最高の元型師。ぬいぐるみに転生する

〇イナバ登場。状況確認。そして襲撃


・この記録を読んでいるような人間にわざわざ説明するまでもないとは思うが、かつて紅港には天才と呼ばれたアーキテクトが居た。

・彼は労働者組合にも雇われ、労働者のアーキタイプの調整も行っていた。

・もちろん彼の実績を鑑みるならば、労働者組合でなくても企業や財団で働くこともできた。

・だが彼自身あまり大きな組織は好きではない。あくまで雇われアーキテクトとして組合と付き合っている立場の方が、気が楽だったのだ。

・けれども。彼はある問題がきっかけとなり労働者組合に追われ、その末に自爆し、命は失われた。

・彼の人生はそこで終わった。

・だが俺はタダでは死ななかった。記憶と人格を霊子頭脳に移殖し、ペットロボットの中に隠していたのだ。

・もちろんこのねぐらも組合にはバレている。だから合言葉を用意し、このペットロボットもそれ無しには起動しないような仕組みにしていた。

・それ故に、組合のモノも手がかりらしいモノは何も見つけていないだろう。せいぜい、ディスクドライブの破壊されたパソコンやゲーム機を持っていくくらいしかできなかった。

・だが。

・事態は既に、イナバの予想外の展開を見せていた。

・「いいや。お前はレイヴンじゃないな? 誰だ?」

・ガラクタの山の中から、複数の小型オートマトンが起動。それぞれの手に安物の拳銃を携え、コッコに銃口を向ける。さらに、飯盒のような形をした対人地雷が起動状態になる。

・「わっさー。いや。落ち着いて。困るよ。そんなものぶっ放したら部屋がめちゃくちゃになっちゃうよ」

・「生憎もう部屋は組合の奴らが散々ひっくり返した後さ。それに、こいつはオチミズ・ゼリーを塗布した特殊弾だ。異能者だからって遠慮するな。たっぷり食らえよ」

・「ええと……本当にボク。怪しい者じゃないんだよ。レイヴン先生の弟子だよ。ほら。このコートもアナトリアの巡礼騎士のモノだよ」

・両手を挙げて、コートの背中の聖印を見せるコッコ

・「ああ。そうだ。レイヴンは確かにアナトリアの女王騎士だ。だが弟子がいたなんて話は聞いてねえな。それにそのコート。巡礼騎士だ。騎士としては一番格下だ」

・「うう……詳しいね。確かにボクはあんまり優秀な騎士じゃないけど……」

・「俺の起動のための合言葉はどこで手に入れた?」

・「それは……これ……」

・携帯電話を取り出して、その画面を見せるコッコ。レイヴンから送られてきたメールに、合言葉が記されていた。

・「あいつ……機密情報をメールなんかで送りやがって……」

・「えと、信じてくれる?」

・「いいや余計に疑わしい。物理的な手紙で送ってくるならともかく、データ化された情報じゃ偽装なんかいくらでもできる」

・「そんなあ……」

・「あの……ココねーは、悪い人じゃないと……思うんだけど」

・廊下からマータが顔を出す。おそるおそる

・「……こいつは?」

・「ボクの友達。ここまでタクシーで案内してもらったんだ」

・「ココねーは、組合に絡まれていたマータを助けてくれたし……組合の仲間じゃあないよ」

・「そうかそうか。じゃあリヴァイアサンのエージェントかもしれねえな。わざとらしくなったぞこの野郎」

・「リヴァイアサンでもないよー! ボク勉強も得意じゃなかったし! 大企業とか無理!」

・「ンなのは見た目でわかるわ! 泣くな馬鹿!」

・「ストームルーラー!」

・その単語をコッコが叫ぶと、一瞬空気が止まる

・「……メールの最後に。ストームルーラーが届いていないって書いてあった。先生が受け取って、財団に渡すハズだったんでしょう? でも先生が受け取った荷物に、ストームルーラーはなかったって」

・「……なんだと?」

・瞬間

・「ココねー!」

・マータが叫んだ瞬間、部屋が『ひっくり返った』。全てのモノが突如として吹き飛ばされ、ひっくり返された。

・『攻撃』が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る