九朧城編

住めば魔窟の九朧城

〇コッコとマータ。九朧城へ


・騒ぎになる前に、マータの船で貧民街を離れるコッコとマータ

・ガソリンエンジンこそついているが、船体はボロボロなボート。マータはこれで水上タクシーをして生計を立てている。

・市街地ではリヴァイアサンの許可のないタクシーは違法だが、貧民街や港湾区では労働組合の力が強いため、なんとか誤魔化せる

・ただし労働組合は貧民街の者からも組合費を巻き上げるため、今回のようなトラブルに巻き込まれることもある

・コッコが助けてくれたのには感謝している。助かった。

・でもコッコがこれから行こうとしている場所は、危険すぎる。マータは警告する。

・「騎士さん。九朧城は危ないよ? 確かに最近は東棟にエビ剥き工場があったりしてちょっとマシになってきたところもあるけど、西棟はダメ。あそこには、盗人市場の泥棒だって近づきはしないんだ」

・九朧城。運河で分けられた紅港の街において、島全体がスラムとなった街。

・元々は地下鉄駅を中心に発達した市街地だったが、地下鉄戦争により管理局機能が停止。さらに気候変動によって島が水没してしまい、管理が曖昧な隙に貧民街以上の無法地帯となってしまった。

・地下から建設資材を奪い取り、これを積み上げて作ったビルは十階以上にまで積み上がっている。高さだけなら市街中心のビル街にも匹敵する。それが海の中にいきなり現れるので、遠目からは大きな鯨か怪獣のようにも見えた。

・「見た目だけじゃないよ。水没した地下にはイモータルだって現れるって噂だよ。『九朧城は人を食べる』って、みんな噂してる、ます」

・「……それでも、行くの? です?」

・「行くよ。依頼だし。騎士だからね」

・ボートは西棟のエントランス……が。水没した二階窓付近に入っていく。九朧城内部はほどんと光は無く、コッコは光のレンガを明かりの代わりに掲げた。

・「待って。マータも行く。その住所だったら、マータもちょっとは案内できるから……ます」

・気持ちが落ち着いて、尾びれを人間の足に『戻す』マータ。

・刺青に掘り込まれた、これもスキルの一種だ。

・「……それなら。条件」

・コッコはマータの唇を指さす

・「無理して丁寧に喋ろうとしなくて大丈夫。ボクのことも、呼び捨てでいい」

・「えと……コッコ……」

・「うん」

・「……えっと。その名前……この都市の言葉だと『お兄ちゃん』って意味に聞こえるから、なんか変な感じ……」

・「うん? なんだそういうこと。別に気にしないのに」

・「だから、その『ココねー』でいい? 発音もしやすいし……」

・「構わないよ。マータちゃん」

・コッコとマータは九朧城内部を進む

・入り組んだ廊下を進み、階段を昇り、階段を降りて、路地の隙間に潜り込み、配管や配線を跨いで進む。時にはビルとビルの隙間を飛び越えたりもした。

・途中。悪夢病に侵され、眠ることもできず髪や眼から色彩が失われた者も見た

・コッコもマータも。話しかけたりはしない。もう手遅れであることがわかっていたから

・悪夢に影を奪われた人間は、二度とそれを取り戻すことはない。

・そうして『西棟1301号室』の部屋にたどり着く。

・コッコはインターホンを鳴らす……のではなく、ノックを三、三、七のリズムで鳴らす。

・「合言葉だ。合言葉を言え」

・インターホンごしに答えてきたのは男の声。ただしノイズがひどくて、年齢など他の情報はわからない。

・「……なめこ、おろし」

・「よし。入れ」

・インターホン越しにやり取りを終え、コッコは扉を開け、中に入る。

・一人暮らし用のワンルーム。ただし、あちこちにオモチャやゲーム機のガラクタが散乱している。メタルラックも本棚もひっくり返されっぱなしだ。

・ようやくたどり着いたベッドのある一室で、声が響いた。

・「聖霊は現れ給えり……久しぶりだな。レイヴン」

・そこに居たのは、一台のペットロボット。

・「そして改めてよろしく。俺こそが天才アーキテクト。イナバその人だ。まあ今は、人の身体を捨てているんだがね」

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