・「……おい。言っておくが、姿形はどうあれ、コッコは俺とマータを救ってくれたことには変わりないんだから……」

・「あ、違う。違うの。そうじゃなくて」

・マータは少し、はにかんで

・「かわいいって。そう、思った、だけだから……」

・「……なら、さっさとあたためてやりな」

・防水シートを持ってきて被らせるイナバ。ないよりはマシ。さらに、古雑誌がいくつか捨てられていたので、バッテリーを利用して火を熾す。

・「イナバ。ストームルーラーって、なんなの」

・「詳しくは俺も知らん。ただ、クラスⅣと指定された異常存在だ。軽く見積もっても、都市一つ破壊するくらいの力はあってもおかしくない」

・「そんな大変な力が、どうしてマータに……」

・「原因はいくつもあると言えるし、何も無いとも言える。一個一個説明してやってもいいが、今の状況で意味があることとも思えんな」

・「マータは。死ぬの?」

・「誰だっていつかは死ぬ。イモータルでも無い限りはな」

・「マータは。どうしたらいいの?」

・「お前はどうしたい? すべてを変える力がその手にあるとして、お前はそれを何に使うつもりだ?」

・「…………」

・答えられないマータ。これまでの人生に、選択肢などなかった。

・岩礁に生まれて、そこで生きると言われ、しかし逃げてきた。選択したわけではなく、選択から逃げただけだった。都市でも逃げていた。

・自由になりたいというのも、あるいは自分を騙すための嘘だったかもしれない

・したいことなんて、無かったのかもしれない。

・「取り込み中だったか?」

・水面から声

・影から浮き上がるように、トニーが現れた。

・「仲良くしてるのを邪魔するようで申し訳ないが……あの程度で逃げ切れたと思われるのも心外だ。なあ?」

・マータはそれでも、トニーをまっすぐに見上げ、コッコを抱く手に力を込めた。

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